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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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赤いバラの咲く庭で 最終話 (70枚)


 十月十日はぼくの誕生日だった。
 東京オリンピックの開会式が行われた夜、佐伯はぼくに最悪のプレゼントをくれた。
 ママとの別れ……。ぼくにとっては死刑を宣告されるのと同じだ。
 覚悟を決めたぼくが向かったのは、寝室。手にしたものの先には、銀色の刃。
 悪夢を終わらせるつもりだった。


  第一話  第二話  第三話  第四話  第五話  第六話  第七話   第八話   第九話  第十話





 十月十日はぼくの誕生日(たんじょうび)だった。
 テーブルの上には大きなケーキが置かれている。ホワイトチョコレートのケーキだった。十二本の細くねじられたロウソクが刺さっていて、すでに火が点いている。ぼくはぼんやりと揺(ゆ)れる小さな炎(ほのお)を眺(なが)めていた。
 誕生日。
 ママがぼくを生んだ日。パパがいないぼくには、ママとぼくだけの日のはずだった。
 ママとふたりきりで十二歳の誕生日を祝ってもらえるのだったら、どんなに良かっただろう。
 プレゼントなんかいらない。ケーキだって、ごちそうだって作ってもらえなくてもいい。最愛(さいあい)のひととふたりっきりで、恋人どうしのように静かな夜を過ごしたかった。
 テーブルを挟(はさ)んで、一番きらいな奴が席についている。
 ひどく機嫌(きげん)が良かった。
 にやついた顔はぼくやママではなく、カラーTVへと向けられている。ぼくの誕生日を祝(いわ)うつもりなんて、この男にはなかった。もちろんぼくもお祝いしてほしいなんて思っていない。
 ブラウン管の中で、アナウンサーがやかましく騒(さわ)ぎたてている。
 東京オリンピックの開会式。ニュースはその様子を繰(く)り返し伝えていた。聖火(せいか)ランナーの点火、祝砲(しゅくほう)の音、七万二千もの大観衆(だいかんしゅう)のざわめき。
 すべてが耳障(みみざわ)りだった。オリンピックなんてどうでもよかった。佐伯といっしょに消えてなくなってしまえばいい。
 ママの愛(あい)はぼくに向けられてる。それは間違いない。
 一週間前のあの日、ぼくとママはお風呂でむさぼるように抱きあった。黒い瞳(ひとみ)はぼくだけを見つめていて、ほっそりした手はやさしく包み込んでくれた。ふたりの間には、野蛮(やばん)で傲慢(ごうまん)なロマンスグレイが入りこむ場所なんかなかった。
 ぼくだけが、ママの恋人だ。
 でも、現実はそう簡単(かんたん)じゃなかった。
 ママは佐伯の暴力(ぼうりょく)から逃(のが)れることができないし、ぼくにもその力がない。腕力(わんりょく)もそうだし、お金のこともそうだ。働(はたら)くことができないぼくには、ママを守ることができない。ただの子供にすぎないんだ。
 悔(くや)しくてたまらない。
 ぼくが大人だったら、もっと背が高かったら、佐伯なんかめちゃめゃにぶちのめしてやるのに。二度とこの家の玄関を通させないのに。一生懸命(いっしょうけんめい)働いて、ママとふたりだけでたのしく暮(く)らすことができるのに。
 ゆらゆらと揺れる頼りないロウソクの炎を見ているうちに、涙があふれた。今にも消えてしまいそうな弱々しさが、ぼくみたいで悲しかった。
「さ、さあ、丈(じょう)。吹き消しなさい」
 泣き出したぼくの目を、ママはそっとハンカチで拭(ぬぐ)った。佐伯の機嫌を悪くすると思ったのかもしれない。小さな声だった。
 静かに席を立ち、ふうっと息を吹きかけた。十二本のロウソクの上で、炎はわずかな抵抗(ていこう)も見せることなく姿を消してしまう。
 これが十八本だったら。二十本だったら、一息では消せなかったかもしれない。火が消えたロウソクの芯(しん)を見つめながら、ぼくはそんなことを考えていた。
「おめでとう、丈」
 どこかわざとらしいママの声。TVに夢中(むちゅう)になっている佐伯の耳を気にして、声をおさえている。わめきたてるアナウンサーの声がうるさかった。
「はい、プレゼントよ」
 ママから渡されたのは大きな包みだった。
 柔らかい。服だろうか。去年まではおもちゃだった。いつまでも子供じゃないって、ママは認めてくれているんだろうか。
「久しぶりに、編んだのよ」
 紙包みの中は白い手編(てあ)みのセーターだった。あたたかそうだ。顔を埋(うず)めてみる。かすかにママの匂いがした。ふわふわして、ママに抱かれてる気分になる。
「ありがとう、ママ。すごく、うれしいよ」
 いままでもらったプレゼントのなかで、いちばん嬉(うれ)しかった。
 ママが編み物をするなんて知らなかったし、しているところを見たこともない。ぼくのために毎日こつこつと編んでくれていたんだと思うと、胸が熱くなる。ぼくは愛されてる。できることなら、抱きしめてキスしたかった。
 ママも天使みたいな笑顔をかえしてくれた。思わず見つめあう。
 きっとぼくだけじゃなく、ママの胸もどきどきしてる。ママもぼくにキスしたいって思ってる。着ているのは佐伯好みの紫色のワンピースだけど、そんなことは関係なくきれいだった。開いた胸もとが悩(なや)ましい。顔を埋めたかった。
「わたしからも、プレゼントがあるんだ」
 いい気分に水をさす声。いつの間にか、ぼくの後ろに大きな影があった。振り返ると、いやみったらしい口ひげが、にやにやしながら手に持った紙箱を突き出していた。
「あ、ありがとう、ございます……」
 白い箱はちょうどぼくの胸幅くらいで、包装(ほうそう)すらされていなかった。
 テーブルの上に置き、ふたを開ける。中身は革靴(かわぐつ)だった。ちょっと先がとがっていて、おしゃれに見える。ぴかぴかに黒光りする靴は、大人の履(は)くものっていう印象が強くて、ぼくにはまだ早すぎる気がした。
「きみも来年の春からは中学生だ。すこし大人にならなきゃいけない。その靴は中学校で使いたまえ」
 ロマンスグレイは口ひげを撫でている。何がいいたいんだ? 得意げな話し方が不愉快(ふゆかい)だった。
「今みたいにママにべったりじゃ、駄目だ。……わかるね?」
 よけいなお世話だ。おまえになんかいわれたくない。
 どう考えたって、この家の邪魔者(じゃまもの)は佐伯じゃないか。口を出されるすじじゃない。もちろんママが苦しむことになるから声には出せない。ぼくは心のなかで毒(どく)づいていた。この下種野郎(げすやろう)。
「……きみには、春から全寮制(ぜんりょうせい)の中学校に通ってもらうことにした」
「えっ……?」
 佐伯が何をいっているのか、しばらく理解できなかった。TVからはまた、祝砲の音が鳴り響きはじめる。季節はずれの花火みたいで、いいかげんしつこい。
「隣の県になるが、男子だけの中学校がある。男らしく鍛えてもらうには、絶好の環境だよ」
 佐伯の口の端(はし)がつりあがっている。
 おかしくてしかたがないといった微笑みだった。胸のなかでせせら笑うのが聞こえるようだ。輝きのない目玉が、頭ひとつ小さなぼくを瞬(まばた)きもせずに見下ろしていた。
「だ、旦那さま、考え直してくれるって、おっしゃったじゃありませんか。丈を遠くにやるのは――」
「ママのことは」
 詰(つ)め寄(よ)るママを、野太い男の声が遮(さえぎ)る。佐伯はきゃしゃな腰を片手に抱き、つやのある顔を引き寄せた。
 紅いくちびるが、灰色の口ひげに埋もれていた。ぼくの目の前で。手を伸ばせばとどく位置で、ママが押さえつけられてキスされていた。
「んふうっ……!」
 ごつい手が、ワンピースの上からママの胸を弄(まさぐ)る。被(かぶ)せるように塞(ふさ)いだ口の間からは、分厚い舌がはみ出ていた。固く閉じられた紅い花を、佐伯の舌がいやらしく這いまわる。苦しそうに呻(うめ)くママの眉が、ぴくぴくふるえていた。
「……ふう。……ママのことは、わたしにまかせたまえ。心配はいらない」
 勝ち誇(ほこ)って見下ろす佐伯の前で、ぼくは血の気をなくしていた。
 背中が、脚が、心が寒かった。これが夢じゃないっていうのか。本当に、ぼくの目の前で起こっていることなの。ぼくの目を覚ましてよ、ママ。悪い夢を見ていたんだって、微笑んで。お願いだから。
「さあ、芙美(ふみ)。子づくりだ。今夜こそわたしの子種を仕込むぞ! ……たっぷりとな」
「……丈」
 悲しげな声を最後に、ママは佐伯に引きずられて居間から姿を消した。凍りついてるぼくを残して。ぼくはうつむいたまま、一歩も追うことができなかった。
 選手行進の軽快なマーチが、TVから聞こえてきた。
 なんとかいう国の代表が先頭だとかいって。
 オリンピック……。
 オリンピック、オリンピック、オリンピック!
