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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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赤いバラの咲く庭で 第八話 (38枚)


 あの女は何さまのつもりなんだ。わたしを誰だと思っている。何の不満があってわたしの求婚を拒む? あの馬鹿息子のためか。あんな愚図になんの価値がある? 
 わたしの子を孕め。わたしの息子を生め。おまえに拒否する権利などない。
 立場の違いというものを、思い知らせてやる。
 そうだ。これは躾だ。おまえたちを躾けなおしてやろう。


  第一話  第二話  第三話  第四話  第五話  第六話  第七話  第九話  第十話  最終話




「今日も都合が悪いって……もう一週間も会っていないじゃないか」
 受話器を握りしめる指に力が入ってしまう。
 開いた手で机の上をまさぐる。煙草(たばこ)でも吸わないと大きな声をあげてしまいそうだ。
「……きみがひとり息子を大事にするその気持ちはわかる。しかし、過保護にすぎるんじゃないのかね」
 きっと眉間には深い皺が刻まれていることだろう。
 声を低く落ち着かせるのにひと苦労だ。コードを引きちぎってやりたい衝動に駆られる。煙草はどこだ。灰皿は目の前にあるというのに煙草が見つからない。
 机の上は乱雑に物が置かれていて、どこに何があるのかわからない。
 重なった書類の下を手で探っているうちに、紙の束を幾つか床に落としてしまう。苛立ちは増す一方だった。
「とにかく、いちどきちんと話をするべきだ。今から行く。いいね」
 平静をよそおうことができたのはそこまでだった。
 向こうの電話が切れる音を確認してから、わたしは受話器を本体に叩きつけた。そこではじめて、煙草が電話機のすぐ隣にあったことに気づく。
 あれだけ吸いたかったのに、箱に印刷された銘柄を見るだけで怒りがこみあげてくる。わたしは煙草の箱を握りつぶし、ゴミ箱へ投げこんだ。どいつもこいつも、馬鹿にしている。
 いったいあの女は何さまのつもりなんだ。
 わたしは従業員千人を超す会社の社長さまだぞ。忙しい仕事の合間を縫って会いに行ってやっているというのに、不遜(ふそん)だとは思わないのか。
 誰のおかげで贅沢な生活ができると思っているんだ。わたしの誘いを断れる立場かどうか、よく考えてみるべきだ。
 あの女……芙美(ふみ)に惚れてしまっているのは事実だ。それは認めよう。
 五十にもなって若い女の色香に参っていると笑う者は笑え。だが、それはあの女を知らない男の台詞だ。
 洋画女優にもひけをとらない端整な容姿といい、ときに二十歳前にすら見える若々しさといい、あれほどの女は日本中さがしても見つからないのではないだろうか。
 芙美の魅力は容貌だけではない。夜にもなればあられもない媚態を見せつけ、精を吸い尽くそうと妖艶に振る舞うのだ。ベッドの上で男に仕える姿はおそろしく淫らで、かつ献身的なことこの上なかった。
 抱き心地にいたってはいちいち語るまでもない。いままで寝た女たちとは比べものにならなかった。思い返すだけで下半身が熱くなる。
 芙美と一夜を共にして虜(とりこ)にならない男はいないと断言できる。どんな女も芙美の前では霞んでしまうことだろう。
 関係を持ってから間もなく一年になるが、飽きることなどなかった。あの柔肌(やわはだ)からは一週間と離れていられない。
 わたしは彼女に夢中になっている。それは否定できない。
 だが、しょせんは私生児を抱えたひとりの女に過ぎないのだ。
 それも進駐軍相手に股を開いていたような淫売(いんばい)ではないか。いまでも男に寄りかかっていなければ食費もままならない、娼婦とそう変わらない存在だ。
 そんな女に、なぜ求婚を断られなければならない? 
 春先に結婚を申し込んでからというもの、あの女の態度が目に見えてよそよそしくなっている。電話をかけて訪ねようとしても拒まれることが日を追うごとに多くなった。何が気に入らないというのか。
 聞けば近所づきあいもなく、蔑んだ目で見られて村八分にされているという。
 田舎者どもに後ろ指をさされる毎日から抜け出したいとは思わないのだろうか。あんな古びた洋館で日々薔薇(ばら)を育てているだけで満足だというのか。
 わたしが差しのべてやった手を、喜んでおしいただくべきではないか。勿体(もったい)ないほどの幸福だと感謝してすがるのが当然ではないか。
 それがどうだ。「結婚する気はない」だと?
