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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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馬鹿で一途でふしだらな。 4 (47枚)


 斎木昭博はひどく興奮していた。
 満五十歳。つい数ヶ月前まで、不幸にうちひしがれる哀れな醜男だった。
 救ってくれたのは天使。親子よりも歳の離れた、美少女。
 違法な性風俗店の看板嬢でありながら、誰よりもやさしく心清らかな娘。
 天使を、今日、抱く。
 年甲斐もなき恋心と激情。




「もっと稼ぎたいって……アキちゃん、なにかあったの……?」
 店長の声が低くなってる。お店にはほかに誰もいないけれど、気をつかってくれてるのかもしれない。開店まで、まだ一時間以上あった。
「……ちょっと、お金が必要になって……」
「お給金、先払いしたばかりだよね。……足りなかった?」
 うつむくあたしを覗きこむみたいにして、店長が見つめる。声色はやさしくて、責められてる感じはしなかった。
 でも、やっぱり後ろめたい。
 前借りした三十万円だって、店長が無理してくれたことを知ってるから。「信用してるから」って、オーナーに内緒で金庫から出してくれた。もっとお金がほしい、なんて図々しいと思われてもしかたない。
「……ずいぶん深刻そうだけど……。困ってることがあるなら、話してごらん」
 あたしは下を向いたまま、小さく首を横に振ることしかできなかった。
 これ以上迷惑はかけられない。それに、話してどうにかなることでもない。借金なんだから。
 やさしい店長のことだから話をつけに行ってくれるかもしれないけど、返りうちにあうのは目に見えてる。怒った笹島さんに店長が殴られるところなんか、見たくなかった。話さないほうがいい。
「そっか……言えない、か……」
 店長がため息をつく。いつもの陽気な声じゃなくなってた。
「……ごめん、なさい……」
 さすがに、呆れてるのかもしれない。なんてばかな女なんだろうって。
 あたしは頭を下げることしかできなかった。
「いま以上に稼ぐっていっても……勤務シフトはお店の定休日以外、全部入っちゃってるよね」
「……やっぱり、無理、だよね……?」
 はんぶん涙目になって見あげると、店長は難しい顔をして腕を組んでた。あたしのほうを見ようともしない。ちょっとこわいくらいだった。
「うちのオーナー、デリバリーの店も経営してるんだ。デリバリーって、わかる?」
 あたしはゆっくり肯いた。デリバリーっていうのは、出張風俗のことだ。お店の中じゃなく、ホテルやお客さんの自宅まで風俗嬢が出向いて、そこでえっちなサービスする。デリヘル、デリバリーヘルスっていうのが有名だと思う。
「……正直、アキちゃんにだけは、やらせたくなかったんだけどね……」
 どういう意味? って聞こうとしたけど、店長はスマホを取り出していじりはじめてた。眉間に皺が寄ってる。話しかけちゃいけない空気。あたしは黙りこんだ。
「見て」
 スマホを渡される。あたしは画面を覗きこんだ。きらきらまぶしくて目が痛いくらい。ちっちゃいハートマークや星がいっぱい飛びまわってて、真ん中にお店の名前があった。
「うちのおみせ……じゃないよね」
 名前は一緒だけど、これはうちのお店のものじゃない。見たことがないサイトだった。よく見ると、お店の名前の横に小さく『裏』ってついてる。
「デリのサイトなんだ。うちの姉妹店ってことになってる」
 姉妹店……? そんなお店のことなんか、ぜんぜん知らなかった。ほかの子たちもきっと知らないと思う。聞いたことがあったら、待機ーーお客さん待ちーーのときに噂話してるはず。
 指先で画面をスクロールさせてくと、料金設定やコースが表になってた。そこに並べられた値段とサービス内容を見て、あたしの息が一瞬とまる。
 指名料だけで一万円……。
「うちが違法営業の店だってことは、アキちゃんも知ってるよね」
「う、うん」
「このサイトに載せてる店は、さらに違法な店なんだ。特別なお客しか利用できない」
