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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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僕の従順すぎる幼妻が何度叱ってもお風呂でおしっこをします。 第1章 「風俗狂い、幼な妻を娶る」 第4話 (30枚)


 親父様と対峙する俺。
 緊張の極致である。
 なにしろ俺の生殺与奪権を握っているのはこの御方なのだ。
 この見合いの結末はどうなってしまうのか。

 ◆ 第4話 婚姻届と醜男の咆哮。 読む。

  ◆ 第1章 「風俗狂い、幼な妻を娶る」目次へ。
  ■ 全体目次・プロローグへ。 
 


 ふたたび俺は応接間に座らされていた。
 今度は正座である。慣れていないので五分と経たずに痺れ出した。足をくずしたいところだが、怖くてできない。
 卓を挟んで真向かいにいる相手が悪い。わが多納架たなか家当主、多納架たなか時宗ときむねなのである。つまり俺の親父様だ。
 多納架家は俗にいう旧家というやつで、とにかく歴史が古い。系図をたどれば鎌倉時代から続くというから、もし本当なら凄いことだ。
 もっとも、嘘八百の血筋を誇ってる自称名家は少なくないらしい。江戸期に家系図作りが流行したおかげだろう。『××の末裔』とか名乗ってる芸能人も似たようなのもので、大半が嘘だろうと思われる。江戸時代の捏造どころか四、五代前もはっきりしないのに後裔を名乗っちゃうとか、ネタとして愉しんでくれってことなのか。
 多納架家うちだって本当は怪しいもんだと思う。家系図を見せてもらったことはあるけど、あんなもの素人が見ても本物か嘘かなんてわからない。さすがに昨日今日作ったような真新しいものとは、まったく違ったけど。
 ただ、少なくとも多納架家うち当主おやじどのは地元で名士扱いされている。
 本業がなんなのかは知らんが、このクソ田舎に広大な農地や山林を所有し、会社を幾つも経営する金持ちだ。資産総額がいくらになるのかは想像もつかん。別荘とか親父が出張時に泊まるための別宅とか、マンションを含めた建物を何件も所持しているみたいだ。
 一族の数も多く、支社や子会社を任せている伯父や親戚がしょっちゅう出入りしていたことを憶えている。血縁者とはいえ組織の上下関係は厳しいらしく、みな親父には畏まった様子で敬語をつかっていた。年下年上関係なくである。
 親戚の中には市議や県議も複数いたはずで、選挙があると家中が慌ただしくなるのが常だった。主に資金面でのバックアップを乞いに来ていたのだろう。出馬する本人や後援会の人が三日と開けずに訪れていた。毎度違う種類の箱菓子を土産に持ってきてくれるのが楽しみだったなあ。
 土産土産で山と積むほどになって、いつも食べきれずに終わるんだけどな。おふくろが近隣の住民たちにお裾分けして配ってまわってもまだ余っていたくらいだ。
 ちなみに親父に援助を求めてきた候補者は漏れなく当選していた。親戚ではないが、地元選出の国会議員が親父に頭を下げているのを目撃したこともある。
 県内の経済なんちゃら会の顧問だか理事だかも引き受けていたと思う。幼少時の俺は年末のパーティーに連れて行かれたことがある。あれは忘年会だったのかな。出席者は会長よりも上座にいる親父の周りに群がっていた。主役であるはずの会長は隅でひとり酒を飲んでいて、子供心にも悲しかった。
 まだ素直だった俺は『会長さん、さびしそう』、と遊んであげたものだ。ガキの行動に罪はないとはいえ、傷口に塩を塗りこむに等しい行為である。俺はあのころから空気が読めない。
 ともあれ、親父は県内において、ちょっとした顔利きではある。正月には知事が挨拶に来るくらいの大物、それが多納架時宗なのだ。
 もうおわかりだろう。
 俺はこの人のコネのおかげで市役所に入れたのである。ふざけた勤務態度にもかかわらずくびにならないのもこの御方のおかげだ。つまり、俺にとっては親父というだけでなく、神にも等しい存在といえる。ジーザス。願わくば我に永遠の七光りしゅくふくを。
 そんな多納架時宗おやじは六十五歳。見た目は実年齢よりちょっと若い、かな。
 渋い色の和服が似合う偉丈夫で、とにかく寡黙である。
 身長は百八十センチちょっと、体重はたぶん百キロを超えるだろう。肥満体型ではなく、岩石を思わせる固い筋肉質である。年齢が年齢だから若い時分よりずいぶん衰えたとは思うが、縮んだとか小さくなったという印象はまったくない。肩幅なんか貧弱な俺の倍はありそうだ。胸の前で組んだ腕の前腕は変わらず太い。
 顔もまたゴツくて怖いんだよ。
 常に眉間の皺が深く、世紀末覇者かと思うほどだ。片腕挙げて昇天しそう。いや、死なれたら困るし、まだ当分死なないだろうが。不肖の息子という大きな悔いもあるだろうしな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 で、いまの状況なのだが。
 親父が口を開いてくれない。
 寡黙にもほどがあるだろ! 無言の行でもやってるの? 