 もうすこし利口な女かと思ったが、とんでもない馬鹿だ。
 わたしの妻になるということがどれほどの幸運か、あの女は理解していないのだ。
 本来なら妾(めかけ)でもありがたく受け容れるべきところだ。本妻にしてやろうというわたしの好意を無下(むげ)にするなど、けして許されることではない。わたしの優秀な精を注がれて子を生むという栄誉を拒む権利など、あの女にありはしないのだ。
 わたしには子供がいない。
 妻は六年前に亡くなってしまった。以前は子供など邪魔なだけだと考えていた。いなければいないでいいと思っていたが、いまは違う。
 跡継ぎが欲しい。
 経営する会社は急成長を続けている。
 これからテレビの部品はいくらでも必要になる。オリンピックの後もカラーテレビは爆発的に売れていくだろう。将来的には全国に工場を展開していくつもりでいる。
 わたしが一代で育て上げた会社だ。わたしの血肉、わたしの分身といってもいい。
 心血を注ぎ、ここまで大きくした。ますます発展していくのは間違いない。しかし、このままではいずれ他人のものになってしまうのだ。
 それでも構わないと、むかしは思っていた。
 辛苦を共にしてきた仲間たちだ。わたしを支えてきてくれた部下のひとりに会社を譲り、顧問として悠々と老後を過ごすのも悪くない。そう考えていたときもある。
 だが、芙美と出会ってわたしは変わった。彼女は魅力的に過ぎた。女に関しては淡白で、仕事以外に興味をなくしていたわたしの心を奪うほどに。
 自分の子を産ませたいと思った女は、芙美がはじめてだ。何度もベッドを共にするたびに思いは強まっていった。
 もちろん産ませるなら息子がいい。
 男の子が生まれるまで何人でも産ませてやる。そして、わたしのあとを継がせるのだ。わたしの血が、会社を受け継いでいく。これほど素晴らしいことはない。
 しかし芙美はわたしの血を拒んだ。性交の際にはコンドームの着用を忘れない。頭を下げて頼んでも無駄だった。求婚すら拒絶したのだ。
「……わたし、丈のほかに、こどもはいらないの」
 彼女の台詞に、全身の血が逆流した。
 なんとか自分を抑えたが、みっともなく逆上してしまうところだった。芙美は馬鹿息子の名を口にしながら、無垢な少女のように頬を染めたのだ。
 あれは母親の顔ではなかった。まるで初恋の甘い夢に酔い痴れる小娘のように見えた。
 馬鹿げている! そう思いながらも、わたしは動揺していた。彼女の態度にも、嫉妬を覚えているわたし自身にも!
 あんな餓鬼(がき)を相手にむきになっている自分が腹ただしかった。
 芙美はわが子を溺愛しているだけの、愚かな母親にすぎないのだ。深い意味などあるわけがないではないか。
 そもそも芙美は母親としてのつとめをまったく果たしていない。過保護で甘やかしているだけだ。だから息子があんな愚図に育つ。
 挨拶も満足にできやしないし、人の顔色を窺っておどおどしている。何か訊ねても曖昧な返事しかできない。
 学校の成績はいいらしいが、友達のひとりもいないというではないか。躾(しつけ)に問題があるからそうなるのだ。このままではろくな大人になれないだろう。
 甘やかすだけの片親ではまともに育つわけがない。
 丈のためにも、わたしが父親になるのがいちばんなのだ。ひ弱な息子をいちから躾けなおし、鍛えあげて一人前にしてやろう。わたしの血を継いだ息子が会社を継いだ暁には、工場のひとつくらいは任せてやってもいい。
 そうだ。躾だ。
 芙美も馬鹿息子と同じく躾けなおしてやろう。
 愚かな女にも教育が必要だ。優しく扱えばつけあがるだけだということがはっきりした。もう甘えは許さない。まず己の立場をはっきりと身体に刻みこんでやる。その上で、わたしの子を産みたいと自分から懇願させてやろう。
 不快な気分が、嘘のように晴れてきた。
 善は急げだ。わたしは椅子にかけておいた上着をはおると、メルセデス・ベンツの鍵を手にとった。



 洋館の前に着いたときには、すっかり日が落ちていた。
 あいかわらず何もないところだ。
