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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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馬鹿で一途でふしだらな。 3 (50枚)


 ショウはずっと元気がなかった。ごはんも、ぜんぜん食べてくれない。痩せてくばかりだ。
 あたしのせいだ。あたしの……。ごめんね、ショウ。
 謝っても謝りきれない。許してはもらえないかも。でも、少しでも元気づけてあげたかった。
 今夜はショウの好きなオムライスにするからね。ちょっとでもいいから、食べようね。
 ちょっとでも心の傷をいやしたい。そんな想いは、部屋のドアを開けてすぐに打ちくだかれた。
 ……笹島さんが、待ちかまえてた。





 買い物袋が重くて肩が痛い。卵と鶏肉だけならともかく、一キロのお米が入ってるせいだ。手まで痛いくらい。三キロのにしなくてよかった。でも、あたしって、こんなに力、なかったけ。やっぱり疲れてるのかな。
 アパートまで、もうちょっと。
 今日の夕飯はオムライス。今度こそ、きれいな仕上がりにしたい。
 あたしのつくるオムライスは、卵のかたちがひどい。自分でもへただと思う。それでもショウは美味しいって褒めてくれた。「味はいいじゃん」って笑ってくれてた。
 今夜は、食べてくれるかな。
 最近のショウは食欲がない。元気もなかった。自信満々で遊び歩いてた彼が、ずっと部屋に引きこもってる。ぜんぜん話もしなくなった。たまにタバコを吸うくらいで、毛布をかぶって寝てばかりいる。痩せてくばかりだった。
 あたしのせいだ。
 借金をつくったのも、ほかの男に抱かれろって命令したのもショウだけど、それでもあたしが悪い。
 ……ショウを、傷つけたから。
 謝っても謝りきれない。悲しいけど、きっと死んじゃうくらい泣くけど、部屋から追い出されても、しかたないと思う。ひどいことを、しちゃったんだから。
 でも、ショウは出て行けなんて言わなかった。あたしを責めることも、ほとんどなかった。
 傷ついて、膝を抱えて泣いただけ。
 かわいそうで、見てられなかった。胸が引き裂かれそうに痛くて、叫び出したくなった。ふたりで抱きあって泣いたけど、気持ちは沈んだまま。どうしていいか、わからなかった。
 ショウはどんどん弱ってく。
 このままでいいわけがなかった。ショウを立ち直らせなきゃならない。かっこよくて、いじわるだけど、ちょっとだけやさしい彼を取り戻すんだ。がんばらなきゃ。あたしには泣いてるひまなんて、ない。少しずつでも、元気になってもらうんだ。
 今夜は美味しいオムライスをつくる。一生懸命、愛情こめて、美味しくする。
 まずは、ごはんを食べさせないと。あたしは買い物袋の取っ手ひもを握りしめ、帰り道を急いだ。




「……どうして、笹島さんが、いるの……?」
 あたしの声はふるえてた。からだも揺れてるかもしれない。卵の入った袋を床に落としそうになった。
「そりゃ、ねえだろ、アキちゃん。ちょっと、ひどいんじゃねえの? ボクチン、傷ついちゃうよ?」
 金色のスカジャンが蛍光灯の光にまぶしい。ふたり用のソファに、ゴリラみたいな大男が脚を開いて座ってる。ニキビあとのひどい顔が、こっちを見てにやにや笑ってた。
「一ヶ月、待ってくれるって……」
 三日前に約束したばかりだった。とりあえず三十万円返せば、取り立てを一ヶ月間待ってくれるって。残りの借金はその間に返すって。だからあたしは店長に無理をいって、お給料を前借りして支払った。そのとき、笹島さんはたしかに約束した。一ヶ月はここに来ないって。……なのに。
「おお、俺もそのつもりだったけどよ。……こいつから電話があってさあ」
 と、笹島さんはベッドの壁ぎわにいるショウに顎を向ける。びくっと身体を震わせて、ショウはうつむいた。毛布にくるまった背が丸くて、ひとまわりも小さく見える。
「こいつ、一刻もはやく借金を返したいんだってよ。借金抱えてるのがつらいって。俺に迷惑かけるのも悪いって。まあ、友達としては力になりたいじゃない」
 缶ビールを片手に、笹島さんはへらへら笑う。笑うたびに、生え際の黒い金髪がゆらゆら揺れた。何時から居座ってるんだろう。テーブルの上には三つも長い空き缶が転がってた。
「そういうわけだから、からだで払ってよ、アキちゃん。借金返済の足しってことで。……一回、一万ってことで、話はついてる」
 ……嘘だ。そんなこと、ショウが言うはずない。あたしが笹島さんに抱かれたってことだけでも深く傷ついてるのに。借金だって、一ヶ月で返せるように、毎日お店に出てる。急いで返さなきゃならない理由なんて、もうどこにもない。
 それに、一万円なんて、ふざけてる。お店で稼ぐお金より、はるかに少ない。あたしを指名するだけでいくらかかるのか、教えてあげたかった。
「なあに黙ってんだよ、ショウ。俺が勝手に言い出したみたいに思われてんじゃねえか。……ちゃんと話はついてるよなあ? おう?」
 太い声は、だんだん低くなっていった。怖くて脚がふるえそう。
 返事の来ないベッドをにらみ、笹島さんは拳に息を吹きかけた。スカジャンの首から肩にかけてが、大きく盛りあがってる。
 あわててうなずいたショウは、視線から逃げるように毛布を頭からかぶった。五、六歩も離れてるのに、かちかち歯がこすれる音があたしの耳にまで届いてる。