「とくべつ?」
「ふだんアキちゃんがお相手してるような普通のお客は、うちにデリの店があるってことも知らない。ちょっと高すぎる料金設定だし、ここ以上に秘密を守ってもらわないといけないからね。お金持ちで口の固いお客にしか教えられない」
 店長の顔はこわばったままだった。こっちをまっすぐに見つめて、まばたきもしない。不安になったあたしはスマホの画面に視線を戻した。料金表を目でなぞっていく。
 どのコースを見ても、うちのお店より、ひとけたゼロが多かった。
 値段だけを見れば、信じられないくらい高い。このお仕事をすれば、もらえるお給料も今よりずっと多くなるはず。
 ……でも。
「やっぱり、サービスの内容が受け容れられないかい?」
 店長の声が硬い。緊張してるみたいに思えた。
 顔を上げたあたしに、店長は精いっぱいって感じの笑顔を見せる。つくり笑いなのが、ばかなあたしにも見え見えだった。
「無理なら、断ってもいいからね?」
 店長はどこまでも優しい。
 思わず肯きそうになって、あたしはあわてて自分の頬っぺたを両手で叩く。ぱーん! って大きな音がした。
「あ、アキちゃん……?」
 逃げ道なんか、あたしにはない。
「や、やる。やります。店長、デリバリーのおしごと、やらせてください」



 サ イ キ

 斉木昭博はひどく興奮していた。
 鼻息が荒い。
 きょろきょろと辺りを見まわしては、掌をスラックスの腿に何度もこすりつける。着古しの生地がすり切れそうだった。毛髪の後退した額には汗粒が幾つも浮いて、顔全体が赤い。極度の緊張状態にあることは明らかで、誰が見ても不審な人物といえた。
 ほぼ三十秒おきに安物の腕時計に視線を落としているため、どうにか待ち合わせをしているのだとわかる。人影の少ない裏通りであるといえ、時間を確認する動作がなければ通報されていてもおかしくはなかった。
 満五十歳。若々しさの欠片もない、頭の薄い小太りの中年なのだ。そわそわと落ち着きのない様子は誰の目にも見苦しい。怪しいオヤジ、という印象のほかに所作風貌を表現することは難しかろう。
 本人も自覚はしていた。痛いほどに自覚しつつも、己を静めることができない。
 青年期、いや、毛も生えそろわぬ少年時代を思い起こさせるほどに昂ぶっている。
 世間知らずの餓鬼のころ、惚れた女を幾夜も想い、胸を焦がしに焦がしたものだった。童貞だった遠い過去の激しすぎる欲情と、切なる想い。深い記憶の底に沈みこんでいた青くさい激情を、斉木昭博はいま五十歳の肉体と精神に宿していた。
 昨夜は眠れなかった。女を想って眠れずに朝を迎えるなど、何年ぶりのことだろう。胸は期待に高鳴り、股間のものは痛いほどに膨張して萎えない。寝具の上で悶えに悶えては想いびとの名を口にすることの繰り返しだった。
 いい年齢としをして、と己に恥じる気持ちは斎木昭博にも当然ある。恥じ入りたくなるいっぽうで、無理もない、とも思う。
 これから逢瀬を愉しむ相手は、天使なのだ。本来なら触れることもかなわぬ存在と、陶酔のひとときを過ごせる。路上だというのに身悶えしてしまいそうだった。
 生唾を飲みこみすぎて喉が痛い。片手を当てて空咳をふたつしたところで自動車のエンジン音が聞こえてきた。
 型式の古いハイエースが、斎木の立つ位置より二十メートルほど手前で停車する。降りてきたのはワンピース姿の少女だった。背が小さい。
 ヒカルだ。
 私服姿を見るのは初めてだった。遠目にも可愛らしい。素朴な白いワンピースがよく似合っていて、清純な印象を強めていた。性風俗店で働いているなどと誰が想像できるだろう。頭を撫でてやりたくなるような、無垢な少女にしか見えない。 
 思わず駆け寄りそうになるのを、斎木はなんとか思いとどまる。わざわざ離れた位置に停車する意図を察したのだ。そもそも運転席にいる男に挨拶する必要はない。落ち着け、慌てることはないんだ。自分に言い聞かせる。
 窓の開いた運転席へ、少女が頭を下げていた。大きなクラクションの音とともにハイエースが走り去って行く。ヒカルが斎木を振り返ったのはくるまが見えなくなってからだった。
「ご、ごめんね、サイキさん。待っちゃった?」
 微笑をつくってはいたが、どこか困ったような表情をしている。