 うるさい! オリンピックなんかなくなってしまえ!
 ぼくは佐伯からのプレゼントを箱ごとつかむと、思いきりTVに向かって投げつけた。飛び出した革靴が、左右ばらばらに落ちる。紙箱がちょうど電源のスイッチに当たったらしく、さわがしいTVが黙りこんだ。
 それでも気がすまず、サッカーボールにするように靴を蹴とばす。ぴかぴかの黒い靴がくるくる回転しながら飛んでいき、壁にぶつかってぽとりと落ちた。
 ママのことはわたしにまかせろだって?
 ぼくを遠くの男子校に、しかも寮(りょう)に入れる? 
 ぼくをひとりぼっちにしようって、いうのか! ママをひとりじめしようって、いうんだな! 邪魔者のぼくを追い出して、ママと結婚して、そして子供を生ませる気なんだ!
 ……そして、ぼくは知らないところでひとり。
 考えただけでおそろしかった。想像しただけ涙がこぼれそうだった。となりの県なんて、ぼくにとっては外国と同じだ。もう二度と帰って来れない予感がした。
 寮での生活。想像もつかない。帰ってもママがいない毎日。冗談じゃなかった。知らない人間のなかでひとりなのが怖いんじゃない。ママがいないところで、ひとりになることが怖いんだ。そんなのは耐えられない!
 ぼくをひとりぼっちにして苦しめて、佐伯はママを欲しいままにするのか。
 これまでより、ずっと、ずっと好きに弄ぶのか。朝も、夜も、昼間だって! ママとぼくのためのこのソファで、ママを犯すっていうのか! 奴隷(どれい)のようにして!
 ぼくのいないこの洋館で、ママが佐伯に後ろからぱんぱんされているところが頭に浮かんだ。口いっぱいに硬く勃起した大きなチンポを頬張(ほおば)る姿を想像してしまう。
 どんなにいやらしく、従順(じゅうじゅん)に振る舞っても佐伯は満足しない。泣いてお願いしても、ぼくをこの家に戻すことを許さない。そうしているうちにママのおなかは大きくなる……。
 喰いしばった歯の間から、熱い息が噴き出す。
 胸が灼(や)きついているみたいだ。手も脚も、はげしい怒りでぶるぶると震えて止まらない。引いていた血が、一度に頭に昇ってきていた。
 もう、許さない……! 
 ママと離れて暮らすくらいだったら、死んだほうがましだ。生きてはいけない。心から、そう思う。
 でも、佐伯……! あいつだけは、許さない。
 がくがくと笑う膝をあげる。怖くはなかった。あるのは怒り、恨み。
 もう、迷いはなかった。
 ママは、ぼくだけのものだ。



 歩(あゆ)みはしっかりしていた。
 脚がこまかく揺れてはいるけど、なんてことない。武者ぶるいってやつだ。怖くなんか、ない。ぼくは足音を殺して、ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめて歩いた。
 寝室の隣(となり)のドアを横目に通りすぎる。
 今夜、ここには用はない。数なんか覚えてられないくらいこの部屋から寝室を覗いたけれど、もうそれも終わりだ。
 寝室の扉の前で足を止める。ぼくは大きく息を吸い、吐いた。
 木の柄を握った右手を、目の高さまで持ち上げる。ぜったいに、これを離してはいけない。目的を、果たすまでは。
 妖(あや)しく光る銀色の光を見つめる。
 難しいことじゃない。落ち着いてやれば絶対にできる。殴(なぐ)りあいをするわけじゃないんだ。大人も子供も腕力の差も関係ない。
 息を口から吐き出すと、ぼくはドアノブに手をかけた。かちゃりと音がする前に、ドアを蹴り開ける。
 部屋の電気はついたままだった。
 ベッドの上に、ママとあいつがいる。ふたりとも裸だった。
 四つん這いになっているママに、佐伯が覆(おおい)いかぶさろうとしていた。白いお尻を、硬く大きな肉棒が貫こうとしている。
 何度もとなりの部屋から覗いた光景だった。佐伯がママを奴隷みたいに扱い、犯す。佐伯は王様で、暴君(ぼうくん)だった。口答えひとつ許さなかったし、足の指まで舐め、しゃぶらせた。そして自分の子供を生ませようとさえしている。
 でも、今夜でおしまいだ。いま、すべて終わらせてやる。ぼくは手にした包丁を向けた。
「何をしてるんだ。そんなものを持ち出して」
 男はベッドの上からぼくを見下ろし、鼻で笑った。
 手の中にある凶器を、まるで気にしていないみたいだ。灰色の口ひげが揺れている。毛の生えた大きな手が、白いお尻を撫(な)でていた。見せつけるように。
「ふん。どうせ刺す度胸もないくせに。さあ、そいつをよこせ」
 ベッドから降りると、佐伯は余裕の表情で手のひらを見せた。
 大きくてごつごつした手だった。伸びた腕は筋肉質で、ぼくの何倍も太い。捕まえられたら終わりだ。ひるみそうになる自分を打ち負かすために、ぼくは大声をあげた。
「うわああああああっ!」
 殺すつもりだった。
 佐伯を、殺す。この後どうなろうとかまいやしない。こいつだけは許さない! 地獄へ突き落としてやる! 