 隣の家まで二キロは離れているし、街灯もない。背後には森が広がっていて、さびれた洋館がますます薄気味悪く思える。館を囲む無数の薔薇までどす黒く見えて、幽霊でも出そうな雰囲気だった。
 誰が建てたものかは知らないが、趣味がいい建物とはいえまい。古く不気味なだけで情緒の欠片(かけら)もない。
 米国製のボイラーや日本ではまだ珍しい給湯シャワーなど、内部の設備が無駄にととのっているのがまた癪(しゃく)に障(さわ)る。
 芙美(ふみ)を情婦にしていたという小僧の父親が館に手をいれたのだろうか。自国からわざわざ取り寄せたのかもしれない。ふん、米国製品などろくなものではない。
 いずれ日本の製品によって世界から駆逐されてしまうことだろう。大きく派手なだけで質に劣るのが米国製の特徴なのだ。
 戦争に勝ったから大きな顔をしているが、米国人の大半は無知でやかましいだけの連中だ。芙美を囲っていた毛唐の軍人とやらも無能でハッピーなだけの愚図だったに違いない。
 とにかく、この館のなにもかも気に食わなかった。
 外観も、内装も、設備も、すべてが。
 だが、考えてみればしばらくの辛抱なのだ。どうせ近いうちに取り壊すことになる。
 結婚するとなれば、悪い噂を招く可能性のある過去は消してもらわなければならない。わたしの妻になるということは、社会的な地位を得るということでもあるのだ。
 わたし自身も、ここに通っているという事実を誰にも知られないように努力している。独身であるから法的な問題はないのだが、娼婦の過去がある女と情を交わしているとなればいささか風聞が悪い。
 結婚するときには芙美の過去を払拭(ふっしょく)し、新たにつくり直さなければなるまい。
 なに、夫を早くに亡くした未亡人だということにしておけばいいのだ。要はこの田舎町で暮らしていたことを知られなければいい。問題は息子が混血児だということくらいだ。これもまあ、後でなんとでもできる。
 そのためにはまず、彼女を説得する必要がある。
 いや、説得というのは同列の立場にある人間に使う言葉だ。教育、いや、調教というほうがふさわしいかもしれない。わたしに抗うことの愚かさを頭で理解できないのだから。今日はその第一歩だ。みっちりとからだに教えこんでやろう。
 インターホンを押すと、小僧が出てきた。珍しいこともあるものだ。いつもはわたしを避けて目も合わさないくせに、どういう風のふきまわしだ? 芙美から来訪を聞かされているだろうに。
「やあ。ママは居間にいるのかい?」
「…………」
 また、だんまりか。そのくせ、拗ねた態度でわたしを横目で見ているのだ。
 ママを取られたとでも思っているのだろう。いいたいことがあるならはっきりいったらどうだ。非難めいた目つきでわたしを見ることしかできないのか。乳離れもできない甘ったれが。
 茶色がかった瞳も、髪の色もすべてが鼻につく。わたしは最初からこの小僧が気に入らなかった。
 まあ、いい。芙美の調教を終えたらおまえの番だ。
 甘やかしはしない。鉄拳をもって容赦なく躾けてやる。
 全寮制の中学を見つけて放り込むのもいいかもしれないな。ママのいない生活はさぞ苦い薬になるだろう。わたしはこれからのことに思いを巡らしながら、丈の横を通り抜けた。餓鬼は部屋でおとなしく泣いているといい。
「い、いらっしゃい……」
 居間の扉を開けると、こわばった顔をした芙美がソファから立ち上がった。
 清潔感のある白いブラウスに、ぴっちりとしたタイトなロングスカートを身に着けている。今夜わたしを受け容れる気がないことを服装で示しているつもりか。こめかみが、ぴくぴくと震える。
 なぜ、わたしがプレゼントしたドレスを着ていない?
 電話してからここに到着するまで、ゆうに一時間以上あったはずだ。着替えるには充分な時間だろう。
 以前の芙美なら命じていなくとも、自分から着用していたはずだ。艶かしさを感じさせる色のついたワンピースを。わたしのために。わたし好みの女になるために。わたしの男を奮い立たせるために!