 やはり禿げかかった中年相手では嫌悪感を隠せないのか。それとも、並んで歩くのが受け入れられないのだろうか。いいや、そんなはずはない。この娘は天使なのだ。心から同情してくれたではないか。親身になって慰めてくれたではないか。
 不安に駆られ胃がキリキリと悲鳴をあげたところで、斎木昭博はようやく気づく。
 疲れているのだ。これは、疲れを取り繕っている笑顔だ。よく見ると、いつもより化粧が濃いのがわかる。顔色を誤魔化すためだろう。ふだんはうっすらと淡いメイクしかしていなかったはずだ。
 最近のヒカルは休みをとっていない。毎日毎日予約して通いつめたのは誰だったか。気丈に振る舞ってはいても、疲労は隠せない。なぜもっと早く気づいてやれなかったのか。
「ひ、ヒカルちゃん。おなか、空いてない? もしよかったら、どこかで」
 口にして我ながら馬鹿なお人好しだと思う。どう格好をつけようとも、時間で少女を買っているのだ。いつもとは桁の違う金額を払って長時間の予約を頼んだのは、悲願ともいえるひとときを一秒でも多く愉しみたかったからである。寄り道をする暇などあるはずもない。
 一瞬の後悔、だが取り消すつもりはなかった。少しでも休ませてやりたいという気持に嘘はない。
「サイキさん」
 気遣おうとする斎木の台詞はしかし、少女に遮られてしまう。
「たのしみに、してて、くれた?」
 ヒカルはにっこりと笑ってみせる。疲労の色はもはや失せていた。
「う、うん、も、もちろん」
 そう答えるのがやっとだった。
「今日は、じかん、たくさんとってくれたから・・・・・・いっぱい、いっぱい、しようね」
 気づけば少女は隣にいて、いつのまにか腕を組まれていた。絡みつくように身体を密着させてくる。薄い生地ごしに肌が柔らかい。甘い、いい匂いがする。吸い込んだ息を吐くのが惜しい。頭がくらくらする。
「いつもより・・・・・・いつもよりね。えっちなこと、いろいろ、して、いいんだよ?」
 囁く少女の頬は紅潮していた。黒い瞳は恥じらいに揺れつつも斎木の顔から離れない。
 本物の天使だと、斎木昭博は思った。


 ヒカルとの出会いは半年ほど遡る。
 斎木昭博は枯れていた。
 人生八十年。還暦を迎えても、まだまだこれからと人生を愉しむべき時代である。にもかかわらず、斎木昭博は五十歳を目前にして枯れ果てていた。未来に期待するものもなく、振り返りたくなる過去もない。何もなかった。虚無だけが心身を包み、日々をぼんやりと過ごすのみ。世界が色褪せて見える。なにもかもが嫌になっていた。
 ことの起こりは妻の失踪である。
 若い妻だった。年齢としの差は二十。夫婦として暮らした年月も短く、婚姻から二年と経ていなかった。
 晩婚である。斎木は初婚だが、妻は二度目の結婚だった。ふたりは見合いにより結ばれた。長い独身生活を見かねた友人、関口からの紹介である。風俗通いが唯一の趣味という悪友ではあったが、面倒見は良い。仲人もつとめてくれた。
 夫婦関係は悪くなかった。口喧嘩ひとつしたことがない。親子ほどの年齢差がゆとりを生むのだろう、と周囲から微笑ましく思われていた。どちらも相手へのいたわりを忘れることはなく、夜の生活も充実していたといっていい。睦まじいふたりだった。
 斎木が個人経営する会社の業績も順調で、夫婦ふたりが暮らすぶんにはまったく不自由ないほどの収入を得ていた。独身時代からの貯蓄も少なくはない。新築の家を建てる相談をはじめていたくらいである。
 だから、妻がとつぜん姿を消すなどとは夢にも思わなかった。不満を漏らしたことも、憤りを見せたこともない。何もかもうまくいっていたはずだ。斎木昭博は信じ切っていた。
 妻を。満ち足りた生活を。幸福な未来を。
 かならず帰ってくる。だいいち、妻が姿を消す理由などない。毎日が笑顔に包まれていたのだから。
 ひょっとしたら、なにか事件に巻き込まれたのではないか。捜索願いを出すべきか。斎木は惑い、不安に暮れる。
 二日待ち、いよいよ警察へ頼ろうと決意したところで郵便物が届く。差出人は妻である。
 離婚届だった。
 ほとんどが記載済みで、夫の名を署名捺印する箇所だけが空欄である。