 ぼくは刃物の柄を両手に握りしめ、佐伯に向かって突進していった。
 

 何がどうなったのか、わからなかった。
 息苦しい。
 口や鼻から漏れているひゅうひゅうという音は、呼吸なのか情けなく漏れる声なのか自分でもわからない。
 男の胸に刃を突きたてる寸前、目の前が真っ暗になった。
 殴られたと気づいたのは、頬がじんじんと熱くなりはじめてからだ。くらくらする頭を押さえ、目を開けた。目がちかちかする。顔のすぐそばに床があった。
「この、ガキが……この、ガキが……」
 頭の上で、男が同じことばを繰り返した。息が荒い。
 口の中に唾(つば)が溜まっていて気持ち悪かった。飲みこむと変な味がする。血だってことに気づくまで、ちょっとだけ時間がかかった。
 手で唇を拭うと、べっとりと赤い液体がついた。ずいぶん口の中を切ったらしい。
「わたしを殺そうと、しやがった……」
 包丁が、男の分厚い手の中にあった。
 ぜったいに手から離さないと決めたはずなのに。佐伯の息の根を止めるための刃が、いまはぼくに向けられている。
 にぶく光る銀色の先には、顔を真っ赤に染めたロマンスグレイの顔があった。額には青い筋が浮かび上がっている。
「はあ、はあっ、はあっ……」
 ぼくの呼吸は乱れに乱れていた。
 床についた手が、ぶるぶると震える。胸はばくばくと破裂しそうなほど大きな音をたてていて、冷たい汗がひっきりなしに顔や背を流れている。
 震えは手から腕へ、腕からからだ全体に広がっていき、ぼくは一秒もじっとしていることができなくなった。
 怖くてたまらない。
 向けられた包丁も、刃の後ろに見える赤鬼のような怒りに満ちた表情も。おそろしくて悲鳴すらあげられないほどだった。
 叫んだ瞬間に刺されてしまうんじゃないかとおびえてしまっていた。恐怖に胸が押し潰(つぶ)されそうだ。目の前の男が、さっきよりはるかに大きく見えた。
 佐伯を殺す、と息巻いていたぼくは、もうどこにもいなかった。
 そんな気力がどこからわいてきたのか、不思議(ふしぎ)なくらいだ。あらかじめトイレに行っていなかったら、漏らしてしまっていたに違いない。
 ぼくはただただ恐怖に震えていた。がちがちと歯を鳴らして震えることしかできなかった。
「毛唐の、ガキめが……」
 刃先が動いた。ぼくのほうへと。
 殺される! 
 怖くて怖くて、目を閉じた。
 もうだめだ。ぼくは、死ぬんだ。自分が死ぬ瞬間(しゅんかん)なんか見たくない。真っ暗な闇(やみ)のなかで死ぬのか、と思った。
 息が苦しかった。
 流している汗の冷たさももう感じない。口の中にいっぱいの血の味もわからなくなっていた。見えているのは暗闇だけ。これが死なのかもしれない。ぼくの喉は切り裂かれ、真っ赤な血が噴き出しているのかもしれなかった。痛みはない。でも、どんどん気が遠くなっていく。
 ぼくは深い闇に溶けていき、そしてなくなった。



「丈(じょう)……」
 目蓋(まぶた)が重い。
 額と頬が冷たかった。頭もはっきりしない。ここはどこだっけ。ぼくは、横になっているのかな。
 呼びかけに答えなきゃ、と思うのだけれど、なぜか声が出ない。手も足もほんのちょっとしか動かせなかった。
「ごめんね、丈……」
 髪を撫(な)でられてる。
 澄んだ声と、やさしい手は、この世でもっとも美しいひとのものだった。顔が見たい。朦朧(もうろう)としながらも、うっすらとだけど目を開けることができた。
 部屋の明かりが眩(まぶ)しすぎる。
 何度か瞬(まばた)きして、目を慣(な)らす。ママの顔が、すぐそばにあった。心配そうに目を細めている。ぼくはベッドの上に寝かされているらしかった。自分の部屋だとわかるまでには、さらに何秒か必要だった。
 ぼくは佐伯に殺されることなく、ただ気を失ったみたいだ。
 ママがぼくを部屋まで運んでくれたんだろうか。佐伯から守ってくれたのかもしれない。寝室でのことを思い出して恥ずかしくなった。
 あんなに怖い思いをしたのに、死ななくてよかったとか、生きている、という実感めいたものはわいてこなかった。頭がぼうっとしているせいかもしれない。
 布団のなかの手が、あたたかかった。
 ママが握っていてくれていたことに気づく。ぼくはうなされてたのかもしれない。ほっそりした指が、ぼくの手に絡(から)まっていた。
「ぼ、く……」
 かすれた声だった。
 自分の声にひどく驚(おどろ)いて、ぼくはことばを続けることができなかった。ママはゆっくりと首を横に振って、微笑(ほほえ)んでくれた。
「いいのよ、丈……何もいわなくて、いいの。もう、何も心配しなくて、いいからね……」
「え……?」
 心配しなくていい……? 
 どういうことなんだろう。聞き返そうとして口を動かすと、頬(ほお)にはげしい痛みが走った。殴(なぐ)られたんだっけ。
 頬には湿布(しっぷ)が貼ってあって、目の上には濡れたタオルが乗っかっていた。ぼくは気を取られてしまい、質問するのを忘れてしまった。頭はまだぼんやりしていて、考えがまとまってもいなかった。
「朝になったら……何もかも、よくなってるわ……もう、がまんすることも、ないから……ぐっすりと、おやすみなさい」
 紅いくちびるに浮いた微笑みは、ぞっとするほど美しかった。黒い瞳のかがやきが、いつもより強い気がする。
 ママはそっとぼくに口づけすると、部屋の電気を消した。
「おやすみ、丈……」
 扉が閉まってすぐ、ぼくは目蓋を開けていられなくなった。すごく眠い。どうしてこんなに眠たいんだろう。
 口の中に苦みがあった。
 血の後味(あとあじ)なんだろうか。風邪薬の味に似ているような気もする。ママとのキスの後だっていうのに。なんだか気分が悪かった。
 ああ、もう何も考えられない。
 とにかく眠い。眠ろう。ママのいうとおり、朝までぐっすり……。


 ◆


 わたしはひとり、ベッドの上に取り残されていた。
 灰皿いっぱいの吸殻の中に、新しい煙草の灰を落す。苛立ちは募るばかりだった。
 あの毛唐(けとう)の餓鬼(がき)め。
 度胸も根性ないくせに、わたしを殺せると思ったのか。身のほど知らずもはなはだしい。ひ弱な小僧が、戦争で殺し合いを経験したわたしにかなうはずがないのだ。
 だいたい、誰の金で暮らしていると思っているのか。
 一銭たりとも自分で稼いだこともないくせに、庇護者に逆らうなど許されない。仮にも父親になるわたしに歯向かった罪は軽くはないぞ。
 とりあえず、明日から鉄拳教育を開始する。
 早く中学校の寮に入りたいと心から願いたくなるくらい厳しく躾けてやろう。口答えひとつ許しはしない。土下座の仕方もみっちり仕込んでやる。挨拶も満足にできない餓鬼にわたしの息子を名乗る資格はない。
 そして……そうだ。芙美にはもう会わせない。
 餓鬼が中学に入学すると同時に、ここを引き払うのだ。わたしと芙美は新居を構える。その所在は当然、餓鬼には教えることはない。逃げ出したくても、夏休みなどに帰省したくとも、奴には帰る場所がない。
 うむ。これは傑作だ。そうしよう。小僧め。わたしに盾突いたことを、これからじっくり時間をかけて後悔させてやるからな。
 少しだけ気分が晴れたわたしは、新たな煙草に火を点けた。