 それにそのスカートはどういうつもりだ?
 よりにもよってロングスカートとは。脚すら見せたくないというのか。なぜわたしを拒む? 
 いったいどういうつもりなのだ。わたしの女だという自覚がないのか。まさか対等の立場だとでも思っているのか。思い上がりもはなはだしい。
 わたしは激しかけてはいたが、平静を保つようとつめた。
 怒りを爆発させてはいけない。いうことをきかないなら、従順になるまで躾ければいいのだ。飼い犬の挑発に乗ってしまうようでは、これからの調教も覚束(おぼつか)なくなる。飴と鞭を使いわけていこう。まずは飴だ。優しく手をひいてやろう。
「食事は済ませたね? 話がしたい。きみの部屋へ行こう」
「っ……!」
 信じられなかった。芙美はわたしの手を払いのけたのだ。
 こんなことは予想もしていなかった。わたしは怒るよりも驚き、狼狽(ろうばい)の色を隠せなくなっていた。
「ど、どういうつもりなんだ。わたしのことが嫌になったのか……」
 声が震えてしまっている。はねのけられた手も同様だった。
「そういうわけでは、ないけれど……」
 芙美はわたしから目を逸らしていた。長い睫毛が伏せられている。
 綺麗だった。こんなときだというのに、彼女の美しさに目を奪われそうだ。ややぽってりとふくらんだ唇が、今夜も妖しいほどに紅い。
「でも……わたしたち、もうおつきあいをやめたほうがいいかもしれないわね……」
 抑えられなかった。全身の血が沸騰したように熱い。
 許せなかった。許せる台詞ではなかった。その紅い唇で、わたしを惑わす淫らな口で、おまえは裏切りを口にするのか! たかが娼婦の分際で、わたしを捨てようというのか! 
「やっ……! やめて……!」
 わたしは芙美を強引に抱き寄せると、顎をつかんで上向きにさせ、唇を重ねた。
 貪り吸い、柔らかな唇の感触を愉しみながら、口内に舌を侵入させていく。しばらく歯をかたく閉じて抵抗していたが、頬を押さえる指に力を入れるとあっけなく受け容れた。
「んうぅ……ん……」
 そう、受け容れろ。おまえはわたしのものだ。抗うことは許さない。
 わたしは小さな舌をたっぷりと味わい、自分の舌と絡めた。くぐもった声が漏れ、なめらかな頬はひとすじの涙で濡れている。苦しいか、辛いか、芙美。それとも悲しいのか。あるいは両方か。だがまだこれからだ。
 口を塞いだまま、わたしはさらにほそい喉首を上向かせた。
 無理な力を加えたためか、吐息とともに苦しげな声がこぼれる。情けをかける気はなかった。甘い顔を見せれば図に乗ってしまう。鞭を与えるときに躊躇してはいけない。素直に従うようになるまでは、徹底的に苛め抜くことが肝要なのだ。
 わたしは舌に唾液をたっぷりとまぶし、芙美の口内へと流しこんだ。唾液には車のなかで吸っていた煙草のヤニの臭いがしみついていることだろう。今日は歯も磨いてきていない。わたしは臭い唾液をすべて飲みこませるつもりだった。
「ふぅん……んん……」
 子犬のような弱々しい声をあげて、彼女はいやいやと小さく首を振った。
 わたしの手に顎を鷲づかみにされているので離れることはできない。もちろん離す気などなかった。芙美は哀願するようにわたしを見上げている。いつもわたしを誘惑する艶めいた瞳が、いまは赤みを帯びて涙で濡れていた。
 かわいそうだとは思わなかった。むしろ逆だ。
 背中を寒気に似た震えが通り抜ける。はげしい高ぶりを覚えていた。下着の中で、勃起がはちきれそうになっている。もっと泣かせてやりたかった。わたしはさらに多くのよだれを柔らかな唇の奥へと送りこみつづけた。
「んうう……ん……く、ん……」
 抵抗は無駄だと、やっと悟ったようだ。
 芙美は悲しげに鼻を鳴らすと、音をたてて口内に溜まった唾液を飲み下していく。ヤニ臭いよだれを飲ませていると思うとぞくぞくした。
 わたしは次々に唾液を注いでやった。
 黒い睫毛までが潤んでいる。彼女は嫌そうに眉をこまかく揺らしながら、それでも白い喉を上下させていく。そうだ。飲め。わたしのものはすべて受け容れなくてはならない。拒絶は許さない。