 昔っからだが、親父の声を耳にすること自体珍しいのだ。挨拶も声を出さないことがほとんどで、でもなぜか非礼な印象は与えないんだよなあ。誰にも。挙措が威厳に満ちてるからだろうか。傲慢な態度にもぜんぜん見えない。不思議な人だ。
 子供の前ではほとんど口を開かない親父だけど、夫婦間で意思の疎通はとれてるんだろうか。それとも、ふたりだけになったら、けっこう喋るの? お喋りなおふくろが一方的に話すだけ? 世間一般の夫婦より仲は良さそうではあるが。謎だ。
 とにかく、足が痺れてつらい。
 つらいのだ。
 このままだとエコノミークラスなんたらになってしまう。早く声をかけてくれ。早く解放してくれよう。
 無言の親父とふたりきり。仁王像に睨まれている気分である。
 あの黒髪美少女と奇跡の再会を果たしたとたん、おふくろ様の邪魔が入った。あのと会話を交わす時間も与えられず、親父の待つ応接間へと引きずられてきたのだ。まったく何の説明もなく。
「あ、あの・・・・・・お父様?」
 沈黙に耐えかねて、俺のほうから口を開いてしまった。緊張して高い声が出て恥ずかしい。
 口を開いたのはいいが、後に続く言葉が出ない。いったい何を話せばいいのか。親父の顔を窺うと、難しそうな顔で噛みしめていたはずの唇がわずかに開いていた。
「さ、三郎・・・・・・おまえが」
 おお、やっと喋ってくれたか。しかし太い声だな。
「・・・・・・おまえが見合いに乗り気、だったとは、驚いた・・・・・・」
 ん? んん?
 なにか話がおかしい。貴方の命令という話でしたよね。今回の見合いは。職を奪うと脅迫されて同意もなくここにいるんですが、僕は。
「大事に、して、やりなさい・・・・・・」
 ・・・・・・はい?
 どういうこと? なんで目を閉じるの、お父様。
 えっ? ひょっとして終わり? 話がまるで見えてこないんだが。おい、ひとりで納得したみたいに肯いてんじゃねーよ。こっちは訳もわかってねーんだよ。
「さすが時宗さま!」
 すぱーん! とふすまを開けて飛びこんできたのは母上様である。
 いや、駄目だろ、そんな礼法もクソもない開け方しちゃ。同じことを二回もやった俺がいえる義理じゃないけど。あんたはここの奥方だろ。はしたないよ。してやったりみたいな表情はなんなんだ。
 親父の反応を見てみると、大口を開けている。ひどく驚いたようだ。目を見開いて呆気にとられていた。レアだな。つーか還暦越えの旦那をびっくりさせてんじゃねえよ。寿命が縮むだろ。
「三郎さん、おめでとう! これであなたも晴れて一人前の男ね! さあさあ、これに記入して! はやくはやく!」
 おふくろが卓上に広げたのはピンクの罫線囲みがいっぱいの用紙だった。なにこれ? ・・・・・・婚姻届?