 それにしても遅い。
 芙美は何をやってるんだ。餓鬼を部屋に放ってこいとはいったが、介抱してこいとは命じていない。すぐ戻るようにといいつけたはずだ。紫煙を眺めながら、芙美が甘ったれた息子を慰めている姿を思い浮かべる。わたしはまた、いらいらしはじめていた。
 お仕置きだな。
 最近叩いてやってないせいか、つけあがっているのだろう。しょせん愚かで馬鹿な女だ。定期的に躾をほどこしてやらなければ、自分の立場を忘れてしまう。今日はどうしてやろうか。
 ここらでひとつ、厳しい態度で臨むべきかもしれない。
 大きく煙を吐き出したとき、脱ぎ捨てたスラックスが目に留まった。通されたままになっている、革のベルト。今夜はこれで叩いてやろう。尻を突き出させて這わせ、存分に鞭打ってやる。そうとうに堪えるはずだ。
 泣きじゃくりながら許しを乞う芙美の姿が脳裏に浮かぶ。
 思わず口もとがほころんでしまう。考えただけでぞくぞくする。あの雪肌にベルトとはいえ鞭の痕を刻んでやれると思うと、それだけで口の中に唾が溜まる。愉しい夜になりそうだった。 
 股間のものは天を衝いている。はげしい興奮は射精の勢いに影響する。たっぷり注ぎこんで、今日こそ孕ませてやろう。わたしは固く決意した。
 ベルトを手に取ろうとベッドから降りたとき、寝室の扉が開く。
 薄暗い廊下から入ってきた女は、いつもに増して美しかった。紅いくちびるが夜露に濡れた花びらのように艶めいている。待たされて苛立っていなければ、即座に吸いついて味を確かめたいくらいだ。
「旦那さま。お待たせ、しました」
 毅然(きぜん)とした口調だった。
 ほんの数秒ではあったが、気(け)おされて声をかけることができなかった。芙美の瞳は真っ直ぐにわたしを捉えていて、いつものような弱々しさがまったくない。不覚にも凛々しいとさえ思ってしまった。
「お、遅い! すぐに戻れと命じただろうが!」
 目を奪われた自分を恥じ、誤魔化(ごまか)すように怒鳴った。
 いつもの芙美なら床に膝をつき、手をついて頭を下げる。
 そしてわたしの差し出した足の指を一本一本、這ったままていねいに舐め、しゃぶる。わたしがいいと言うまで。満足するまで。そのはずだった。
 しかし、今夜は違った。
 表情なく目を逸らすと、芙美はわたしの横をすり抜け、ベッドへと歩いていく。すれ違う瞬間に見えた紅いくちびるには、冷ややかな笑みすら浮かんでいる。
 許しがたい態度だった。絶対服従のはずの女に嘲笑われて頭に血が昇らないわけがない。
「何のつもりだ、芙美!」
 芙美は振り返らなかった。
 ベッド横の小さな棚に向かい合うと、引き出しに手をかける。
 その中にあるものにはもう用がないはずだった。以前は多用していた薄っぺらいゴム――避妊具が常備されている引き出し。
 今になってなぜ開けようとする? わたしとの子づくりを拒否するつもりか? そんなことは許されない。おまえはわたしの女なんだ。
 わたしは床の上に放置していたズボンからベルトを引き抜いた。返答しだいでは今すぐにでも鞭打って、芙美の誤った考えを正してやるつもりだった。口で言ってもわからない愚かな女には、叩いて躾けるしかないのだ。
「こっちを向くんだ、芙美。わたしたちにはもう、そんなものは要らないはずだろう?」
 芙美のからだが、ゆっくりと回転した。
 哀れむようにわたしを見つめた女が握っていたのは、避妊具などではなかった。
 黒く光る、鉄の塊。
 徴兵で戦地に赴いたとき以来、目にしていなかったものによく似ていた。いまやテレビドラマやスパイ映画でしかお目にかかれる機会のないものだ。
 ただし、白い手のなかにあるそれは、わたしの記憶にあるものと比べてひどく小さかった。
「そんな玩具(おもちゃ)で何をしようというのかね。さあ、いつものように這って尻を突き出すんだ。お仕置きしてやる」
 本物ではないと、わたしは判断した。
 子供の玩具にしては精巧なつくりだが、あまりにも小さすぎる。スーツどころかベストの胸ポケットにもすっぽり収まりそうだ。そんなに小さな拳銃などあるわけがない。仮に本物だとしても、この女にわたしが撃てるわけがなかった。
 わたしは主人であり、芙美は奴隷に過ぎないのだ。小さな銃口はこちらに向けられていたが、まったく気にならなかった。あの餓鬼が握りしめていた包丁と同じだ。
「さあ、早く」
 さっき小僧にしたように、手を伸ばす。
 母子そろって意味のない抵抗をするのが可笑(おか)しかった。今夜のお仕置きがさらにきつくなるだけなのだ。
「救いようの、ないひと……」
 紅いくちびるが開き、何かつぶやくのが聞こえた。聞き返そうと顔を近づけた刹那、破裂音が鳴り響いた。
 絶え間なく、幾度も。
 数えている暇はなかった。
 血!
 血だ! 
 鮮血が、わたしのからだから噴き出している! 赤い……赤い、血が……。
「あ、あ……」
 伸ばした手の先に、紅いくちびるが見えた。わたしの、ものだったくちびる……。わたしの……。
 紅いくちびるが、遠ざかっていく。
 闇が、迫っていた。


 ◆


 キュルキュルと車のエンジンをかける音が聞こえる。
 まだ眠かった。目を開けることさえおっくうだ。疲れているというよりは、からだの自由が奪(うば)われている感じだ。だるくて手も足も動かせないし、動かしたくない。
 オリンピックの祝砲の音が、頭のなかにこびりついている。
 夢の中でも聞いていたんだろうか。軽くため息をつく。どうでもよかった。とにかく眠い。
 寝なおそうとわずかに寝返りを打とうとしたとき、桃に似た香りが鼻をくすぐった。
 匂いの正体を知りたいという思いが、眠気に勝った。目蓋(まぶた)を何度かぱちくりさせる。
 ぼやけた目に、赤い花が映し出される。枕の横に、薔薇(ばら)の花が一輪。ママが置いていったんだろうか。ぼくはしばらく鼻をくんくんさせて、赤い薔薇の甘い香りをたのしんだ。
 車のエンジンの低い音が洋館の外に響いている。部屋は薄暗かった。カーテンのすきまから射しこむ日の光はまだ弱い。夜は明けはじめたばかりだった。
 目を閉じる。車が去っていく音をじっと聞いた。
 佐伯のお帰りか。
 ママを好きほうだいに弄(もてあそ)んだあと、一眠りして帰ったんだろう。夜が明ける前にあいつが帰宅するのは、いつものことだった。
 ただ、エンジンの音が消えていく方向が、いつもと違う。洋館の裏のほうに向かって行った。いつもとは逆の道だ。洋館の裏には森と、大きな沼しかないはずだ。
 そこまで考えて、また急激な眠気(ねむけ)がおそってきた。逆らえそうにない。
 それに、佐伯がどこに向かおうが、どうでもいいことだ。いっそのこと車ごと沼に落ちて死んでくれたらいいのに。
 沼に沈む黒塗(くろぬ)りの外車を想像しながら、ぼくは深い眠りに落ちていった。



 暑苦(あつくる)しくてたまらない。
 熱い息が枕(まくら)を濡(ぬ)らしていた。ベッドの上と夢の中を何べんも行き来していたけれど、完全に目覚めることができない。大量の汗を吸ったパジャマが重かった。からだにこもった熱が、気分をますます悪くしている。
 頭も重い。