 かわいそうなショウ。笹島さんが怖くてしかたないんだよね。できることなら、二度と会わせたくなかったのに。おびえる姿は痛々しくて、とても見てられない。いますぐ抱きしめてあげたかった。
 でも、彼を慰めるなんてことは許されなかった。
 目の前まで笹島さんが迫ってくる。顔が近い。ショウを抱きしめるかわりに、あたしは金髪の大男に抱きつかれた。
 笹島さんは鼻の穴が広がって、ほんとにゴリラそっくりだった。頬っぺたにあたる息が湿って熱い。気持ち悪くて顔を逸らそうとしたけど、ごつごつした手に先回りされる。顎先をつかまれて、口全体を覆うようにキスされた。
「んうっ……えうう……」
 べろべろと舐めまわされて、くちびるを割られる。ぶ厚い舌が入ってくると、あたしは命令もされてないのにちゅうちゅう吸った。……そうしないと、不機嫌になることを知ってるから。
 ビールのにおいが染みてて、おえってなりそう。吐き気をがまんしてたら、目の前が涙でぼやけはじめた。満足げに目を細めた笹島さんが、かすんで見える。このまま消えてくれたら、いいのに。
「んうぅっ……!?」
 ごつごつ大きな手が脚の間に押し入ってくる。ショーツの上から乱暴にいじりまわされて、あたしは笹島さんの舌を噛みそうになった。
 下着ごしに太い指が前後にこすりつけられてる。割れめのすじを確かめてるみたい。親指は敏感な尖りを探してるらしく、いちいち肌を押しこんでくる。
「さ、笹島さん……やめて……い、いたい、よ……」
 涙目でお願いすると、とたんに細い目の外側がつりあがった。眉毛の間に皺ができてる。……怖い! 背中が寒くなって、肩がぶるっとふるえた。あたしの顔はたぶん、真っ青になってる。怒った笹島さんが、怖くてたまらない。
 耐えられなくなって、思わず目をつぶる。叩かれる! って思った。でも、そうじゃなかった。
 閉じた瞼の先で、笹島さんが離れる気配があった。ビールくさい息が遠くなってく。股の間でショーツをいじってた手も、つづいて引き抜かれた。
 硬くなったからだの緊張が緩む。息を吐こうとしたら、どすんって重い音がした。ベッドのほうだ。
 ショウ! ベッドの上にはショウがいる! 不安になって、あわてて目を開けた。息を吸いこみつつ、ベッドを確認する。
 ショウは無事だった。壁にぴったりくっついたベッドの足側で、毛布を全身にかぶせてる。さっきと変わらない。
 違うのは、近くに金髪の大男がいることだけ。ベッドの端に浅く腰かけてた。それもショウが身を縮めてるすぐそば、手を伸ばせば届いちゃうほど間近にいる。
「アキちゃん。となり、座ってよ、はやく」
 にんまり笑って手まねきしてる。怒ってたのが嘘みたいで、不気味だった。ショウの近くに座ったのも、わざとしか思えない。逆らうとこいつを殴るって、脅してる。
 ……また、ショウの前で、するつもりなんだ……。何回も、何回も……犯すつもりなんだ……。
 ちらっとベッドの上を見ると、毛布の山が小刻みに揺れてた。毛布のすきまから様子をうかがってるのかもしれない。……ごめんね、ショウ。
 ベッドに腰を降ろそうとしたところで、あたしは笹島さんに大きな掌を向けられた。
「下、脱げよ。パンツの上から触られたくないんだろ?」
 いじわるな口調だった。「痛いからやめて」ってお願いしただけなのに、根に持ってる。それとも、言葉でいじめたいだけなのかな。
 口答えなんて、できる空気じゃなかった。いかつい顔に浮かんだ笑顔は、残酷そうに歪んでる。目がぎらぎらしてて怖い。ほんとうに怒り出しちゃったら終わりだ。いそいそとスカートのベルトをほどき、あたしはショーツまで脱ぎ捨てた。
 おへその下を手で隠しながら、笹島さんの横に座る。すかさず肩に手をまわされて、強引に抱き寄せられた。
「焦らしちゃヤダよぉ、アキちゃん。ボクチンのチンポ、はやく、かわいがって」
 耳もとでささやかれる。くすぐったいより、鳥肌が立ちそう。甘える声が気持ち悪くてもたついてたら、ぐいって手を引っぱられた。つかまれた手首が痛い。ジーパンの股間に押しつけられた手を要求どおり開く。両手で、包むように触ってあげた。
 デニムごしに勃起してるのがわかる。やっぱり、おおきい。お店で相手した、どの男のひとよりも大きいかも。胸の鼓動がはやくなって、そんな自分がたまらなくいやで、泣き出したくなった。後ろに、ショウがいるのに。
 はやく、済ませてしまおう。お店でのしごとだと思おう。あたしはできるだけ無表情をつくって、笹島さんの前にひざまずくように座りなおした。ファスナーを下げ、ジーパンの腰に手をかける。腰が浮くのにあわせて、床まで降ろしていく。
「ひへへっ……。慣れてるねえ、アキちゃん。さすがプロ! 今日は何本のチンポしゃぶったの?」
 答えたくない。あたしは目を伏せて聞こえないふりをした。トランクスのゴムに指を入れて、いちどに下げようとする。でも、失敗した。亀頭が引っかかっちゃった。大きいって、すごく勃起してるってわかってたのに。
 下着まで脱がせ終えると、笹島さんはにたにた笑いながら手を引いてあたしを立たせた。どうしても隣に座らせたいらしい。てっきり、そのままフェラチオさせられると思ってた。……いつも、そうだったから。
 さしずされたとおり、あたしはベッドの端におしりを乗せた。笹島さんの手が、当然のように腰にまわされる。密着する脚が素肌に温かい。