「ん、ぷふうっ……!」
 息苦しさを覚え、わたしは芙美を解放した。
 はあ、はあ、と、荒い息をついている。泣き濡れた顔を背け、腰を拘束している腕から逃れようと身をよじった。か弱い足掻(あが)きだが、許すわけにはいかない。わたしは白いブラウスの襟に手をかけた。
「い、いや!」
 一気に引っぱった。ボタンが幾つか飛んだ。同時に、腰にまわしていた手でロングスカートのファスナーを探る。
「や、やめて! こんなところで……!」
 あらがう声が心地よかった。
 か細い手がわたしの腕を掴み、邪魔をしようとするがほとんど意味をなさない。ブラウスの前を引きちぎるように開かせ、ブラジャーを剥ぎ取ると、わたしはソファへ放り投げるように女のからだを押しこんだ。
 革張りのソファの上で怯えている芙美を尻目に、わたしは上着を乱雑に脱ぎ捨て、ズボンのファスナーに手をかける。
 わずかに痛みを感じるほど、下着のなかは膨張していた。十代の若僧に戻った気分だ。全身を駆け巡る歓喜に似た興奮も。
「いや……丈に見られちゃう……お願い、ここでは、やめて……」
 この期に及んでも、彼女はまだ自分の立場がわかっていないようだ。いまだに交渉の余地があると、対等だと思っているらしい。
 おめでたい女だ。わたしは顔がにやついてしまうのを止めることができなかった。ズボンをおろし、ゆっくりとソファの上へ膝を乗せる。
「ひいっ……!」
 わたしの浮かべる笑みに恐怖を感じたらしい。
 手を伸ばすと、芙美はからだを縮めてソファの端へと逃れようとする。可愛らしい反応だ。どこにも逃げられやしないというのに。
 わたしは獲物を追いつめる狩人のような気分で彼女ににじり寄っていった。両手を胸の前で交差させ、膝を小さく折った芙美の耳元に口を近づける。口髭が触れるほどの距離で、わたしは囁いてやった。
「芙美……おまえはわたしの子を、生むんだ」
 長い睫毛に包まれた目が大きく見開かれる。次の瞬間には、澄んだ黒い瞳にはっきりと拒絶の意思があらわれていた。
 だが構いやしない。まだ調教のはじまりなのだ。そのうち自分から進んで「注ぎこんでください」といわせてみせる。今日のところは無理やり注ぐしかないが、近いうちに、かならず。
 脱がしかけのスカートに手を伸ばす。その手をしなやかな白い手に払われた。
 見上げると目を真っ赤にはらしながら、わたしを睨みつけている彼女の顔があった。愚かな抵抗は何の意味ももたないということがまだ理解できないらしい。わたしの背中にぞくぞくとした快感をもたらすだけだというのに。
「あうっ……! うっ……!」
 二度。わたしは芙美の頬を張った。
 もちろん腫れるほど本気で叩いたわけじゃない。彼女の顔は一級の芸術品にも勝(まさ)る。傷つけたくはなかった。
 だが十分に効果はあった。芙美は両手でかばうように頬を覆うと、すすり泣きをはじめた。
 容貌に自信がある女ほど顔を叩かれるのを嫌う。芙美も例外ではない。これでわたしに楯突(たてつ)くことの無意味さを悟ってくれるといいが。
 いまいましいロングスカートを、わたしは力まかせに引きずりおろした。
 下着は白く簡素なものだった。いつもわたしとの情交に及ぶときに着けている、色つきの派手で悩ましいものではない。
 腹が立った。わたしの好みにあわないものを身に着けているだけで許せない。おまえは、わたしのものなんだ。芙美。
 下着と素肌の間に手を入れ、思いきり引いた。
 膝まで下ろしたところで、紅唇の間から弱々しい拒絶の声が漏れる。太ももを強く叩くと芙美は悲痛な声をあげ、脱がしやすいように腰を浮かせた。
 わたしは白い下着を剥ぎ取り、両手で引き裂いた。いらいらしていた。こんな下着はすべて処分させてやる。これからはわたしの命じたものだけを身に着けさせよう。
 鼻息がだいぶん荒くなっていた。目も血走っているのかもしれない。
 わたしを見上げる黒い瞳に、怯えの色が浮かんでいる。血の気が失せた青白い顔に、わたしは欲情を覚えていた。
「尻を、向けろ」