 同封の手紙には、簡略な謝罪文が無機質な明朝体で印刷されていた。財産分与等いっさいの請求権を放棄するかわり、一刻も早く離婚に同意して欲しいという内容の文章が後に続く。
 末尾だけが手書きだった。もう顔を合わせるつもりはない、毎日が苦痛だった、二度と会いたくない。文面だけでなく、筆圧が強い意思を示していた。
 斎木昭博は信じなかった。
 これは何かの間違いだ。誰かの悪戯に違いない。きっとそうだ。いやでもしかし、筆跡は妻のものだ。・・・・・・そうか。ひょっとしたら何者かに拉致されて、無理矢理書かされたのかもしれない。自分たち夫婦の幸福を妬む、誰かに・・・・・・。
 半ば混乱した頭で、斎木は手かがりを探す。妻の真意はどこにあるのか。悪夢なら醒めてくれと、何度も声にしながら。家中を空き巣が荒らすがことく探しまわった。
 そして斎木は決定的なものを発見してしまう。経口避妊薬である。
「あなたの子どもが欲しい」
 妻は確かにそう口にした。一度や二度のことではない。頬を染めて子づくりをしようとベッドに誘われた夜々を、斎木は容易に思い出すことができる。年甲斐もなく毎晩のように励んだのは、けして斎木自身の性欲の強さからだけではない。
 あれは嘘だったのか。演技だったのか。しかしなぜ。
 己に問うても明確な答えなど出ない。間違いなく妻の薬であることが、内服薬の袋から確認できる。服用していたのがいつからなのかは、わからない。服用履歴を示す手帳は見つからなかった。あるいは結婚当初からなのか。
 考えられるのは、斎木との結婚そのものが資産目当てだったという可能性くらいだった。なにしろ年齢差が大きい。斎木の死後遺産を手にしようとしたか、もしくは結婚生活の実績をつくり、離婚して慰謝料と財産分与をせしめる魂胆だったか。
 なんだ、はじめから愛なんて、なかったんだ。なにが、夫婦の幸福だ。ふたりの未来だ。
 でも、待てよ。得られるはずだった金すら放棄するってのは、どういうことなんだ。おれが死ぬのを待てなかった? 離婚すればいい話じゃないか。そりゃ、いきなり告げられてもすぐには同意できないかもしれないが・・・・・・。
 思考はぐるぐると巡る。何巡かしたのち、斎木は離婚届と同封されていた肉筆の文章を思い出す。納得した。すべてが繋がった気がする。憶測にすぎないが、疑いようもない真実。夫であった自分へ見せた、ただひとつの意思。唯一の訴え。
 もう涙も出なかった。
 そして斎木昭博は壊れた。

 離婚届を役所に提出してすぐ、斎木は酒浸りになった。
 なにも考えたくない。なにも見たくない。すべて忘れたい。みずから死ぬ気力もない。心の壊れた中年男が頼れるものは酒しかなかった。
 斎木昭博は下戸である。アルコールの匂いさえ嗅ぎたくないという下戸のなかの下戸だ。たちまち身体を壊した。急性アルコール中毒を発症して入院する。
 天涯孤独の斎木の身を案じたのはひとりだけだった。別れた妻を紹介した関口である。彼だけは入院先の病院に駆けつけた。
 親友の状況を知った関口は泣いて詫びる。そんな女だとは思わなかったと。良かれと思って紹介したが、苦しめる結果になってしまった。許してくれ、と病室の床に額をこすりつける。
 長年の友人の心からの謝罪に、斎木の反応は薄い。気にするな、と生気の失せた顔で片手をあげるばかりだった。
 数日のち、斎木は退院する。入院に懲りて酒はやめたが、個人経営の仕事を再開する気もなかった。なにもやる気がおきない。ぼんやりと日々を過ごした。
 日を空けずやってくる関口が鬱陶しかった。心配して来てくれているのだろうが、もう構わないでほしい。世のことも、過去も未来もどうでもいいのだ。世間を賑わす凶悪事件も、自分の明日も明後日も、どれも知ったことではない。なにもかもどうでもいい。
 漫然と過ごす日々が二ヶ月も過ぎたころ、関口が急に怒り出した。
 こんな毎日を続けていてどうなる、前を見ろ、まだ人生は長い。そんなことをわめき散らす。
 わけがわからなかった。面倒になって「放っておいてくれ」と返すと殴り倒された。驚いて見上げると、五十男が泣いている。ひとしきり泣きわめき、満足したのか去って行った。
 もう来ないだろうと安心したのもつかのま、親友は翌日姿を見せた。