 距離感っていうのかな。恋人どうしみたいで胸が落ち着かなかった。ショウが近くにいるせいかもしれない。
「ほら、脚、ひらけよ」
 あたしが従うよりもはやく、ごつい手が股の間に入ってくる。拳の大きさにむりやり開かされた感じ。
「いたっ……!」
 太い指先が割れめを上下になぞる。下着の上からこすってたときよりも乱暴だった。爪が伸びてて痛い。先がクリトリスをかすめて、あたしは短い悲鳴をあげた。
「ああ、毛のないまんこ、たまんねえ……へひひ、アキちゃんのつるつるまんこに会えなくて、ボクチンさみしかったよお」
 自分の唇を舐めながら、笹島さんが嬉しそうに笑う。視線はあたしの顔と股間を、行ったり来たりしてる。
 雑な触りかたは変わらなかった。小っちゃな尖りをつまんでみたり、ぜんぜん濡れてもいないのに膣穴に指を入れようとしてる。痛くて怖くて、からだがぶるってなったけど、おかまいなしだった。子どもがおもちゃで遊ぶみたいに荒っぽく扱われてる。
「せっかくパイパンにしたのに、一回しか味わえないなんて、冗談じゃねえよなあ」
 独りごとじゃない。あたしに向かって言ったのでもない。汚い金髪の首は、後ろを向いてた。毛布に隠れてるショウを見て、せせら笑ってる。
 これが、本音なんだ。……やっぱり、そうなんだ。笹島さんは最初から約束を守る気なんてなかった。いまごろ気づくなんて、あたしはなんて、ばかなんだろう。

 三日前に約束の三十万円を渡すまで、笹島さんは毎日あたしたちの部屋にやってきてた。はじめて犯されたのが十日前だから、まる一週間も連続で通ってたことになる。
 お店から帰ると、笹島さんが待ちかまえてる。……そんな日がつづいてた。
 借金の取り立てだっていうけど、百万円なんてすぐに返せるわけ、ない。どう考えても、お目当てはあたしだった。利子がわりって理由をつけて、あたしを抱くために来てた。お店の終わる時間に合わせてたみたいだし、裸で待ってた日もあったくらいだ。
 笹島さんは、いつもショウの目の前であたしを犯した。「それだけは、ゆるして」ってお願いしても、ぜんぜんきいてもらえない。しつこくすると怒り出してショウを殴りつけることもあった。
 あたしもショウも、おびえきってた。借金があるから逆らえないし、なにかあるたびに暴力を振るわれる。いいなりになるしかなかった。
 だから、いちばん大切な彼の前で……笹島さんに抱かれた。毎日毎日、ドレイみたいに服従して、股を開いた。しゃぶれっていわれたら口いっぱいにおしゃぶりしたし、げっぷが出るくらい精液をたくさん飲んだ。大きなおちんちんを挿しこまれて、何度も何度も膣内に射精された。何回されたかなんて、とても覚えていられないくらい。
 あたしは、おもちゃだった。
 もう無理って首を振っても、泣いて頼んでも、笹島さんが満足するまで離してもらえない。汗だくになって、ようやく終わったって思ったら、今度はシャワーを浴びながら犯される。休むひまがないってほど、からだじゅうで遊ばれてた。
 笹島さんはあたしというおもちゃに夢中だったと思う。
 眠るときはいつもぎゅうって抱きしめられてたし、えっちのとき以外も、しつこく密着されてた。「ちっちゃいからだが、たまんねえ」「ショウなんかには、もったいねえ」って独りごとを、何回も聞いてる。キスなんて百回以上はされてて、唾をじゅるじゅる吸われることも多かった。どうでもいい女の子には、そんなことしないよね。思い上がりかもしれないけど、あたしを気に入ってるってことだけは、たしかだった。
 それだけに、不安だった。借金を返しても、あたしを手ばなすつもりはないんじゃないかって。笹島さんからは逃げられないんじゃないかって、怖かった。
 でも、弱音を吐いてる場合じゃなくなってた。
 ショウの様子がおかしい。
 彼女を目の前で犯されて、逆らえば殴られる。そんな毎日がつづけば、だれだって普通じゃいられない。ショウは壊れかけてた。
 ごはんを一口も食べなくなって、日に日に痩せていく。ほとんど口もきかない。弱ってく彼を見るのは、つらくてしかたなかった。このままじゃ、死んじゃうかも。そんなの、ぜったい、いや。
 このままじゃ、いけない。
 あたしは必死で笹島さんにお願いした。「お金はぜったい返すから、もう来ないでください」って、泣いて、土下座した。頭を床にこすりつけた。
 笹島さんはおもしろくなさそうだった。部屋のなかなのに唾を吐いて、「萎えちまうよ、バカヤロウ」とか、ぶつぶつ言ってた。
 結局、「利子として三十万円用意したら、残りは一ヶ月だけ待ってやる」ってことで話はついた。しぶしぶって感じだけど、約束した。
 利子のかわりだって、さんざん抱いたくせに。不満はたくさんあったけど、もちろん口にはしなかった。それどころじゃ、なかったから。
 当然のような顔をして、笹島さんが部屋に来る。何時間も、ときには泊まりであたしを犯していく。これ以上そんな日がつづいたら、ショウが完全に壊れちゃう。このままだと、ほんとうにダメになってしまう。
 笹島さんがいたら、ショウは一生元気になれない。あたしたちの前から消えてもらうことが、なによりも大事なことだった。
 ショウには会わせない。あたしも、会わない。もう抱かれない。そのためには、どんな条件でも飲むしかないって思った。
 三十万円を支払ったのは、その次の日だった。ショウを一日でもはやく安心させてあげたくて、あたしは急いだ。店長に泣いてお願いして前借りさせてもらい、笹島さんを呼び出した。いまから三日前のことだ。