「な、なんでピンク?」
 混乱してどうでもいい問いをしてしまった。違う。そこじゃない。
「まあまあ。三郎さんったら、お役所勤めなのに知らないの? いまは自治体ごとに色を決めていいのよ。せっかくの三郎さんの婚姻届ですもの。母さん、圧力をかけてピンク色に変えさせちゃった!」
 てへ、と首を傾げてみせる我が母上様。何歳だ、あんたは。親父! 片手で顔を隠してるが、もしかして照れてるのか? 掌の端から見えてる口もとが嬉しそうだぞ?
 つーか、一家庭の事情で自治体に圧力をかけるなよ。せめてオブラートに包んだ表現でお願いしたとかだな・・・・・・。いやいや、問題はそこじゃないんだった。
「さあさあ、はやく! ・・・・・・どうしたの? まさか、あのと結婚するのがイヤなの?」
 不思議そうに俺の顔を覗きこむおふくろ。いや、冗談抜きで若いな。エステ? 整形?
 息子の贔屓目かも知れんが、不自然なくらい綺麗だ。こういうの美熟女っていうのか? 醜男ぶさいくな俺と血が繋がってるとはとても思えん。
「いや・・・・・・まだ話もしてないのに、結婚とか・・・・・・」
 かろうじて言葉を返す。すると何が楽しいのか、おふくろは笑いながら俺の背をバンバン叩きはじめた。痛い。強すぎ。咽せそう。
「あらあら。三郎さんたら、シャイなんだから! 大丈夫よ! 母さんもお父さんとはひとっことも口をきかないまま結婚したから! でもほら! こおんなに、らぶらぶ夫婦でしょ?」
 それは時宗さんアンタの旦那が寡黙だからでは。それより、いいトシして『らぶらぶ』とかやめてくれ。抱きつかれた親父が照れて、両手で顔を押さえてしまったじゃないか。
「いや、でもですね・・・・・・」
 そもそも、あの黒髪美少女は何歳なんだ。ずいぶん幼く見えたが本当に婚姻可能な年齢なのか? 法律とか平気?
 なおも食い下がろうとする(当然です)俺だったが、抗議の声をあげることはできなかった。
 おふくろが、いつになく真顔になっている。
「いらないの?」
「へっ?」
 しばらくの間、おふくろが何を言い放ったのか理解できなかった。何をいらないって? 何が?
「三郎さんがいらないなら、良樹よしきにあげちゃうわよ。それでもいい?」
 は? なんで良樹がここで出てくる?
 良樹というのは多納架家の次男、つまり二番目の兄貴の名前だ。やつが国外の大学に進学してから十数年、ずっと顔も見てないし興味もないから現在どこで何をしているかも知らない。おふくろの口ぶりだと独身なのか。
「先方さんにとっては多納架家の息子なら誰でもいいのよ。多納架うちに借金があって、それを帳消しにして欲しいがための縁談なんだから。それに多納架の家と縁続きになれば一家は安泰でしょう?」
 そういう、ことだったのか。
 ・・・・・・政略結婚。
 よく考えたら、俺に見合いの話なんて、それしかないわな。そらそうよ。多納架の金や人脈目当てしか考えられない。ここまで明け透けに告げられるとは思わなかったけど。
 『多納架の三男、ぼんくら息子♪』って評判は、このクソ田舎中に広がってたはずだ。幼児からお年寄りまで知らない人はいなかったに違いない。なにせ多納架家は県内有数の旧家なのだ。田舎町ここはお膝元である。息子の出来が噂されるのも必然といえた。
 民謡を替え歌にして年下のガキどもが唄ってたのを聞いたときは泣きそうになったなあ。いまでも俺に対する罵詈雑言満載の歌詞すべてを諳んじることができるぞ。誰が作詞したか知らんがセンスあったなちくしょう。
「三郎さんがいらないっていうなら、良樹を呼ぶわ。あの子にあげましょう」