 昨日は本当に悪かった、お詫びにいいところに連れて行ってやる、秘密の店なんだ、と、にやにや笑っている。なんなんだ、こいつは。訝る斎木を、関口は引きずるようにして家から連れ出した。聞けば性風俗店だという。
 自分が行きたいだけなんじゃないのか。呆れつつも斎木は折れた。
 仕事も忙しいだろうに、毎日通いつめてくれている。生涯の親友といっていい。若いころを思い出して、ともに性風俗の店に行くのも、まあ、いいだろう。昔はつるんでソープランドやファッションヘルスをハシゴしたものだ。
 斎木自身はプレイを愉しむことはできないが、関口はぞんぶん愉しむといい。斎木はそう思った。
 妻に逃げられてからは女の肌のことなど考えられない。考えたくもなかった。旺盛だった性欲も失せて久しい。女が欲しい、抱きたいなどという感情や欲望も思い出せないほどである。思い出したくもない。男して枯れてしまっているのだ。勃起すらできない。
 自分についた風俗嬢とは適当に話でもして時間を過ごせばいい。風俗嬢としては楽ができるのだから大歓迎といったところだろう。
 あくまでも、つきあいだ。落ちこむ自分を気づかって誘ってくれた関口の顔をたてて、喜ぶ顔のひとつでも見せてやれば満足だろう。肩を並べて歩く親友の口もとが緩んでいて、なんだか微笑ましかった。
 連れて行かれた先が違法な性風俗店だったことに驚きはしたが、斎木に抵抗はなかった。未成年者を扱おうが法に触れていようが、どうでもいいことだ。道徳や倫理観など知ったことではなかった。摘発などということになれば面倒だが、いまさらどうということはない。関口のぶんの罪も被ってやれればいいのだが。
 関口は一番人気の娘をつけてくれるという。斎木のためにわざわざ予約していたらしい。譲ろうとしたが頑としてきかない。しかたなく斎木は親友の好意を受けることにした。
 どうせ勃たないのになあと苦笑しつつ、斎木は待合室にひとり残された。関口はすでに他の風俗嬢と個室へ向かっている。瑞々しい肌を愉しんでいるところだろう。若い若い、若すぎる娘との会話でも愉しませてもらうか。
 還暦をはるか昔に通りすぎた老人のような気分だった。ひどく歳をとった気がする。巷にあふれる遊興や快楽のすべては、もはや自分とは縁遠い。ただ漠然と生きる毎日が死ぬまで続くのだろう。斎木は自嘲することしかできない。
 厭世気どりは少女が姿を見せるまでのことだった。
 待合室まで迎えに来た少女に、斎木は目を奪われる。挨拶を返すこともできなかった。
 息が止まる。
 なにも考えられない。刹那、すべてを忘れた。身に降りかかった不幸も、世捨てびとじみた自身の暮らしも。
 斎木昭博は、一瞬にして少女に心を掴まれていた。
 四十九歳の一目惚れである。
 少女は綺麗だった。美しかった。
 いかにも今風な顔だちだが、華奢な体躯が日本人形を思わせる。コスチュームらしき近隣高校の制服が似合っているが、浴衣を着せてもよく似合うことだろう。
 しかし、おさない。こんな、いたいけな少女と、行為に及ぶのか。
 黒髪に長い睫毛は愛くるしく、小さな身体がいっそう少女を幼く見せている。あどけない笑顔は守ってやりたくなりこそすれ、手折っていいものとは思えない。
 棄ててしまったはずの倫理観が胸を締めつける。かといって、この場から立ち去る選択肢など斎木にはない。立ち去るどころか、会話を愉しんで終わるつもりだったことさえ忘れてしまっていた。
 戸惑う中年男の心の動きを悟ったのか、はたまた優柔不断な客の扱いに慣れているのか。ヒカルと名乗った少女は微笑みを浮かべつつ、斎木の頬に紅い唇を押しつける。想像以上に柔らかい。髪からだろうか。甘い匂いが鼻をくすぐる。股間に血が集まっていくのを、斎木は自覚した。
 手を繋いで個室へ向かってからのことを、斎木はよく憶えていない。若造のように舞い上がって、終始夢心地だった。なにを話したか、どう受け答えしたのか。プレイ内容は記憶しているが、我を忘れてヒカルの肉体に溺れてしまったのだ。
 あっという間に時間は過ぎ去って、とにかくなごり惜しかった。商売上の関係であるのは解っているのに、別れが辛くてたまらない。遠い日の熱情が甦って胸に痛い。恋という感情に、斎木昭博は完全に支配されてしまっていた。
 以降、斎木は店に通いつめた。