 ショウに会わせたくなくて、近くのファミレスで待ち合わせてお金を渡した。外ならひどいことをされないって計算もあった。でも、いま思えば、それがまちがいだったかもしれない。
 お金を受けとったあと、笹島さんは急に沈んだ態度になって、あたしの手を握った。そっと、やさしく乗せるような感じで。
「……なあ、アキちゃん。さいご……最後にもう一度だけ……いいだろ? 頼むよ……アキちゃんみたいないいオンナ、簡単に忘れられねえよ……」
 ショウの前だったら、あたしはきっぱり断れたと思う。
 うなずいちゃったのは、どうしてなんだろう。いつもみたいに乱暴な態度じゃなかったから、油断しちゃってたのかな。「おまえはオレのだ。離さねえ」って、すごまれてたら、きっと逃げてた。
 かわいい、きれいだって、自分でも思って、うぬぼれてるせいかもしれない。「いいオンナ」って褒められて、悪い気はしなかった。毎日毎日、あたしをドレイみたいに扱って犯した、最低の男なのに。
 飽きたわけじゃないんだって、どこかほっとした気持ちもあった。やっぱりあたしに夢中なんだって。そんなことを考えてる場合じゃないのに。ショウを傷つける男に好かれたって、なんの意味もないのに。やっぱりあたしは、ばかだ。
 笹島さんに連れられて、あたしはホテルに行った。迷いはあったけど、これで終わるんだからって自分にいいきかせてた。最後、最後だからって。
 そして、そこで……あたしはあそこの毛を剃られた。「最後だから、いいじゃん」って、押さえつけられて、つるつるにされた。笹島さんはすごく興奮して、夜遅くまであたしのからだを離さなかった。
 それでも、これでぜんぶ終わるって、思った。
 好きでもない男に抱かれるのは、もうおしまい。一ヶ月がんばって、のこりのお金を返せば会うこともなくなる。笹島さんさえいなければ、ショウも少しずつ元気になってくって。
 笹島さんは次の日も、その次の日も来なかった。約束を守ってくれたんだって、すごくほっとした。ちょっとだけど、ショウもごはんを食べるようになった。よかった。これで元の生活にもどせるって、本気で信じてた。……今日、部屋に帰ってくるまでは。

 ぴちゃぴちゃって音が、おなかの下で響いてる。
「つるまん、たまんね……へへ、気持ち、いいんだろ、アキ……」
 気持ちよくなんか、ない。笹島さんの舌なんて……気持ち悪いだけ。
 そう思いこもうとするけど、からだは嘘をつけてない。やらしいおつゆを漏らしちゃってる。べろべろ舐めてる笹島さんにも、味で伝わってるはずだ。
 ふたりとも、はだかだった。今日は珍しくフェラチオを要求されてない。毛のなくなったあそこを、しつこいくらいに責められてる。唾液まみれになってた。舐められすぎて、おかしくなりそう。
 あたしは脚をMの字に開かされてた。つるつるの割れめを見せつけるようにして、ベッドの端に腰を前に突きだしてる。からだは柔いほうだけど、それでも関節がちょっときつい。
 笹島さんは床の上に膝をついてた。ベッドと床の段差をつかって、顔があたしの股間の前に来るようにしてる。自分が剃ったところを観察しやすいように。舐めやすいように。目が血走ってて、少し怖かった。
 押しつけられた口が股間に熱い。鼻息がクリトリスに降りかかるだけで、あたしは腰から下をぴくぴくさせちゃってた。緊張して閉じかけた膝を、ごつい掌に押し戻される。両脚を限界まで広げられてた。
「うあっ……!」
 太い指が入ってくる。いきなりだった。痛くはなかったけど、急に奥まで挿しこまれたせいで、あたしは悲鳴をあげた。ぶるぶるって、背がふるえてる。
「へへ……乱暴にされるのが好きなんだろ。痛がるふりしても、ほら……すげえ濡れてきてる」
「い、や……ちがう……」
 そんなの、ぜんぜん好きじゃない。あたしが首を振っても、笹島さんはにやにや笑うだけだった。割れめに挟まれた中指を、ゆっくり出し入れしてる。ぬるぬるって、いやになるくらい濡れちゃってるのがくやしい。
「パイパンにしてから、どうよ? ……客のオヤジども、喜んでただろ」
 笹島さんのいうとおりだった。一昨日から十人以上も相手をしたけど、どのお客さんも嬉しそうに鼻の下を長くしてた。つるつるの割れめを間近で見つめて、ぷにぷにつついて舐めたがった。上に乗って素股で責めてあげたら、みんな射精がはやかった。早漏になっちゃった? ってびっくりするくらい。量も多かった気がする。毛のないあそこを見て興奮しなかったひとは、いなかったんじゃないかな。
「アキのここ、キレイだもんなあ。さんざん弄りまわされただろ。……店じゃ、指入れも禁止なんだっけ? ふひひひ、この、まんこの吸いつきも知らねえってわけだ。金払ってるのに、かわいそうになあ」
「あっ、あっ……いや、あ、んっ……」
 出し入れされる指が、はやくなってた。おへその下から、ぬちゃぬちゃって水っぽい音がしはじめてる。突かれるたびに、あたしの口から短いあえぎがこぼれた。がまんしようとしたけど、どうしても漏れちゃう。手の甲で押さえてもだめだった。
 太い指は二本に増えてて、乱暴だった。ほんとは、ちょっと痛い。もっと、やさしくしてほしい。それでも、おしりや腰は、もとめてるみたいにくねって揺れてる。えっちな声で泣きながら、あたしは常連のお客さんを頭に思い浮かべてた。お店にないしょで指入れを許しちゃった、頭の薄いおじさんの顔を。