 政略結婚、それはわかる。多納架の家は金持ちだからな。
 けど、だからって、なんだよ、それ。
 いるとか、いらないとか。
 その言い草はなんだよ。
「良樹なら喜んで貰うんじゃないかしら。あの子の好みにもぴったりでしょうし」
 あげるとか貰うとか・・・・・・。
 物かよ。
 ペットかよ。
「いらないのよね? ああ、かわいい娘なのにもったいない」
 なにを、にやにや笑ってるんだ。
 気にいらねえ。アンタ、そんな女だったのか。
 俺のおふくろは人の心もわかんねえ母親だったのかよ。
 気にいらねえ。気にいらねえよ。
「ほら、いらないなら帰ってちょうだい。とっとと。母さんもお父さんも暇じゃないのよ。あなたと違ってね」
「・・・・・・ふざけんな」
 用紙をしまおうとするおふくろの腕をつかむ。
 駄目だ。臓腑に溜まる熱い憤りが、勝手に喉を通って出ちまう。
「相手は人間だろうが! いるだのいらないだの、勝手なことほざくんじゃねえよ! だったらアンタはどうなんだ? 犬猫みたいに多納架家うちに貰われてきたのかよ!」
 室内が静まりかえる。
 思わずカーッとなって叫んでしまったが、やべえ。なにを真人間みたいな台詞を吐いてんだ? 三郎よ。俺のキャラじゃねえだろ。柄にもないことは、もうやめようぜ。な?
「仮にそうだったとして、いまのアンタは幸せなんだろ! 当時はどうだったんだ? 悲しくなかったか? 辛くなかったか? 不安じゃなかったのか? はるか昔に喉もと過ぎて、熱さを忘れちまったのか?」
 おふくろは驚いた顔をしていた。はじめて見るかもしれない。やっべえ。止めてくれないから勢いが止まらん。
「アンタが一番あの娘の気持ちを思いやれるはずだろ! それをなんだよ! なんなんだよ! これじゃ、心の腐った成金ババアと同じじゃないか! それとも女衒か? クッソババアが! ・・・・・・なんなんだよ、なんなんだよ! アンタ・・・・・・」
 もう言葉が続かない。息も続かない。熱い涙だけが溢れて、頬を流れてる。
 ああ、やっちまった。
 痛え。
 いろんな意味で痛え。
 両親の前でこんな暴言を吐いたのは、はじめての経験だった。
 いつもぼけえとしていて、できそこないの三男坊。偉大な父をおそれ、マイペースな母には存在を忘れられる。なんとなく毎日を過ごしているだけの昼行灯。そうでなければ日陰の子。優秀な次男の影に隠れ、陽の当たることのないぼんくらな末弟。いてもいなくても同じ息子。それが俺だった。
 甘やかされていたといっていいだろう。金さえ出せば入学できる底辺私立大学で五年も遊び、親父のコネで市役所に就職。学生時代の終わりまで、金に困ったことは一度もない。叱られたことすらない苦労知らず。のびのびだらりと生きてこれたのは、どう考えても甘い両親のおかげである。
 だが、それも今日で終わりかもしれない。
 ゴミクズ同然の男に啖呵をきられたのだ。県内一円に影響力を轟かせる多納架家当主の妻が。息子とはいえ、存在を忘れかけていた男に罵声を浴びせられたのだ。
 面白いわけがない。
 本日この場で親子の縁を切られるかもしれない。
 それは俺みたいな無能にとって死を宣告されるに等しい。コネクションを消失なくした俺には一銭の価値もないのだ。有力者の子でもない無能役立たずに居場所を開けておくほど世の中は優しくできていない。
 無能息子のときの声、即日解雇のおそれあり。電話で脅されたように、週明け通勤したところでもう席がないかもしれない。ははは、やっちまったな。
 けれど。
 それでもいい。