 寝返りをうつことすらままならなかった。吐き気まで覚えているのに、布団を押しやることもできない。できることといえば、でたらめに息を吐くことだけだ。声もあげられない。
 苦しい。つらい。助けて、ママ。何度も心の中で叫ぶ。
 気分が悪くて息苦しくて、でもどうしようもない。悪夢(あくむ)のなかにいるのか目覚(めざ)めているのか、自分でもわからない。
 ふいに、息苦しさがなくなった。
 不規則に吸っては吐いていた息が、だんだん落ち着いていく。
 からだが軽くなる。汗が引いていく。重りをつけられていたような頭も、ウソみたいに軽くなっていった。ふんわりとした風を、肌に感じる。涼(すず)しくて、気持ちがいい。
 肌をやさしく撫(な)でてくれたのは風だけじゃなかった。
 冷たく濡れた布が喉に押し当てられ、首の周りから胸にかけてすべっていく。肌にまとわりついていた汗が、拭(ぬぐ)われていくのを感じる。
 天使に抱かれてるみたいなやすらぎを感じた。
 閉じている目蓋(まぶた)の先が明るい。
 眩(まぶ)しいとは思わなかった。きっと目を開けても平気だ。だって、ここは天国に違いないから。こんなに気分がいいところは、天国以外にありえないもの。
 目覚めは本当に自然だった。目をこする必要もない。光に包まれていたけれど、眩しくなんかなかった。そして、やっぱりそこは天国だった。
「おはよう。もう、お昼よ。おねぼう、さん」
 ぼくの手を導いてくれる天使が、明るい陽射(ひざ)しを浴びていた。ぼくをやさしく抱きしめてくれる女神が、最高の微笑(ほほえ)みを浮かべていた。
 誰よりもきれいで、誰よりも愛しいひと。ママは天使で、そして女神だった。
「あ……う……」
 返事をしなきゃ、と思ったけど、声が出ない。喉がカラカラだった。汗を出しすぎていた。
「はい、お水。ゆっくり、飲んで」
 透明なグラスを受け取り、口に当てる。
 飲み干した水は冷たく、とてもおいしかった。渇ききっていた喉が、たちまち潤(うるお)っていく。よみがえった気分だ。昨夜切った口の中の痛みも、ほとんど気にならなかった。
「ふふふ、おいしい?」
「う、うん……」
 気のきいたことを言いたかったけれど、何も思いつかない。
 ふたたび、ママが濡れたタオルでぼくのからだを拭きはじめる。パジャマは上も下も脱がされていて、ぼくは白いブリーフひとつしか身に着けていなかった。
 汗ばんだ肌を白い手がやさしくタオルで拭っていく。
 ぼくはママの手をじっと目で追いつづけた。清められた肌の上を、窓から入る柔らかい風が撫でていった。
 昨夜のことを、ぼんやりと思い出す。
 ぼくは佐伯に殺されることはなかった。それだけは確かだ。
 でも、そのあとママはどうなったんだろう。ひどくいじめられたんだろうか。叩かれたんだろうか。少なくとも顔は叩かれてはいないみたいだけれど、ひどい目にあわされたかもしれない。
 「心配いらない」、「朝になったら、何もかもよくなってる」……。昨夜のママはそういってくれたけれど、どういう意味だったんだろう。
 訊(き)いてみたかったけれど、ママの微笑みをくもらせたくなかった。
 天国にいるみたいないい気分をこわしたくなかった。昨夜のことは、あとでいい。今は忘れよう。佐伯のことも、いやなことはすべて。
 ベッドの上で、ぼくはからだを起こした。
 まだちょっと気(け)だるさが残っていたけれど、すごくすっきりした気分だった。ママは背中を拭いてくれたあと、目を閉じて顔を近づけてきた。
「ん……」
 くちびるをそっと重ねるだけの、やさしい口づけ。
 外国の映画で恋人たちが朝のあいさつがわりにするキスみたいだった。舌をからめるようないやらしいキスじゃなかったのに、頭がぼうっとなった。顔が熱い。真っ赤になっているかもしれない。
「ああ、丈……なんて、かわいいの……」
 首にしなやかな腕がまわされる。
 白いブラウスごしに、ふくよかなおっぱいが頬(ほお)に押しつけられた。
 殴られたあとがちょっと痛んだけど、ぷにぷにしたお乳は柔らかくて気持ちよくて、自分から顔を埋めた。いい匂いがする。その香りには覚えがあったのだけれど、思い出せなかった。つい最近、嗅(か)いだばかりのような気がするのだけれど。
「あ、いけない……汗、拭いてあげなくちゃ、ね?」
 ぼくの顔を胸から離すと、ママはベッドの上にからだを移した。
 ぼくの足もとに座ると、汗を吸ったブリーフに手をかける。喉が大きく鳴るのを、止めることができなかった。
 するするとパンツが下げられていく。
 ぼくは逆らわなかった。腰を浮かせ、足を上げる。ぐっしょりと濡れたブリーフが脱がされ、丸裸になる。解放された気分だった。
 黒い瞳は、隠されていた部分へと向けられている。恥ずかしいとは思わなかった。もっと見てもらいたかった。まじまじと見つめられて、むくむくと膨(ふく)れていく。
「すごい……大きく、なった、ね……」
 勃起(ぼっき)そのもののことなのか、成長したと言われているのか、よくわからない。すべすべの頬が紅く染まるのが、眩(まばゆ)いほどの陽射しのなかでもはっきりと見えた。
「ね……。タオルと、ママのお口……どっちが、いい?」
 鼻息が荒くなる。汗を拭う方法を訊かれているんだ。
 ぼくを見上げる目が、からかうように細くなっている。くちびるの間から舌がほんのちょっとだけ突き出て、端から端へとすべって消えた。わずかに開いたくちびるは濡れて、誘っているみたいだった。
「お……お口、が、いい……」
 さっき水を飲んだばかりなのに、もう喉が渇いていた。
 期待に胸は高鳴っていて、肉棒はパンパンに張っていた。皮に包まれた亀頭の先からは、透明な露(つゆ)がぷくっと浮いている。
 ママはくすくすと笑いながら、ぼくの足もとに這い、太ももの間に顔を近づけていった。
「ん……丈の、汗の、匂い……」
 くんくんと鼻を動かされて、さすがに少し恥ずかしくなった。
 昨日はお風呂に入っていない。おまけにブリーフは重くなるくらい汗を吸いこんでいる。きっとひどく臭(にお)うに決まっていた。
 でもママは顔をしかめもしない。
 桜色(さくらいろ)の舌を伸ばすと、太股(ふともも)の内側から脚のつけ根へと押しつけたまますべらせていく。唾液(だえき)のすじが一直線に伸びていった。
 くすぐったくて、ぼくはぴくぴくって下半身を震わせてしまう。おかしかったのか、ママはときおり口を離してくすくすと笑った。
 濡れた舌は唾液の跡を残して、金玉と脚の際(きわ)へと移っていった。
 焦(じ)れったかったけれど、ぞくぞくした。ママは玉袋の横のあたりをぺろぺろと舐めている。ふいに「あっ」と小さな声をあげて顔をあげた。
「ほら……ここ。毛が生えて、きてる」
 長い人差し指の先は、肉棒の根もとだった。
 細い縮れ毛が、確かに一本だけ伸びている。まだ二センチくらいしかない茶色がかった毛は、なんだか頼りなく見えた。本人も気づいていなかったくらいなのだ。
「うふふ、丈も大人になってきてるんだね……」
 一本だけしかない縮れ毛を、ママは愛おしそうに舌先だけで舐めた。毛の周りがすぐにべとべとになった。