 サイキさんの指は痛くなかった。ただ抜き挿しされてるのとは、ぜんぜんちがう。あたしの感じるところを知ってて、ほしいのに焦らされて、あとで疲れたけど、すごかった。もっとしてほしい、もっと気持ちよくしてって、本気で思っちゃってた。
「ああ、もう、がまん、できね。チンポ入れるわ」
 うわずった声を出して、笹島さんが立ち上がった。ベッドの上に飛び乗ったかと思うと、開いたままのあたしの膝に両腕をからませて、自分のほうへずるずるって引き寄せる。すごい力だった。上からのしかかられてキスされるまで、たぶん三秒もかかってない。
「んう、えう……ん、ちゅっ……」
 ちゅうちゅうあたしの舌を吸ったあと、笹島さんは勢いよく上半身を起こした。胸の筋肉が呼吸にあわせて膨らんだり縮んだりしてる。ヨダレが顎の下まで垂れてて、ひどく高ぶってるのがわかる。目が充血して真っ赤だった。
 割れめを硬いものがこすってる。熱くて、やけどしちゃいそう。柔らかいお肉をぐにぐに押し開くようにして、上下になすりつけられてた。
 口のなかに流しこまれた唾が苦い。ビールのにおいだけじゃなく、腐ったような味がする。涙目で飲みこみ、あたしは首を起こした。
 勃起した黒いおちんちんが、毛のない恥丘の向こうに見えた。亀頭がぱんぱんに膨らんでて、怖いくらい。先っぽから透明なお汁が糸になって垂れてる。粘りが強くて、それだけで妊娠しちゃいそうに思えた。
 ……そろそろ、あぶない日じゃ、なかったっけ。
 はっとなって、あたしは視線を移した。ベッドの上から追い出され、部屋の隅で震える、だれよりも大切な彼氏に。
 ショウの目は真っ赤だった。
 毛布にくるまってるけど、目は隠れてない。青ざめた顔は腫れぼったくて、涙で濡れてて、でも、こっちをはっきり見てる。じっと、あたしを見つめてた。
「さあて、アキちゃんお待ちかねの、おチンポ様だ。ふへへ、つるつるまんこに、ずぽずぽ挿してやるからな」
 根もとを握りしめて、笹島さんが腰に力を入れようとしてる。ぷくって膨らんだ亀頭が熱い。おちんちんの先が、膣の入り口にあてがわれてた。
「だ、だめ!」
 とつぜん大きな声を出したせいで、金色の前髪が揺れた。びっくりした顔をしてる。
「……いまさら、なに言ってんだよ、アキ。怒らせてえのか」
 みるみる機嫌が悪くなってく。眉間の皺が、おでこにまで広がってた。
「さ、笹島さん……おねがい……今日は、ゴム、つけて」
 ほんとはセックスじたい、やめてほしかったけど、とても言える雰囲気じゃなかった。怖くて怖くて、腰から力が抜けてく。指先までふるえが伝わってる。
 せめて、避妊だけはしてもらわないと。せいいっぱいの勇気を出して、あたしは訴えた。
「ふざけんな。せっかくのパイパンなのに、冗談じゃねえ。生で中出しだから気持ちいいんだろうが。……今日も三発は膣内でいかせてもらうからな。あふれ出すくらい、たっぷり出してやる」
 黄色い歯を見せて笑うゴリラじみた顔が、悪魔に見えた。心の底からこのひとが怖い。だけど、もう膣内に射精されるのは、いや。妊娠だけは、したくない。ショウのならともかく、笹島さんの子どもなんかほしくない。ぜったい、だめ。
「いうっ……!」
 大きな身体がのしかかってくる。亀頭が割れめの肉を押しこんで、膣穴に入ってきてた。濡れてはいたけど、きつくって少し痛い。
「おお、チンポ締めつけてくる……ひひひ、あいかわらず、きつきつの、いいまんこじゃねえか」
 笹島さんの顔が近い。ニキビあとの穴を数えられるくらいだった。おびえるあたしの表情を愉しんでるのか、鼻の穴を広げてる。息がビールくさかった。
「……ん、んっ……笹島さん、おねがい、だから……あん! ……な、中出しだけは、ゆるして」
 腰を打ちつけるように突かれるたびに、短いあえぎがこぼれる。呼吸が苦しかった。ごつい胸板に乳首がこすれてる。
 目の前の顔が歪みはじめてた。いらいら、してる。でも、言わなきゃ。もう膣内に射精されたくない。これ以上されたら、ほんとに妊娠しちゃう。弱気の自分を励ましながら、あたしはさらにつづけた。
「……の、飲むから……精液……ぜんぶ、ごっくんって、するから……ね? おまんこより、きもちよく、するから……おねがい、おねがい……」
 いつのまにか涙声になってた。目の前がぼやけて、笹島さんがどんな表情をしてるのかわからない。本気で怒らせたかもしれなかった。腰の動きが止まってる。密着する胸から伝わる心臓の音がはやい。
 ぽたり、頬っぺたに生ぬるい液体が落ちてくる。ヨダレだってわかったときには、舌先がくちびるの間に挿しこまれてた。歯がじゃまだって、こじ開けようとしてる。
「……ん……」
 あたしは素直に口を開いた。湿った鼻息が気持ち悪かったけど、従うしかない。機嫌をとっておきたかった。舌を突きだして、目を細める。どうぞ舐めてください、えっちなキスをしてくださいって、首をちょっと傾けて甘えてみせた。
「う、え……? えうぅ……」
 ぶよぶよの舌が押しつけられて、べろべろって濃いキスをされると思ってたのに、そうじゃなかった。与えられたのは唾だった。舌の上に、とろーって粘ついたヨダレを垂らされてる。
「えう……ん、んく……」
 真上から垂れてるから、舌に落ちた唾液はそのまま口のなかに流れてく。空気に触れたせいか、さっきのより臭かった。吐き気をこらえ、あたしは喉を鳴らした。新しい涙が次々にあふれてきたけど、美味しそうな表情をつくって、飲み干してみせた。