 生まれてはじめて親に反抗できたのだ。巨大すぎる壁に、弱々しい一太刀といえど浴びせることができた。
 満足だ。

 ・・・・・・などと思うわけがない。
 冗談ではないのである。
 何をやらかしてくれたのか、俺よ。自分の口が憎い。喉が憎い。水銀でも飲んで潰しておけばよかった。誰かタイムマシン持ってない? 時間をちょっとだけ巻き戻して欲しいんだけど。お願いだから、ねえ。一生のお願い。
 やべえ、やべえよ。マジやばい。路上で衆道しゅうどうマジ犯罪。
 親子の縁、切られたくない。あんな楽ちんな職場、馘になりたくないよう。転職なんか絶対無理。
 バイトも無理。コンビニとか勤まるわけねえ。あいつら何であんな各種支払いサービスとか覚えられんの? 商品発注とかも普通にこなすんでしょ? 地方役人の大半より優秀なんじゃね? 頭のおかしい客も役所より多いだろうし、クレーム対処能力もはるかに上でしょ。
 肉体労働も物理的に不可能。貧弱と書いて三郎と読む。十キロの米を小売りしてる意味もわかんないくらい虚弱体質なのに、額に汗して重労働なんてできるわけがない。年下の金髪先輩に小突かれて即死するレベル。イジメの対象にもなりゃしない。
 詰んだ。詰んだよ俺の人生。詰んだというより二歩にふ自爆?
 どうしよう。いまからでも土下座しようか。してみる? 万が一ってこともあるかもしれん。取り消してくれるなら靴でも喜んで舐めます。将棋のプロでも『待った』するくらいだし、俺は素人だから『今のはなし』っていうのも許されるよね? 
「ふむ」
 ヒイッ! なんですか親父様! いよいよ生殺与奪権の行使ですか? 判決死刑?
「やっぱり三郎さんで決まりですわね、時宗さま」
 突如、母上様が破顔する。何が決まりなんだろう。勘当? 追放? 去勢チン切りだけは勘弁な。
「さ、三郎」
 親父がこっちを睨む。死ぬの? 俺。
「は、はい」
 ごくり、唾を飲む。
「大事に、して、やりなさい・・・・・・」
 それは・・・・・・さっきも聞いた台詞ですが。
 そんなことより俺の処分はどういうことになったのか。ガクガクブルブルしてる膝が止まらんよ。もはや痺れが消えたかどうかもわからん。
 ・・・・・・ん? 大事に? 
「はい、決まりね! さあさあ、さっさと記入しなさい。さっさと!」
 ふたたび俺の前にピンク罫線いっぱいの用紙を広げるおふくろ。万年筆まで用意されている。
「え、いや、あの・・・・・・」
 いいのか? 
 いいのか? いいのか、これ。
 何かおかしくないか? とりあえず最悪の事態は免れたっぽいけど。
 いや、そもそもハメられただけなんじゃないのか?
 戸惑う俺の顔を和服美熟女が覗きこむ。
「・・・・・・ババアって・・・・・・」
「へ?」
 ななななんですか。邪悪なオーラが漂ってるんですけど。
「ババアって、二回も・・・・・・に・か・い・も、口走ったことは、忘れてあげるから・・・・・・ね?」
 ひッ! 
 殺意って微笑みで伝えられるものなんですね。間違いなく寿命が縮みました。
 本能が危険を察知したらしく、俺の右手は意志を伝えるより早く動いた。万年筆を手に取ったとたん、次々と母上様の指示が飛ぶ。氏名住所と埋めていき、あっという間に記入済み。
 もちろん、『夫となる人』の部分だけで、『妻となる人』部分は未記入なままだ。本人に書いてもらうのだろう。
 妻となる人・・・・・・あの黒髪美少女が? マジで俺の妻に? 夢でなくて? いや、夢だろこれ。そんな美味い話はないよ。でも・・・・・・もし夢じゃなかったら? 試しに、親父に一発殴ってみてもらおうか?