 目を伏せて何度も丹念(たんねん)に舐めあげられているうちに、息が苦しくなってくる。もう鼻だけでは追いつかなかった。ますます口がかわく。
 もどかしさを勃起も感じているようで、ぴゅるぴゅると透明な液を茎に垂らしている。はやくチンポを舐めて欲しかった。
「ん……がまん、できなくなっちゃった?」
 ママがいたずらっぽく微笑んで、ぼくの顔を見つめる。あわてて肯(うなず)くと、少女みたいに高い笑い声が返ってきた。
「ごめんね……いっぱい、なめなめしてあげるから、ね……」
 勃起の根もとに両手を置くと、紅いくちびるが肉棒の先に押しあてられた。
 皮をかぶった亀頭の先が、ぽってりしたくちびるを上下に割る。きれいに並んだ白い歯に、粘った汁がなすりけられた。
「ん……ちゅ……」
 柔らかなくちびるが、肉棒の先を挟む。
 ママは透明な粘液と皮に埋もれた亀頭の先っぽを吸いはじめた。余った皮が引っぱられる。ピンク色の中身との間に溜まった汁もすすられていた。
 ぼくは口を噛んで高まる快感に耐える。気を抜くと透明な汁だけでなく、熱く白い液まで放出しちゃいそうだった。
「ん、ふ……」
 ぺろり、と。勃起の先をひと舐めして、ママが口を放した。
 紅いくちびるとチンポの先が、細い糸でつながっている。唾液なのか、ぼくがあふれさせたいやらしい液なのか、わからなかった。
「おはようのキス……。おちんちんにも、しちゃった……」
 上目づかいの瞳は潤んでいた。
 うっとりとした表情で、ママはべとべとになった肉棒に頬ずりする。とてもいやらしかった。瞬(まばた)きするのも忘れて、ぼくはチンポがママの顔を汚すのを見下ろしていた。
「はあ、はあ……ママぁ……」
 無意識に、うわずった声が出ていた。
 少女みたいに可愛(かわい)くて、女優よりもきれいなママ。ぼくがしてほしいことはなんでもしてくれる、いやらしくて従順(じゅうじゅん)なママ。欲望は胸と頭と、そして肉棒のなかで破裂する寸前にまで膨(ふく)れあがっていた。
「丈……ママは、丈のものよ……」
 つるりとした頬っぺたから、勃起が白い喉首へとすべり落ちる。顔を上げたママの瞳は熱っぽくて、それでいて教会の絵に描かれてる聖母みたいにやさしかった。
「好きなこと……して、いいのよ……」
 ふわふわの髪の先が亀頭をくすぐる。
 どくん、どくん、と、心臓と肉棒がいっしょに脈打っていた。ママの白い喉にも伝わっているんだろうか。ぼくの、熱い思いが。
「……おまたに……ママの、おまたに、いっぱい、いっぱい……どくどく、したいっ……」
 しぼり出した声は、自分で思っていたよりずっと大きかった。白くて細い喉が上下に動くのを、音だけでなくぼくはチンポで感じた。ママも興奮してるんだ。
「ん……。ママも、丈の……丈のかたいおちんぽに、いっぱい、いっぱい、どくどくって……されたい……」
 熱くねっとりとした視線を向けつつ、ママは淫(みだ)らにおねだりをした。
 ぼくはもうすこしで白いおしっこを漏らしてしまうところだった。ママの耳の下と髪には、堪えきれずに噴き出た生温かい粘液がべっとりこびりついてるはずだ。
 濡れたタオルがすぐそばにあるというのに、ママは手で拭いもしなかった。からだを起こし、きゃしゃな腰に手をかける。ママがジーパンを穿(は)いていたことに、ぼくは今さら気づいた。
 ぴっちりしたジーパンが降ろされていくのを、ぼくは胸に手を当てて眺(なが)めている。息を整えようと一生懸命だった。でも、ほとんど意味はなかった。すらりと長い脚が姿を見せたときには、胸どころか頭の中にまで、脈動の音が響き渡っていた。
 脱ぎ捨てられたジーパンの裾(すそ)が茶色く汚れていた。ちょっと気にはなったけど、ベッドの上のママに目を移したときにはどうでもよくなってしまった。
 大事なところを包んでいた小さな下着が、するりと足首まですべり落ちる。
 ぼくは渇いているはずの喉を大きく鳴らした。目が離せなかった。おへその下から脚のつけ根まで、つるりとして何も隠すものはない。以前は黒い毛が生えていたなんて信じられないくらいだった。
「見て……丈……」
 ぼくの腰のあたりを、二本のすらりと長い脚が跨(また)いでいる。
 ぴったり閉じていた割れ目を、ママは片手の指で開いてみせた。ピンク色の内側が、きらきらと透明な液体に濡れて光っている。
「丈の熱い、おちんぽ……舐めてるだけで、ママ……こんなにおもらし、しちゃった……」
 恥ずかしそうに睫毛を伏せるママは、胸をきゅうっとしめつけるくらい可愛くて、色っぽくて、とてもいやらしかった。
 息が苦しい。がちがちに勃起したチンポも限界を越えたらしい。ちょっとだけど、おしっこの穴から白っぽい汁がぴゅっと飛び出した。触れられてもいないのに。
「ごめんね……いま……ママのおまたに、入れてあげる、からね……」
 くすっと小さく微笑み、ママは割れ目を開いたまま腰を降ろした。
 皮に包まれた亀頭が、小さく裂けた穴の入り口に触れた。幹の根もとを白い手がそっと握る。すぐにも金玉から昇って噴き出しそうな白いおしっこの勢いを、ぼくは必死になって抑えこんでいた。
「もう、ちょっとだけ……がまん、して……」
 ベッドに膝をついたママが、さらにお尻を落とす。肉棒の先っぽが、ゆっくりと呑みこまれる。狭い穴の入り口に、余った皮だけがとり残されていた。
「ママの、おまたの奥で……いっぱい、出して、いいから……」
 もう息ができなかった。
 穴(あな)のなかはきゅうきゅうと締めつけて熱く、剥けたばかりの亀頭をぬるぬる撫でる。いつ漏らしてしまってもおかしくなかった。
 それにママの割れ目を押し広げて、チンポが入っていくのを目の当たりにしているのだ。ぼくは目まいしそうなほどに高ぶりきっていた。
「んっ……すご、い……こんなに、かたいの……熱い、の……」
 ついにお尻がぼくの脚のつけ根に乗ったとき、ぼくは歯を食いしばって耐えていた。
 根もとまで肉棒が挿しこまれているのが見える。ママと、一番深くつながってるんだ。顔が熱い。息を止めたままだったから、きっと真っ赤になってるはずだ。
「あんっ……いいのよ、もう……」
 ぼくの様子(ようす)に気づいたママが、あわてて声をかける。
 胸に溜めていた息を吐いた。すぐに漏らしてしまうんじゃないか、射精(しゃせい)してしまうんじゃないかと思ったけれど、そんなことはなかった。
 よかった。まだママのお股(また)のぬるぬる穴のなかにいられる。熱い息を口をすぼめて吹き、新鮮な空気を吸いこんだ。ママのおっぱいに手を伸ばす。
 そのときだった。はげしすぎる快感がぼくの腰を衝(つ)きあげたのは。
「ああ! おお! おふうぅっ……!」
 脈動(みゃくどう)っていうより、地震がからだのなかで起こってるみたいだった。
 がくがくと全身をふるわせはじめたぼくを、上半身を倒したママがぎゅうっと抱きしめてくれる。ぼくはママに震えながらしがみついて、はげしい痙攣(けいれん)を繰り返しながら射精をはじめた。
「はあんっ……いっぱい、どっぴゅん、して……」
「はあっ、ああおうっ、うううっ……!」
 割れ目に挟まれて脈打つたびに、わけのわからない喘ぎ声がぼくの口から飛び出した。
 苦しいけど、気持ちいいっ……!