 違法営業の風俗店のために料金はけして安くはなかったが、構うものではない。貯蓄は十分にある。新築の家を購入しようとしていたぐらいなのだ。
 週に一度。斎木はかならず予約を入れていた。できることならば毎日でも逢いたかった。邪気のない少女の笑顔が見たい。直接の結合に至ることは許されていないが、肌を合わせる日は至福の刻を味わえる。週に一度の入店が狂おしいほど待ち遠しかった。
 当時のヒカルは週に三日の勤務である。あえて一日しか通わない理由は、もちろん金を惜しんだためではない。嫌われるを怖れたのだ。しつこい客だと思われるのが怖かった。怖くてたまらなかった。 
 斎木にとって、ヒカルは天使である。傷つき壊れた憐れな中年男の前に舞い降りてきてくれた、尊い存在だった。頭の薄い小太りの醜男が相手だというのに嫌な顔ひとつ見せない。顔をしかめるどころか、つねに屈託のない笑顔で尽くしてくれる美少女なのだ。天使と崇めてしまうのも無理はなかった。
 だが、しょせんは金銭を介しての関係である。斎木は痛いほど理解していた。利害を廃してなお自分に微笑んでくれるなどと、白昼の夢に溺れてはいても自惚うぬぼれはしない。身のほどを忘れて思いあがるには、逃げられた妻に刻まれた傷が深すぎた。
 せめて、印象の良い客でいたい。上客と思われていれば、少女の笑顔が陰ることはない。天使の微笑みを失うことはない。
 多くは望まない。現状がもっとも幸せなのだと、斎木昭博は己を慰める。どんなに望んでも、神に願っても、たとえ天地が逆転しようともヒカルが自分の所有物ものになることはない。
 満足すべきなのだ。金で買うわずかな時間とはいえ、この上ない幸福を得ることができる。分際をわきまえぬ欲に従えば、なにもかも失う。斎木は苦い経験によって思い知らされている。満足すべきなのだ。いつか終わりの日が訪れることがわかっていても。
 最低限の分別だけは捨ててはならない。自分を戒めつつ、斎木は仕事を再開した。ヒカルに逢いに行く日が待ち遠しすぎて、悶々とした日々を無為に過ごすのに耐えられなかったのである。いってみれば、時間つぶし、気晴らしに過ぎない。
 動機にしてはひどい話だが、親友の関口は安堵したらしい。あまりに頻繁な店通いには苦言を漏らしたが、斎木の社会復帰を喜び、涙まで浮かべてくれた。
 余談ではあるが、関口自身は風俗遊びが発覚し、奥方にこっぴどく叱られた上に小遣いの減額処分を言い渡されたらしい。申し訳なく思うと同時に、ヒカルを指名する客がひとり減ったとほくそ笑む自分が居ることに斎木は驚く。嫉妬を覚えたとろで何にもならないというのに。
 ともあれ、満ち足りた日々であると思いこむ日々は続いた。
 事実、斎木の生活は充実していた。週に一度の愉しみを励みに働くことがよい結果に繋がり、上々の収益を得ている。くたくたになるまで働いて、天使に癒やされる。最高の癒しが待っているから、気張って働ける。意図したわけでもない相互作用が良好に機能していた。
 疲れている斎木を、ヒカルはそっと抱きしめる。しごとの愚痴も、妻に逃げられた情けない過去も、すべて口漏らしてしまっていた。少女はしずかに耳を傾ける。肌を合わせながら。思い出しては泣きくずれる斎木の頭を撫でる手がやさしかった。
 ヒカルの勤務が変更されたのは最近のことである。月に一度の定休日をのぞき、少女のシフトはすべて埋まった。休み無しの出勤ということになる。
 当局を警戒してのことだろう。店は日中しか開けていないが、それでも営業時間は十時間近くにも及ぶ。
 通常、風俗嬢は客待ちの待機時間に個室で休憩できる。暇なときは寝転んで休めるのだ。客に指名されない時間が長いほど暇が生まれる。基本的に人気のない娘ほど暇が多くなるといっていい。無指名の客やフロント店員の推薦を待つしかないのである。
 当然だが、客がつかなければ大した稼ぎにならない。無駄なく効率的に稼ぐには来客数の多い時間にのみ勤務すればよい。むろん店の都合もあるから希望どおりには通るまいが、無駄な働きをしたくないのは誰しもが思うところだ。
 ヒカルは店の一番人気である。指名数、売り上げ額ともに一位、評判の看板娘といっていい。全日勤務体制でも次から次と指名が入り、客足は絶えないだろう。連続して客の相手をすることになる。息つく暇もない過酷な肉体労働になることは必至だ。