 と、思ったが冗談抜きに死ぬな。やめておこう。手加減とか器用なこと出来なさそうだし、あのひと。
 ところで、その本人はどこなのだろう。
 あれよあれよと婚姻届を書かされたものの、当の彼女の意志を確認していない。
 政略結婚の道具みたいに扱われてるらしいけれども、時代は二十一世紀なのだ。本人の意志を無視してまで親が無理強いするってのはどうもな。どうしても拒否できずに結婚し、あげく自殺でもされたらたまったもんじゃない。
 仮に両親の意向に逆らう気がなかったとしよう。おふくろがさっき口にしたように、『多納架家の息子なら誰でもいい』のだ。となれば候補は俺だけではなく、兄貴の良樹という選択肢もあるわけだ。
 悔しいが、まともな美醜感覚を持つ女の子なら間違いなく良樹を選ぶだろう。醜男ぶさいくでチビの俺と違い、良樹はおふくろに似て容貌に優れ、親父の血を継いで背も高い。頭の出来も、はるかに向こうが上である。となれば悩む余地もない。勝負にもなりませんな、これは。
 いわれるがままに婚姻届を書いてはみたが、やはり結婚の実現性は低いだろう。記入していくうちに浮かれ気分夢見心地になりつつあったが、いざ現実を考えると冷めざるを得ない。短くもはかない夢であった。がっくし。
「あら、なあに? その顔。嬉しくないの?」
 腹黒くてもさすが生母である。意気消沈する俺に気づいたらしい。
「・・・・・・母上様。やはり本人の意志を尊重しなくては」
「本人? 本人ならそこに」
 おふくろは俺の背後に視線を向ける。つられて振り向くとそこには・・・・・・。
「じ、じごく・・・・・・!?」
 俺の位置から後ろに七、八歩。開かれたふすまを挟んだ隣室に、満面の笑み(と思われるが暴力的な顔面から判別できず)を浮かべた妖怪地獄車が大仏のごとく鎮座していた。座してなお巨躯を誇るその存在感。やつの背後に冥府が見える。
「な、な、な・・・・・・!」
 一気に血の気が引いていく。
 地獄車、いつからそこに? いや違う問題はそこじゃない。
 ど、どういうこと? どういうこと?
 相手はあの黒髪美少女じゃなかったの? 
 あ、あれ? 俺、勘違いしてた? 
 まさか、まさか、まさかまさかまさまさか地獄車が見合い相手だったの? 
 あれおかしいなそんなはずはだって娘っていってたじゃん娘を末永くとかいったよね確かに聞いたよそうだよねうそだうそだうそだ誰か嘘だっていっていやだいやだいやだいやだやだようやだようやだやだやだやだやだやだもうしにたい・・・・・・。
 ・・・・・・だめだ、もう終わった。
 神は死んだ。
 俺の肉体を支配する負の感情ルサンチマンすら消え失せていきそう。
 つまり魂そのものが。
「顔を青くしてどうしたんです。ちゃんと菜穂なほさんを見なさい」
 えっ?
 あわてて母上様の視線を追う。体長一、八メートルはあろうかという地獄車の斜め後ろ。巨体の影地獄のオーラに隠れるようにして、我が見合い相手はちょこんと端座していた。
「おお・・・・・・!」
 思わず感動して声を出してしまう。
 まごうことなき、あの黒髪美少女だった。恥ずかしいのか俺と目が合うと俯きかげんに目を伏せてしまう。・・・・・・嫌われてるわけじゃ、ないよね・・・・・・?