「ふひひひ、ボクチンのツバ、そんなに、おいしい? おいしいの」
 手の甲で睫毛をこすると、細い目を見開いてにんまり笑う顔がはっきり見えた。開いた口の端からヨダレが垂れてる。わざとかもしれない。くちびるの横に落とされた唾液を、あたしは舌を伸ばして舐めとった。笹島さんの顔を、上目づかいに見つめたまま。
「……せ、精液も、いっぱい、飲ませて、ください……」
 いいなりになってるあたしを見て、よろこんでる。興奮、してる。えっちなおねだりをしたら、もっと嬉しいはずって思った。上手に誘えば、聞き入れてくれるって。
「そ、そんなに、飲みたいの? ボクチンの、チンポのミルク」
 笹島さんの呼吸が荒くなった。口で息をしてる。筋肉で盛り上がった肩が、上下に揺れてた。
「……うん……飲みたい……笹島さんの、ミルク……いっぱい、飲ませて」
 膣内で肉の棒が大きくなってる。きつくて、おなかが苦しくなるくらい。腰の動きは止まったままなのに。こすってもいないのに、すごい勃起してた。
「ひひひ、聞いたかよ、ショウ! アキちゃん、俺のミルクが飲みたいんだってよ!」
 毛布をかぶって小さくなってるショウに、笹島さんはティッシュの箱を投げつけた。頭に当ったけど、ぴくりとも動かなかった。毛布のすきまから覗く目は、ぶつけた相手を見ようともしてない。ただ、あたしを、……瞬きもせずに、見つめてる。かわいた涙のあとが、目の下に筋をつくってた。
 ずっと、あたしだけを見てたの? ショウ……。つるつるにされた割れめに太いおちんちんを、ずぶって挿しこまれるところ、じいっと見てたの? 笹島さんのヨダレを、おいしそうに舐めて飲みこむあたしの顔も、見つめてたの……?
 胸がずきずきして、息が苦しくなる。うつろな視線に、とても耐えられない。目を逸らし、顔を背けたところで、顎をわしづかみにされた。笹島さんの大きな顔が迫ってる。
「はふ、はふ……アキちゃあん……チンポのミルクが、ほしい、飲みたいって、ちゃんと、おねだり、してよ。……はっきり言って、くれないと……中に、出しちゃい、そう……」
 血走った目があたしをにらんで離れない。ゆっくりだけど、太い腰が前後に動きはじめてた。膣内をこするおちんちんは硬く膨れてて、いまにも爆発しそう。どくん、どくん、て脈動を感じるくらいだった。
 脅しじゃ、ない。このままじゃ、ほんとに射精されちゃう! 精液、膣内で漏らされちゃう……!
「く、ください! のませて! 笹島さんの、ち、チンポのミルク、いっぱい、ちゅうちゅうさせて! ほしいの、おねがいっ……!」
 必死だった。間に合わないかもって。追いつめられたあたしは、お店でも口にしないような言葉でおねだりをした。ショウがすぐそばにいるのに。
「おおッ! あ、アキっ……ちくしょう、だめだ、もう、出ちまう!」
 筋肉質の身体が小刻みに揺れてる。笹島さんの声に余裕がない。歪んで皺だらけの顔が、いまにも緩みそう。だめ、膣内に射精されちゃう!
「あ! あ! やだ! おねがい! くちに! おくちに、どぴゅって、して! おいしいミルク、吸わせて!」
「くおおッ……!」
 笹島さんがうめいて、おなかの下から熱が消えた。ぎしぎし大きな音が迫ってくる。ベッドのきしみが近づいてきてる。頭の横でシーツが深く沈んだ。左右の端に太いふくらはぎが見えて、鼻先には爆発寸前の亀頭が突きつけられてた。白っぽい溜まりが鈴口にぷくってついてる。
「あん、むっ……」
 あたしはあわてておちんちんを咥えた。筋肉で硬いお尻に手をまわして、自分から深く吸う。口いっぱいに、苦しいってところまで、のみこんだ。はじけそうなくらい、ぱんぱんになってる。奥まで咥えたまま裏すじに舌を押しつけてこすると、どくん! どくん! って脈打ちはじめた。
「んううっ……! ん! ん! ちゅううっ……!」
 おちんちんが口のなかで、舌の上で、びくんびくん跳ねまわる。熱い精液を、口のなかに出されてる。お尻の筋肉が締まるのが、掌から伝わってきた。きゅって緊張するたびに、びゅるっ、びゅるって、すごい勢いで射精してる。何度も舌の奥に叩きつけられてむせそうになったけど、あたしは懸命に吸いつづけた。喉を鳴らして濃ゆい液体を飲みくだしながら。
「お、おお、お……う……」
 精液をすべて出し終わっても、おちんちんは舌の上でひくひくってしてた。硬く、勃起したままで。まだ出し足りない、もっと飲ませたいんだって、わがままいってるみたいだった。
「ほひぃっ」
 くちびるで締めつけてあげると、笹島さんはまぬけな声を漏らした。射精したばかりで、刺激が強すぎたのかな。いじわるしたくなって、咥えたまま先っぽをれろれろって、舌を押しつけて舐めてみる。
「わわっ、あ、アキ、や、やめ……!」
 あせる声が悲鳴じみてて、さっきまでショウやあたしを脅してたのが嘘みたい。いまはぜんぜん怖くなんかなかった。いかつい顔が、子どもっぽく見える。
 もっと仕返ししたかったけど、いいかげんで口を離してあげた。あたしの上に跨がってるってことを思い出したから。がっしり太いふくらはぎが、ぶるぶる震えてる。胸の上に落ちてこられたら、つぶされて窒息しちゃう。
「はあ、ふう、ふう……」
 たくさん射精して疲れたらしく、笹島さんは壁を背に腰を降ろした。重いから、ベッドのくぼみが大きい。投げ出した脚の間で、おちんちんが縮んでた。