 あえて無休の全日勤務を望むというのは、短い日数で多額の収入を得たいという意思のあらわれと見てよかろう。金銭的理由であろうと容易に推測できる。それも、なんらかの事情で困窮しているに違いない。
 おそらくは、男だ。
 会話から察するに、ヒカルは金銭欲や物欲に乏しい娘である。高価な装飾品や洋服の購入目的とは考えにくい。心根のやさしい、思いやりのあるいい子なのだ。彼氏の借金を肩代わりさせられたとか、そういった理由だろう。ホスト遊びに散財したなどという可能性を、斎木は考えたくなかった。
 ヒカルの身体が心配だったが、斎木は事情を問うことをしなかった。訊けば、きっと援助してしまう。百万、二百万ごときのはした金なら、ポンと手渡してしまいそうだった。
 冗談ではない。
 人のいい親父だ、儲かったな、と嘲笑う男の影が脳裏に浮かんで血が沸騰しそうだった。ふざけた話だ。彼女は心から感謝してくれるだろう。涙すら浮かべて喜んでくれるかもしれない。
 だが、少女の感涙の裏では下衆な彼氏がほくそ笑んでいるのに違いないのだ。斎木を嗤いものにしながら、ヒカルの身体を思いのままに蹂躙するのである。何の苦労もしない糞餓鬼が愚かな中年男の話を肴に、汚れなきはずの天使を好き放題に抱く姿を想像してしまう。前から後ろから、へらへら笑いながら犯すのである。
 客の身に過ぎぬ斎木では触れることしかできない未熟な性器に、やつは毎夜薄汚い男根を挿しこみ腰を振り立てているのだ。ひょっとしたら膣内射精まで許しているかもしれない。軽薄な若い男の白い精子が、夜ごとあのきれいな割れ目の奥に流しこまれているかもしれない。何度も何度も。当たり前のように。
 考えただけで気が狂いそうになる。勝手な妄想ではあったが、斎木は見たこともないヒカルの彼氏が許せなかった。殺してやりたいと思った。できることなら今すぐ亡き者にしたいくらいである。
 問題は男の存在だけではなかった。
 なによりも、少女が姿を消してしまうかもしれないという恐怖に斎木はおびえた。働いている理由が男の借金返済目的だとすると、金を稼ぎ終えたとたんに店を辞めても不思議はない。
 ヒカルに逢えなくなる。想像しただけで気が狂いそうだった。ヒカルに逢えない日々など、耐えられるはずがない。いやだ。それだけは、いやだ。思考は深く闇の淵に沈み、斎木は精神の恐慌を起こしかけた。
 逃れるすべはない。夢はかならず覚めるものだ。そう遠くない将来、現実と直面する覚悟を迫られる。頭ではわかってはいても受け入れられない。認められなかった。
 恐怖に追いつめられた斎木昭博は、はじめて己に課した禁を破る。ヒカルに連日の予約を入れたのだ。日を空けずに逢って癒やしてもらわねば精神の均衡を保てそうになかった。自分が来店しない日に、ほかの男に触れられていると考えるだけでも肌が粟立つ。叫び声を放ちそうになる。
 天使は思いのほか喜んでくれた。毎日来てくれて嬉しい、と抱きつかれ、斎木は年甲斐もなく有頂天になった。
 慣れた客だから。どんな男かもわからぬ一見客よりは安心するのだろう。扱いが楽だと思われているだけかもしれない。あえて自嘲気味に考えて浮かれる自分を抑えようとするも、やはり頬は緩む。
 ヒカルの感謝がうわべだけのものではないことを、しかし斎木はすぐに思い知る。献身的な性奉仕は過剰なほどで、秘密のサービスを加えてくれることもあった。少なくとも、自分は特別な客になれたのだ。嬉しかった。泣きたくなるほど嬉しかった。
 店の店長から連絡を貰ったのは、つい一昨日のことである。
 ヒカルがデリバリー部門に移籍するという知らせだった。デリバリーといっても、ただの出張ヘルスではない。生本番を基本とする過激なサービスを売りとする店舗だという。たたでさえ違法な風俗店の、さらに裏の顔といったところなのだろう。
 はじめての仕事だから、懇意の客である斎木に相手を願いたいという電話だった。悪い気はしない。水揚げを頼まれる商家の大旦那といった気分にさせられる。そのままヒカルを囲う妄想までもが脳裏に映し出されてしまう。