 息切れしながら命じる。頬を張ったのと太ももを叩いたのが効いているのだろう。芙美はのろのろとからだを起こし、ソファの上に手と膝をついてわたしにお尻を向けた。
「もっとだ。もっと高くかかげろ。挿(い)れやすいようにだ」
 呼吸がようやく落ち着いてきた。といっても、興奮がおさまったわけではない。
 命令に従って隆起した尻をもちあげる芙美を見おろしつつ、自分の下着をおろす。先走(さきばし)りがだらだらと溢れ、生地の内側を汚していた。
 わたしはひどく高ぶっている自分に満足していた。これなら大量の精液を放出できるだろう。今日この場で孕(はら)ませることができるかもしれない。
 しかし目的はそれだけではない。目の前の女を服従させることを忘れてはならないのだ。
 わたしは白いお尻を両手で鷲づかみにした。みごとな曲線だった。
 子供をひとり生んだとは思えない、張りのある豊かな肉づき。染みひとつなく、肌は吸いつくようにしっとりとしている。
 尻ひとつとっても、この女に比較し得る女などいやしない。そして、この尻を征服できる男はわたしだけなのだ。
「やっ……」
 両の手で、桃のような双丘を押し広げる。
 わたしのために剃りあげた無毛地帯が眼下にあった。閉じた性器はまるで少女のようだ。幾人もの男がここに肉棒を捻じこみ、欲望を果たしていったとは思えない。年齢からいえばはみ出しているはずの肉の花びらなど、外からはまったく見られなかった。
「ううう……」
 指先で柔らかな割れ肉をなぞる。幾度か上下させるだけで、指の腹が湿った。
 嫌がる素振りを見せても、身体は男を欲しているのだ。淫らな蜜で媚肉を濡らしているのがその証だ。
 ふしだらな女だ。
 田舎者たちに嘲りを受けるのも当然かもしれない。それでも愛してやろう。絶対服従を誓うようになるまで躾け、愛玩(かわいがっ)てやる。
「どうした? いつものようにおねだりしてみせろ」
 割れ目に指を這わせながら、桃肉をつかんだ指に力をこめる。
 苦痛に長い脚が細かく震え、涙まじりの声が漏れるが、わたしの望む返答はなかった。まだわからないのか。躾けるのに骨が折れそうだ。
「いっ……!」
 白い尻を叩く。
 手心は加えなかった。
 手のひらが痛むほどの打擲(ちょうちゃく)を与える。五発、六発。雪のように白い肌が紅く染まっていく。平手を張るたびに弾力のある臀丘がぷるぷると揺れた。
「ひいっ……痛っ……いたい! やめ……やめて……!」
 芙美の声は、すっかり泣き声に変質していた。
 わたしは尻を打つ手を止め、むき出しの性器へと顔を近づけた。割れ目は男を拒む処女のように閉じていたが、その表面には透明な液体がぬらぬらと光り、太ももまで滴っていた。
「尻を叩かれて濡らしているのか。淫乱め」
「…………」
 人差し指を突き入れてみる。
 さっきとは比べられないほど湿った膣口は、たやすく侵入を許した。しかしそこからがこの女のすごいところだ。滑りがよくなっている膣内で、わたしの指をきゅうきゅうと締めつける。他の男が何人もこの感覚を味わったかと思うと、嫉妬で気が狂いそうだった。
「さあ、いうんだ。叩かれたくはないのだろう?」
 媚孔のなかで指を動かすと、紅い打擲跡をのこしたお尻が艶かしく揺れる。半ば開いた唇びるからは荒い吐息が漏れてはいるが、叩かれた痛みのせいだけとは思えなかった。甘いものが混じっている。
「うう……入れて、ください……」
「いつもはもっといやらしくおねだりするじゃないか。まだお仕置きが足りないかね」
 なめらかな尻肉の上をぺんぺんと軽く叩くだけで、芙美はびくりとからだをふるわせた。ずいぶん効果があったようだ。
「ど……どうか、芙美のここに……突き入れて、ください……だんな、さま……」
 こちらからでは見えないが、きっとその顔は涙でぐしゃぐしゃになっていることだろう。
 ひどい涙声(なみだごえ)だった。
 態度は従順とはいい難(がた)いし、おねだりも満足できるものではなかったが、今日は調教第一日目だ。これからじっくりと躾けていけばいい。