「菜穂さん。話は聞いてのとおりです。愚息の三郎は貴女を嫁に迎えることに否やはないという意志を示しました。貴女はどうです? 正直におっしゃい」
 背筋を伸ばすおふくろの眼差しは強く、声には嘘や曖昧な返答を許さない響きがあった。
「まあまあ、奥様。何をあらためて確認することがありますか。由緒正しき多納架家のご子息に嫁ぐことができるのです。菜穂に何の不満がありましょう。喜んでお受けいたしま」
「あなたには聞いていません。菜穂さんに聞いているのです」
 出しゃばる巨体女を、おふくろは一言のもとに斬って捨てる。毅然とした態度の前に、さしもの地獄車も口を閉ざす。心なしか一回り小さくなって見えた。
 黒髪美少女はおふくろの発言にびくりと小さな身体を震わせたものの、やがて静かに顔をあげた。黒い瞳が潤んでいて、ひどく弱々しい。
「あ、あの・・・・・・」
 か細い声が途切れて消える。かわいそうで見ているのがつらい。
 一生を左右する決断を迫られているのだ。か弱く小さな女の子が。家のために犠牲になる覚悟はあるのかと問われてるのだ。
 こんな小さな子に背負わせることじゃない。
 家だ金だと大人が背負うべき重荷すべてを押しつけて、なにもかも子供に担わせる。そんなのは、おかしい。間違ってる。絶対に、おかしい。
 思春期のガキみたいな、義憤に似た感情がふつふつと胸の下で煮えたぎる。けど、さっきみたいに口には出せなかった。もう親子げんかの範囲を外れてしまってる。
 なにより、俺ごときに背負えるものでもない。
 ここで俺が口を出したところで、なにも解決しないのだ。菜穂という少女の家の借金を肩代わりする覚悟があるわけでもないし、仮に俺が払ったところで借金がなくなるだけだ。哀れな少女を救うことができるかといえば、怪しい。
 金を返す代わりに娘を差し出す親なのである。ほかの金持ちを見つけて菜穂を嫁にやろうとするかもしれない。地獄車の口ぶりから判断するに、その可能性はじゅうぶんにあるといえるだろう。本人の意志など関係ない。娘を道具としか思っていないのが態度口ぶりから伝わってくる。
 強大な権力と金を持つ両親と、取り入ろうと目論む強欲な存在。両者を押さえつけて黙らせる力なんて、俺にはない。
 見合いというこの場の主役に置かれてはいても、場をおさめるには不足に過ぎる三流役者にすぎない。彼女の・・・・・・菜穂の答えを待つほかに、非力な俺にできることはないのだ。
「はやく、はやく、答えなさい、菜穂! はっきりと!」
 妖怪が黒髪美少女を急かす。背を押してるだけだが、折檻しているようにしか見えない。きゃしゃな上半身がぐらんぐらん揺れる。答えが遅いのに業を煮やしたのか、地獄車はさらに腰のあたりを押しはじめた。何がしたいんだ、強欲妖怪め。
 あまりにも押す力が強すぎたのだろう。菜穂は半ば立ち上がるような姿勢になってしまい、そのまま前方へとふらふら歩みを進める。
 俺と同じく足が痺れていたのか、右へ左へ千鳥足。俺の前まで来たところで、畳の縁に足を滑らせた。
「あ、あぶなっ・・・・・・!」
 思わず抱き寄せてしまった。
 胸の中には小さな天使。あまりにも軽くて、柔らかくて、いい匂いがして、憤りに灼けていた胸は、とたんに高鳴りはじめる。
 うわ! やばっ! 俺、きっと顔真っ赤だ! やべえ、恥ずかしい! つーか嫌がってない? 嫌がってるよね! イヤンな拒否顔されてるよね? 離さなきゃ!
 おそるおそる、少女の顔を覗きこむ。
 天使が頬を染めていた。吸いこまれそうに深い漆黒の瞳で、俺を見つめながら。
「よ・・・・・・よろしく、おねがい、します・・・・・・だ、だんな、さま・・・・・・」
 神は死んだ。
 神様が本当にいるなら、俺みたいな醜男ぶさいくのクズに天使が微笑んでくれるわけがないだろう。
 この瞬間、俺の中の負の感情は間違いなく消え失せていた。


  ◆ 第5話 多納架家見合い始末。 へ

テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2016/02/15(月) 19:00:00|
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臥頭狂一

Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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