 どくん、どくんって、ママのなかに白いおしっこを注ぎこんでるって思うと、口がだらしなく開きっぱなしになった。
 玉袋の中身すべてを、出し切ってしまいたい。ママのおなかがいっぱいになるくらい、どくどく、どくどく、したかった。
「ああんっ、……まだ、お射精、して……」
 何回、どくんってなったか、わからない。
 お尻の穴と金玉の間がずきずき痛い。でも、もっと射精したかった。いっぱい注げば注ぎこむほど、ママがぼくのものになる気がした。
 ぼくがはげしく震えると、ぴったりくっついてるママにも伝わる。胸に押しつけられたおっぱいが、ぷるぷる揺れてこすれた。
「はあああ……はああーっ……」
 気が遠くなりかけたころ、ようやく勃起は精液を注ぎこむのをやめた。
 ぼくは魂まで抜かれたみたいになって、へとへとだった。指の一本も動かしたくなくない。夢を見てるような気分だった。
「あう、ん……いっぱい……いっぱい、どくどく、したね……」
 紅いくちびるが寄ってくる。ぼくたちはくちびると唇を上下にこすりつけるようにして、口づけを交わした。
 かさかさにかわいた唇を、ママは舐めて湿らせてくれた。たっぷりと唾液で濡らされた舌が、固くなった唇の上をなぞっていく。熱い息が頬に振りかかっても、ママは涼しい顔をしていた。
「愛してるわ、丈……ママは、あなたのものよ……」
 ぼくもだよ、と言いたかったけれど、声にはならなかった。
 かわりに手を伸ばしてしなやかな背中を撫でる。疲れきったせいか、陽を浴びたママの顔がまぶしい。
 満ち足りて幸せだった。




 昨日と違って今日はいい天気だ。ぼくは帰り道を歩きながら、うわついた気分をおさえることができなかった。ぴょんぴょんとリズムよく水たまりを飛びこえ、よけていく。
 あの日から一週間が経(た)っていた。
 佐伯はあれから一度も家に来ていない。
「心配しなくても、大丈夫よ。もう、佐伯さんとは話し合いがついたから」
 ママはにこやかにそういってくれたけど、すぐには信じられなかった。寝室の隣からさんざん覗いていたから、あいつがどれだけママにのぼせていたか知ってる。
 ぼくを遠くに追いやってでも、ママを自分のものにしたかったんだ。
 もちろん大嫌(だいきら)いだし、死んでしまえと思うけど、ママが好きで自分だけのものにしたいって気持ちは、痛いほどよくわかった。そんな男が簡単にあきらめるだろうか。
 おまけに、佐伯は話し合いくらいで引き下がるやつじゃない。王様みたいに振る舞ってわがまま放題だった男が、奴隷(どれい)あつかいしてたママの話をおとなしく聞くとは思えなかった。
 ぼくは佐伯の影(かげ)におびえていた。
 殺そうとして逆に包丁の先を向けられたとき、本当に殺されると思った。思い出すだけで足が震え出す。あいつが怖くてたまらない。
 ママはもう平気っていうけど、あいつがやってくるかもしれないと思うと安心なんかできなかった。次の日にはやってきて、ぼくに仕返しするんじゃないかと思った。
 でも、今日でもう一週間。
 あいつは来なかった。電話ひとつないみたいだ。最近のあいつからは考えられないことだった。どんなに忙(いそが)しそうにしていても、ほとんど毎日やって来てたのだから。
 どんなやりとりがあったか、ママは教えてくれなかった。何か弱みを握ったのかもしれない。
 もう、どうでもよかった。きっと、もうあいつは来ない。やっとびくつく毎日から抜け出すことができそうだった。
 学校はあいかわらずつまらなかった。
 クラスのやつらも、先生も、オリンピックに夢中だ。なんとかという選手が金メダルをとったとか、そんなことばかり目の色を変えて話してる。
 ぼくには関係なかった。「あいつはアメ公だから、きっとアメリカを応援(おうえん)してんだ」なんて陰口(かげぐち)を叩(たた)くやつもいるけど、それもどうでもいい。相手をする気にもならなかった。くだらない。
 ぼくにはママがいる。
 ママがいればそれでいい。ずっと、ずっとママとふたりだけで暮らしたい。
 朝起きたらママがいて、夜寝るときもすぐ横にママがいる。抱きあって眠って、休みの日はずっといっしょ。ぼくたちは、この生活が永遠につづいて欲しかった。
 ママはぼくだけを愛してくれてるし、ぼくもママだけを愛してる。
 両想(りょうおも)いの恋人どうしといってもよかった。ママは可愛(かわい)くて、きれいで、好きなだけ甘えさせてくれる。もう少しでぼくのほうが背が高くなるけど、やっぱり甘えたい。恋人だけど、ママなんだもの。
 今日も、帰ったらママにいっぱい甘えるつもりだ。
 おかえりなさいのキスを、チンポにもしてもらおうかな。今日もいっぱい白いおしっこをどっぴゅんするんだ。明日は休みだから、最低(さいてい)でも五回はさせてもらおうっと。
 また、ママのお口をトイレにしたいっておねだりしたら、させてくれるかな。それとも、後ろからぱんぱんさせてもらおうか。
 後ろからお尻に跨(また)がるのはすごく気持ちがいいし、興奮(こうふん)する。ママを征服(せいふく)してるって気分になるんだ。あんまりにも気持ちよすぎて、すぐ漏(も)らしてしまうのがもったいないけれど。
 ママのお股(また)の中は気持ちよすぎて、まだ慣れない。
 でも、ちょっとずつ、我慢(がまん)できるようになっていた。近いうちに、ママを「あん、あん」っていっぱい泣かせたり、悶(もだ)えさせたりできるようになるはずだ。その日がたのしみだった。ベッドの中でも、本当の恋人になれるその日が。
 期待に胸をふくらませていると、股間(こかん)がびんびんに張ってしまっていた。ジャージのズボンがテントを張(は)ってる。パンツに汁をこぼしちゃってるかもしれない。
 歩きにくくなってしまったけれど、ぼくたちの楽園はもうすぐそこだった。古びた洋館が見えてくる。真っ赤な薔薇(ばら)に囲まれた、ぼくたちだけのお城が。
 はやる気持ちをおさえきれず、ぼくは前屈(まえかが)みになりつつも早歩きに歩いた。
「ただいま!」
 勢(いきお)いよく玄関を通り抜けて、元気よく帰ったことを告げる。
 でも、居間には誰もいなかった。一瞬、いやな想像をしてしまう。まさか、佐伯が現れて、ママを連れて行ったんじゃ……。
 そこまで考えて、外がよく晴れているのを思い出す。
 そうだ。薔薇の手入れをしているんだ。「天気がよくなったら、久しぶりにお庭のお手入れしなきゃ」って言ってたじゃないか。
 居間で待っているつもりは欠片(かけら)もなかった。
 あわてて玄関に戻り靴を履(は)き、庭へと走る。白いワンピースを着たママが、じょうろを持っているのが見えた。顔が自然にほころぶ。
「ママ、ただいま!」
 振り返ったママは、きらきら輝いてるみたいに見えた。笑顔がまぶしい。
 いつも見ているっていうのに、胸が刺されるみたいに痛くなった。ぼくは毎日ママに一目惚(ひとめぼ)れしているのかもしれない。
「おかえりなさい。もうちょっと、待ってね。お水、あげちゃうから」
 ママはじょうろを傾(かたむ)けて、土に水を振りかけている。昨日まで雨だったから、あれは肥料(ひりょう)を混ぜた水なのかな。
 佐伯のせいでしばらく手入れができなかったのに、枯(か)れた薔薇はひとつもないみたいだった。愛情いっぱいに育てられたおかげだろうか。咲きに咲いた赤い薔薇は美しく、ママのくちびるのようにあざやかだった。
 ふと庭の片隅(かたすみ)を見ると、色違いの土がこんもりと盛られて、小さな山をつくっていた。山のてっぺんにシャベルが突き刺さっている。
「ママ、これ、肥料の入った土? ぼく、手伝おうか?」
 ママのお手伝いがしたくて、ぼくは握ったこともないシャベルの柄をとった。先の尖(とが)った部分に、赤い土がいっぱいこびりついていて重い。思わずよたよたしてしまうくらいだった。
「ううん、いいのよ。そこは来年、平らにして新しい薔薇を植えるから」
 ぼくの手から、シャベルが消える。
 あんなに重かったのに、ママは片手で軽々と持ち上げていた。そして、元あった山の上にふたたび突き刺す。
「とっても、とってもいい肥料だから……きっと今年よりもずっと、ずっと綺麗に咲くわね。赤い、赤い薔薇が……庭いっぱいに……」
 にっこりと微笑んだママの顔は、見たこともないくらい美しかった。
 黒い瞳に吸いこまれそうだ。咲き誇るバラに負けないくらい紅いくちびるが、しっとりと湿っている。
 キスしたい欲求に背中を押されながらも、ぼくはシャベルの刺さった小山が気にかかっていた。
 シャベルの先についていた、重い赤土(あかつち)。
 あれは理科の実習で見たことがあった。たしか、粘土、だったと思う。肥料なんかじゃないはずだ。
 確か、ちょっと深いところを掘ったら出てくることがあるって、地層(ちそう)の授業で教わった。ママはどうして、肥料だなんて……。
 ……深いところまで、掘った……?