 それに股間のものももう限界だった。ドクドクと脈打つのが聞こえてきそうなほど膨張していて、わたしを急かしている。
 根もとを握りしめ、先端を割れた柔肉にあてがう。
 芙美が短い声を漏らしたが、わたしもまた声をあげてしまいそうになった。邪魔な避妊具の薄いゴム一枚をつけないだけで、ここまで感触が違うとは。
 割れ目はとろけるように柔らかく、蜜は思った以上に温かかった。剛直に与えられる刺激の差は比べものにならない。もっと早くこうしていればよかった。
「ふあ……う……」
 腰に力を入れ、男根を挿入していく。
 芙美の淫らな穴のなかは高い熱をもっていて、ぬめぬめと湿っていた。
 潤滑油たる淫らな液体のおかげで滑らかに出し入れはできるが、膣じたいが意思をもっているかのように肉棒をとらえ、締めつける。
 避妊具ごしでは味わえなかった快感に、わたしは数度の抽送をしただけで放出してしまいそうになっていた。
「はあっ、はあっ……」
 女のものよりも荒い呼吸音が、居間に響いている。
 抽送を止めざるを得ない。たった一センチ抜くか埋めるかするだけで、果ててしまいそうだ。
 まだ終わりたくはなかった。芙美の媚孔をもっと愉しみたかった。たっぷりと突きこんだ後で、注ぎこんでやりたかった。
 しかし、もう駄目だ。
 動かずに堪えていても快感の波は引きそうにない。じっとしているだけでも、芙美の膣孔は肉棒に絡みついてくる。精をしぼり出そうとしているのだ。触れあっている肌も、しっとりと吸いついてわたしを放さない。お尻に置いた手の指一本でさえ動かすことができなくなっていた。
 わたしの様子に気づいたのだろう。泣きはらした顔が、肩越しにわたしを振り返る。
「だ、旦那さま……おねがい……膣内(なか)には……膣内(なか)にお射精するのだけは、許して、ください……」
 はからずも、芙美の哀願する声が引き金になってしまった。股間の周りに漂っていた吐精の衝動が男根へと伝わる。もう留めることはできなかった。わたしはせめて最後にひと突きしようと、腰をお尻へと押しつけた。
「いやっ! だめえ!」
 子宮へ届けとばかりに突きこんだ瞬間、肉棒が爆ぜる。まさに爆発だった!
 自然と声を放っていた。漏れた声に雄々しさはなく、むしろ草食動物の悲鳴に似ていたかもしれない。わたしはしがみつくように女体に覆いかぶさり、がくがくと全身を痙攣させた。
「ひうっ……やあ……でて、る……」
 肉棒は何度もはげしい脈動を繰り返した。
 情けない声が喉の奥から漏れつづけたが、止めることはできなかった。膣内で脈打つたびにわたしの身体ははげしく揺れ、すぐ下の白い肌とこすれあった。
 五十年生きてはじめて経験するほどの、はげしい射精だった。
 意識は幾度か消えそうになり、脈打つ回数も放出を終えるまでの時間もひどく長く感じた。
 きっと子宮に向かって大量の精液が注ぎこまれたことだろう。吐精を終えても、しばらくわたしは芙美のからだにもたれかかっていた。全身に疲労を感じからだが重かったが、満ち足りた気分だった。
 芙美はぴくりとも動かなかった。
 回復したわたしが豊かな乳房を後ろから揉みしだいても、何の反応もあらわさない。伏せた睫毛を濡らし、ただうつむいていた。
 小さくなった男根を抜き、女のからだから放れる。
 割れ目はすぐに閉じたが、その間か放出した白濁の液体が、とろとろと逆流して溢れ、垂れ落ちていく。外に流れ出たぶんだけでも相当の量だった。革張りのソファの上に白い水溜まりが広がっている。
 ひょっとすると、今日で妊娠したかもしれない。
 しかし、まだこれからだ。
 確実に孕ませるためにはまだまだ注がねばならない。躾も平行してすすめていこう。そのうち、自分から結婚してください、男の子を産ませてくださいと願い出るはずだ。
 脱ぎ捨てた自分のパンツを手にしたところで、あることを思いついた。身に着けるのをやめる。
 表情を失った女のそばに行き、その頭をつかむ。鼻先に、縮んで小さくなった男根を突きつけてやった。
「舐めろ」