 力の抜けた股間に、あたしは自分から顔を埋めた。今度はやさしく、舌の上で柔らかくなったおちんちんの先を転がしてあげる。小さな声が上から聞こえたけど、すぐに気持ちよさそうなうめきに変わった。
 お礼のつもりだった。膣内に射精しないでってお願いを、きいてくれたから。
「へへ、へ……アキちゃん。ボクチンのミルク、おいしかった?」
 覗きこむように見おろす笹島さんに顎を向ける。顔を見ても、なぜか憎らしいと思えなかった。太い声で甘えられるのはやっぱり気持ち悪かったけど、鳥肌がたちそうってほどじゃなくなってる。髪を撫でられてるせいなのかな。前髪をすくいあげる指が、やけにやさしかった。
「……おいちい……すごい、濃くって……あつくって……お、おいちかった」
 つられて、ちっちゃな子どもみたいな喋りになっちゃった。あたし、どうかしてる。恥ずかしい。顔が真っ赤になってるかも。顔がじんじん熱い。
「ふ、ひひひ。ま、また、飲みたい?」
 笹島さんの目の色が変わってた。喜んでる。すごく、嬉しそう。……こういうの、好きなのかな。
「の、飲みたい……。笹島さんの、吸って、あげたい……ううん、おいしいミルク、飲みたい。ぜんぶ、アキに……吸わせて」
 答えてるうちに気づいた。こうやっておねだりをつづけてれば、膣内に射精されなくて済むかもって。尽くすことを誓うように、あたしは亀頭の先にくちづけしてみせた。目を閉じて、好きなひとの唇にするように。
 自分でも褒めてあげたいくらいの演技だったと思う。薄目を開けて様子をうかがうと、泣き出しそうに顔を歪ませてる笹島さんが見えた。鼻の穴を広げてるのに、犬みたいに舌を出してはあはあって息をしてる。……そんなに、うれしいの? おちんちんの先にキスされて、興奮しちゃった?
「あ、アキいっ……!」
 引き起こされて、力いっぱい抱きしめられる。背中の骨が折れちゃいそう。声も出せないくらいに苦しい。息ができない。
「んっ……んぐ、う……ん……」
 ぶ厚い唇を押しつけられて、呼吸がさらに苦しくなった。口ぜんぶが覆われてる。なんとかなだめようと、あたしは密着するおなかの間に挿しこんで、笹島さんの股間をさぐった。
「お、おお、うッ……」
 ちょっと強めにおちんちんを握ってあげると、ようやく口を離してくれた。指が熱い。もう硬くなってきてる。
 どうせ一回で満足するわけ、ない。あたしは小指側を上に、勃起をしこしこってこすりはじめた。今度は、手でしごいていかせちゃおうかな。膣内じゃないところで、いっぱい射精させちゃえって思った。
「なあ、アキ……」
「……なあに?」
 笹島さんの声が急に低くなった。表情まで硬くなってる。なんとなく、いやな予感がしてる。
「おれの……俺の女になれよ」
 心臓が止まっちゃいそうな、ひとことだった。
「あんなヘタレより、いいだろ。……な? ショウとは別れて、俺のとこに来い。ちっとは、贅沢させてやるから」
 どうしよう。笹島さんは本気だ。はぐらかすことも、ごまかすこともできそうにない。あたしは股間に入れた手を動かすことさえ忘れてた。衝撃が大きすぎて、パニックを起こしかけてる。
「もう風俗なんかで働かなくていいからよ。……俺だけの、女になってくれ」
 まなざしが強い。真剣な表情だった。へらへらやらしい笑顔を浮かべてもいなければ、脅してる態度でもない。本心から、あたしをもとめてる。こんな笹島さんを見るのは、はじめてかも。まともに見つめたら流されちゃいそう。
「コイツのことが心配だってんなら……アキのためだ。借金をチャラにしてやってもいい」
「え……」
 つい、目を合わせてしまう。
「ショウためにも、別れたほうがいいんじゃねえの? アキに頼りきりで、自分ひとりじゃ何もできねえ……単なるヒモじゃねえか」
 そのとおりかも、しれない。笹島さんが正しいのかも。
 以前のショウは、かがやいてた。音楽で成功するって夢があったし、仲間と一緒に努力してたと思う。ライブハウスで観るショウも、スタジオで毎日練習する姿も、すごくかっこよかった。ファンもいっぱいいたから、すぐプロになっちゃうと思ってた。ううん、あたしと同棲していなければ、ほんとに成功してたかもしれない。
 あたしが部屋に転がりこんだせいで、ショウはすべてを失った。同棲には、ほかのメンバー全員が反対だったのに。「家出少女と同棲はまずい」って、お金を出してくれるスポンサーがいなくなったのがはじまりだった。活動できなくなっても別れようとしないショウを、みんなは口々に責めた。
 結局はケンカして解散しちゃったけど、そのときは嬉しかった。仲間より、あたしを選んでくれたんだって。ショウの才能ならいくらでもやり直せるって、かってに信じてた。
 ひとりよがりの感動だったって思う。あたしがいなければ、ショウはいまごろプロになってたかもしれない。少なくとも、部屋の隅でギターがほこりをかぶることはなかったはず。
 ショウは夢を忘れてる。部屋に笹島さんが来るようになる前から、そうだった。音楽で成功するって夢を、あたしのせいで見失ってる。
 いまからでも遅くはないかも。あたしがいなくなれば、昔のショウに戻るかもしれない。借金がなくなれば、笹島さんに殴られることも、脅されることもなくなる。そしたら、元気をとりもどして再出発しよう、音楽で復帰をめざそうって気になってくれるかもしれない。
 そばにいることができないのは淋しいけど、別れたほうがいいのかな。あたしの存在はマイナスにしかなってない。一緒にいてもショウのためにならないってことは、ばかなあたしにもわかってた。目を、逸らしてただけ。あたしがショウを……だめに、してるってことに。