 そこまで考えたとき、ぼくの頭の中ですべてがつながった。
 じょうろを片手に、楽しそうに水を振りかけていくママの後ろ姿を見つめる。
 真っ赤な薔薇の壁に白いワンピース姿のママは、秋のやさしい陽射しに照らされて天使みたいに光り輝いていた。
 なぜか頭の中で、祝砲の音が鳴り響いてる。
 車が、遠ざかっていく音も。あれは洋館の裏へ向かっていた。森の木々に囲まれた大きな沼へ。
 薔薇の色はあざやかだった。
 こんなに綺麗に咲いているのは、人の血を吸ったからだろうか。
 「あいつ」は背が大きかった。どれくらい大きな穴を掘ったんだろう。
 ぼくは、勘違(かんちが)いしていた。ママに「愛してる」なんていう資格は、まだ、ないのかもしれない。守られているだけの、子供にすぎないんだ。
「どうしたの? 丈」
 はっとする。
 ママの顔が、すぐそばにあった。誰よりもきれいで、誰よりも可愛くて、誰よりも愛しいひと。
 そして、誰よりも強いひと。
 薔薇よりも紅いくちびるが、ぼくを誘っている。甘い、甘い、濡れたくちびる。
 早く大人になりたかった。なるべきだった。
 また、繰り返されるのだろうか。
 ひょっとしたら、「あいつ」の前にも……。
「愛してるわ、丈……」
 何度も囁(ささや)かれたことば。
 心のこもった、ぼくだけに向けられることば。
 わずかに開いたくちびるからは小さな舌が見えていて、ぼくは誘惑に逆らうことができない。甘い蜜(みつ)を求めるように舌を伸ばす。桜色の実は、熱かった。
 たちまちジャージのズボンの前が突(つ)っ張(ぱ)る。痛いくらいだった。
 鼻息で訴えるだけで、ぼくの愛しいひとはすぐに察(さっ)してくれる。左手でぼくの腰を抱きつつ、ママはテントの張る股間に右の手のひらを這(は)わせた。
 何度か軽く撫でられるだけで情けなく鼻から声が漏れる。思わず腰を前に突き出してしまっていた。
「んう……ん、んっ……」
 ぼくの口は吸われたままだ。
 舐めては舐められて絡(から)む舌の音が、ぴちゃぴちゃと頭の中にまで響いてくる。口の端(はし)から溢(あふ)れ出る涎(よだれ)を、ママの舌が伸びて舐めとっていく。
 ぼくの唾(つば)を一滴も逃すまいとするママの顔が紅い。細めた目が潤んで淫らだった。
 ジャージのズボンの前はもうぱんぱんに膨張(ぼうちょう)していて、白い手がかたちを確かめるようになぞりあげている。
 興奮しすぎて頭がおかしくなりそうだった。
 パンツの中はとんでもないことになってる。ぬるぬるだらだらと粘(ねば)いのを漏らしちゃってるのが、見なくてもわかる。
 反撃とばかりに柔らかいお尻を揉むと、嬉しそうな鼻にかかった声がすぐそばで聞こえた。ぼくのお尻にもママの手が伸びて、後ろから玉袋のあたりを撫でられる。股間の上を這いまわる右手の動きが速(はや)くなっていた。
「ん……んふううぅっ……!」
 パンツのなかで脈動(みゃくどう)がはじまる。
 ママに口を吸われたまま、ぼくは射精をはじめた。
 どくんっ、どくんっ、てなるたびに、からだが勝手にはげしく痙攣(けいれん)してしまう。暴れるぼくの腰や背を、ママはぎゅうっと抱きしめて逃がさない。
 射精(しゃせい)の間、ママはぼくの股間をぎゅって握っていてくれた。気持ちよく出しきれるように、脈打(みゃくう)つのに合わせてゆっくりと扱(しご)いてくれてる。おかげで、びゅくっ、びゅくって、ものすごい勢いで出てるのが見なくてもわかるくらいだった。気持ちよすぎて意識が飛んでっちゃいそう。
「ふうっ、はあっ、はあっ、はふ、はふぅ……」
 放出が終わってもママの手はぼくの股間から離れない。残り汁をしぼりとろうと、ほそい指がジャージの上から小さくなっていく肉の棒をしこしこ、にぎにぎってし続けてる。
「はあ、はあ……ママあ……」
 口が解放されていたことに気づく。たぶん、呼吸がつらそうなぼくを見てくちびるを放したんだろう。ママはちょっとだけ離れて、こっちを見て微笑んでる。
「すごい……いっぱい……ほら、こんなに」
 ママが目の前に右手を見せつける。白く粘った液体にまみれていた。
 どうやらジャージの生地を通り抜けるくらい、勢いよく射精しちゃったらしい。自分の股間を見ると、たしかに股間の生地の上がどろどろだった。冷えてきたし、下着の中がべとついて気持ち悪い。
「ママ、ぼく、パンツ替えてくるね」
 ずっとママと一緒にいたいけど、さすがにこのままでは風邪(かぜ)をひいちゃいそうだった。
「あら……? 自分でふきふき、しちゃうの?」
「えっ」
 ぺろり、と。
 ママは桜色の舌を伸ばして、右手の指についたぼく精液を舐める振りをする。半(なか)ば伏せた睫毛(まつげ)が長くて、黒い瞳がちらちらとぼくと指についた白いねばねばを行き来してて、たまらなかった。
「ママに命令(めいれい)しても、いいのよ……? べとべとの、白いおしっこ、ぜんぶ……舐(な)めて、きれいにしろって……」
 小悪魔みたいな、いたずらな微笑み。
 ぐちゅぐちゅして気持ち悪かったはずのパンツの中が、一瞬にして熱くなる。射精したばかりなのに、がちがちに硬く勃起していた。
「ま、ママっ……!」
 我慢なんてできるわけがない。ママに抱きつき、キスをせがんだ。もちろん口づけを許してくれる。恋人のキス。いやらしいキス。
 ぼくの舌を吸いつつ、ママは右手をジャージズボンの中にもぐりこませた。硬く勃起した肉の棒を、滑(ぬめ)る精液をまぶしてぬるぬるぬるぬる扱(しご)いてくれる。
 このあと、全部舐めてくれるって思うだけで、ぼくは漏らしてしまいそうなくらい興奮していた。出したばっかりだっていうのに、もうチンポはパンパンだ。
 でも、がまんできずにパンツのなかにまた射精しちゃってもかまわない。だって、そしたらママがきれいに舐めとってくれるから。ぼくの白いおしっこを、ぜんぶ!
 一滴のこらず舐めとってくれるんだ。さくら色の舌で。それも美味しそうに。
 ママはぼくのいうことを、なんでもきいてくれる。なんでも!
 甘えたい。
 もっと甘えたい。
 もっともっと、ずっと、ずっと甘えたかった。
 なんでもしてくれるママに、どんなことでも許してくれるママに、もっともっと甘えたい。どこまでも甘えたかった。
 赤い薔薇の咲く庭で、ぼくたちは絡(から)みあう。
 舌で。くちびるで。腕も、脚も、からだ中で絡みあう。
 甘いキスに心までとろけて、ぼくはどこまでもどこまでもママにおぼれていく。身も心もとろけそうなくらい甘い夢を見てるみたいに。
 幸せだった。
 この幸せがずっとずっと続きますようにって、ぼくは心から願う。
 この幸せな夢が醒めませんように。
 いつまでも、いつまでもママに抱かれていたかった。



テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2010/05/02(日) 15:15:15|
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臥頭狂一

Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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