 誰が主人なのか、教えこまねばならない。口でしてもらったことはなかったが、これからは別だ。主のものを口で清めさせてやる。
「う……ん……」
 体液の入り混じる臭いに顔をしかめたが、それでも芙美は舌を伸ばしぴちゃぴちゃと音をたてて亀頭を舐めはじめた。
 このぶんだと経験はあったのだろう。
 なぜいままでわたしにこの奉仕をしなかったのだ。わたしを侮っていたのか。
 腹の奥が熱くなりかけたが、すぐに気を取り直す。これから躾け直せばいいのだ。足の指でも尻の穴でも喜んで舐めるように躾けてやる。
「ん……ちゅぷ、ちゅっ……」
 命じてもいないのに、全体を咥え、吸いはじめる。
 すこしくすぐったかった。わたしは芙美の頭を押さえて口内から肉棒を引き抜いた。さすがに今日はもう無理だ。二回戦に及ぶには疲労が強すぎる。
 脱力感はあったが爽快な気分だった。
 鼻歌でも歌いたいくらいだ。
 わたしは悠然と身を整えた。ズボンと上着を身に着け、乱れた髪を胸ポケットから取り出した櫛でもってねかしつける。その間、芙美は死人のようにソファの上に横たわっていた。股間から流れる白液を拭おうともしない。
 行儀の悪いことだ。まあ、今日は許そう。
「今日はこれで帰るよ。……明日からみっちりと躾をするからね。わたしの妻にふさわしくなれるよう、きみも努力したまえ」
 耳もとで囁き、居間を後にする。腰が軽かった。大量に吐精したせいだろうか。
 玄関の横に、馬鹿息子がいた。今度はわたしの顔を真っ直ぐに見つめている。睨(にら)みつけているようにも見えた。居間を覗いていたのかもしれない。まったくふざけた小僧だ。
「…………」
 何も口にしなかったが、あきらかにわたしに敵意を向けている。
 張り倒してやろうかと思ったが、この餓鬼の躾は芙美の後だ。それに今日は気分がいい。見逃してやることにしよう。
 外に出ると月が綺麗だった。夜風が気持ちいい。実にいい気分だ。
 門の鉄柵に手をかけたところで指先に痛みを覚えた。
 月明かりだけではよく見えなかったが、赤い薔薇らしき花が一輪、柵の間に挟まっている。
 棘(とげ)が刺さったのだろう。血が出ていた。あの馬鹿息子の仕業だろうか。
 ふん、愚かなことだ。やはりあいつは全寮制の中学に叩きこむことにしよう。
 このような卑怯な振る舞いしかできない奴にはお灸をすえる必要がある。母親と離されるのが、奴にはいちばん堪えるだろう。
 わたしは薔薇を地面に落とし、靴底で何度も踏みにじった。
 芙美にはくだらない薔薇の育成もやめさせるよう命じよう。
 売って儲けようというのならまだしも、膨大な数の薔薇をただ育てて眺めるだけで満足しているのだというから愚かしい。
 だいたい、あの赤い薔薇は薄気味が悪い。
 広大な庭一面に広がる赤絨毯(あかじゅうたん)だけでもぞっとするというのに、洋館全体を赤い薔薇だけで囲んでいる。
 まともな教育を受けていないから、あのような不気味な外観を美しいと思ってしまうのだろう。正しく矯正してやらなければなるまい。
 すべて、わたしのいうがままに躾けなおす。
 何もかも躾けなおしてやる。
 わたしの好む服を着せ、命じるとおりに奉仕する。
 どんな痴態でも喜んでとるように調教してやる。放出した精液をすべて舐めとらせるのもいいかもしれない。
 自然と顔がほころんでしまう。明日からが愉しみだった。


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 次回(第九話)


テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2010/03/06(土) 18:18:18|
  2. 赤いバラの咲く庭で
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(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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