 悲しくて、涙がぽろぽろあふれてくる。乱暴で怖くて、いいひとではないけど、笹島さんのいうことは、きっとまちがってない。離れるべき、なんだ。
「あ……」
 ほとんど頷きかけたとき、ショウの姿が目に入った。手の甲で涙を拭うふりをしながら見つめる。
 いつのまにか、毛布から頭を出してた。痩せて頬っぺたがくぼんで、見るからに弱ってる。元気だったころとは別人みたい。ほんの、十日くらい前のことなのに。
 ショウは泣いていた。あたしと同じで、涙で頬を濡らしてた。悲しそうに。さっきまでの、無気力にかわいた瞳じゃなかった。
 あたしを、すがるように見つめてる。
 心の声まで聞こえてきそう。「別れたくない。置いて行かないで、アキ」って。くるまった毛布が細かく揺れてて、捨てられた子犬が震えてるみたいに見えた。心細さが伝わってくる。不安で、淋しくて、悲しくて……独りぼっちを怖がってるのがわかって、胸が切り裂かれそう。ショウから目を背けることができなくなってた。
「な、なあ、アキ。いいだろ? ……俺の部屋に来いよ」
 笹島さんの声が遠く聞こえる。自信なさげな響きだった。すなおな想いが伝わってきて、せつない。
「……ごめん、笹島さん……あたし、ショウを置いて、いけない」
 申し訳なくて、顔を向けられない。きっと、ひどく傷つけてる。背を抱かれたままなのに、あたしは視線をショウに向けたまま返事をしてた。
「……そう、かよ……」
 落ちこんだ声。淋しそう。腰にまわされた手にも力がない。せめて、ちゃんと謝ろうって顔をあげようとしたとき、あたしはベッドの上に勢いよく投げ出された。
 背中よりも先に首を打ったせいで、頭がくらくらする。めまいに襲われながら、ああ、犯されるって思った。怒らせちゃったんだって。中出しされてもしかたないって、覚悟を決める。
 でも、ちがった。笹島さんの怒りは、あたしじゃなくショウに向けられてた。重くにぶい音が何度もつづいて、そのたびに部屋が揺れる。地震みたいだった。
 血の気が失せてくのが、自分でもわかる。からだを起こすのでさえ、やっとだった。大切なひとが殴られてるのに、恐怖でからだが動いてくれない。
 ところどころ、毛布が赤く染まってた。フローリングの床の上で、ショウは身体をくの字に折り曲げてる。鼻も口も血にまみれて、息をするのもつらそう。でも、うめき声ひとつあげてなかった。弱りすぎて、声も出せないのかもしれない。
「立て、コラッ!」
 倒れて息も絶え絶えなのに、笹島さんは容赦なかった。後頭部を蹴り、背中を蹴る。毛布ごしでも、ひどい音がしてた。
「や、やめて! 死んじゃう! ショウが、死んじゃう、よ……」
 なんとかしぼり出した声は弱くて、かすれてた。叫んだあとで、歯がかちかち鳴りはじめる。
 それでも笹島さんの耳には届いたみたいで、膝を高く曲げてた脚を降ろしてくれた。ほっとしたけど、ショウから離れてはくれなかった。荒い息の音だけが部屋に響いてる。重苦しい雰囲気に、あたしは声も出せなくなってた。
 やがて笹島さんはその場に膝を曲げた。倒れたショウの髪をわしづかみにすると、耳に触れるくらい口を近づけて怒鳴った。
「いいか、ショウ、よく聞け。……てめえはもう、アキを抱くんじゃねえぞ。借金を返し終えるまで、アキは俺のもんだ。いいな。……乳ひとつでも揉んでみろ。ブッ殺してやる!」
 ショウに反応はなかった。目は開いてるけど、笹島さんを見ていない。耳もとで叫ばれたのに、まるで聞こえてないみたいだった。ひゅうひゅうって、苦しげに息をしてるだけ。
「チッ、すっかり萎えちまった」
 一瞬目が合ったけど、逸らしたのは笹島さんのほうだった。ばつの悪そうな表情を浮かべると、無視するようにそそくさと服を着はじめる。今日はもう帰ってくれるみたいだ。はらはらしながらも、あたしは胸を撫でおろしてた。
「アキもわかったな。借金を返すまで、ショウに抱かれるんじゃねえぞ」
 捨て台詞みたいに言い残して、笹島さんは帰っていった。ドアが閉まる音を聞いてすぐ、あたしは横になったままのショウに駆け寄る。起き上がろうともしてなくて、心配だった。
「ひっ、ひいいっ」
 頬っぺたに触れようとしただけだった。傷を見ようとして。
「よ、寄るな……来るなあっ……」
 かん高い悲鳴が、あたしをこおりつかせた。毛布ごと後じさっていくショウを、追うことができない。だって……あたしを見て、おびえてる。あたしを怖がってる……。
「……ころされる、ころされる、ころされる……」
 部屋の隅でがたがた震えるショウに、あたしは何もしてあげられない。
 涙が次々にあふれてきたけど、拭う気にもならなかった。毛布の山が、ぼやけてく。がまんできなくなって、あたしは声を出して泣き出した。子どもみたいに。
 どうしていいか、わからなかった。



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  1. 2012/03/19(月) 15:15:15|
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Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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