 斎木は具体的な金額も訊かないうちに引き受けることを決めていた。もとより支払額の大小など問うところではない。二つ返事で即答して場所と時間を取り決め、電話を切った。
 浮き立つ自分を抑えることができない。金銭に窮したあげくの選択であることは疑いようもないのに、ヒカルの身を案ずるよりも興奮が勝ってしまっていた。天使を押し倒し、密度の濃い性交を愉しむことしか考えられない。不幸な境遇を想像して同情するどころではなくなっていた。
 寝つけない夜をふたつ経て、斎木昭博は今日ついに天使を抱く。




「わあ、いい部屋だあ。サイキさん、ありがとう」
 振り返った少女の微笑みが、斎木昭博の緊張を和らげる。
 ふたりはラブホテルに入っていた。斎木が予約しておいた部屋である。値段が張るだけあって、なかなかに広く小綺麗なつくりだった。内装も落ち着いていて悪くない。慣れぬPCやインターネットと格闘しながら何時間もかけて調べた甲斐があったというものだ。
「あ。おふろ、まる見え、なんだね・・・・・・」
 バスルームとの仕切りは透明なガラス張りだった。入浴を覗いたり見せつけることで、互いの興奮を高めあう効果を狙ってのものだろう。
 下調べをしていた斎木にも下心がなかったわけではないが、ヒカルの気が進まないようなら無理強いするつもりはない。浴室内には薄いがカーテンもある。
「でも、いっしょに入っちゃえば、かんけーない、ね。・・・・・・ねっ?」
 にこーっ、と満面の笑みを浮かべて、少女は小太りの醜男を見上げる。斎木は呼吸を忘れて見入ってしまっていた。
「どしたの? おふろ広めだし、いっしょに入って、いちゃいちゃ、しよ? ふたりで入るの、いや?」
 肺に貯まる熱い空気を、斎木は一気に鼻から追い出した。背に走る衝動を抑えられない。襲い来る欲望に抗う気もなかった。急かされたように目の前の少女を抱きしめる。男としては小柄な部類に入る斎木から見ても小さく、力をこめたら壊れそうだった。
 ほのかに鼻をくすぐるのはなんの匂いだろうか。いい香りだった。
「あ、んっ・・・・・えへへ、こうふん、しちゃった?」
 湿気の強い鼻息が額に降りかかっても、ヒカルの表情に拒絶の色は見られない。笑みは柔らかさを増して優しく、細めた目は慈愛に満ちている。まぶたの間から覗く黒い瞳が光を放って強い。
 母性にも似た情愛と娼婦じみた誘惑を同時に感じて、斎木は自分を見失った。
「ごっ、ごめんっ!」
「えっ? んうぅっ・・・・・・!」
 目をまたたかせて驚くヒカルの唇を奪う。我慢できなかった。ぞくぞくとした快感と欲望が斎木を急きたてる。華奢な身体を荒々しくかき抱き、柔らかな紅唇を吸う。とても接吻くちづけと呼べるものではなかった。乾いて荒れた男の唇が、少女の口全体を覆っている。
「んっ、ふう、んっ・・・・・・」
 苦しげな少女の声に気づき、斎木昭博はようやく腕の力を緩める。少女の眉間からは皺が消えるも、安堵の息をつくことは許されなかった。依然口は塞がれたままだ。
 紅唇を味わう中年男の声はくぐもって太い。鼻息を吐き出すたびにふくよかな頬が窪む。無我夢中で天使の口を吸っている。まばたきを忘れたらしい目が血走って赤かった。
 ヒカルは無抵抗だった。されるがまま、斎木に口を吸わせている。みずから汗ばんだジャケットの背に手をまわし、中年男のはげしい欲情を受け入れる姿勢である。伏せた目が恭順の意を表しているように見えて、斎木の興奮はますます増していった。
 ふんふんと鼻息を荒く吐きつつ、斎木昭博はか細い腰に添えていたふたつの手を動かす。下へと。狙いは少女の臀部だった。
 衣服の上からでは満足できないのだろう。ごつごつした手は無遠慮にワンピースの裾をめくり、節くれだった指が太ももの裏側をなぞりあげていく。面積の小さな下着に到達すると、掌いっぱいに小ぶりな尻を包みこんだ。
 張りのある柔肉に指先が食いこんで深い。鷲掴みだった。
「んっ、んっ、うんぅ・・・・・・」
 爪痕すら残りそうな乱暴な行為に、しかし少女は眉先も動かさなかった。ふがふがと歓喜に鼻を鳴らす中年男の口愛撫を、従順に受け止めている。ときおり喉が動くのは、混じり合ったふたりぶんの唾を嚥下している証だろう。
「ぷはっ! ・・・・・・はあっ、はあっ・・・・・・」
 突如、斎木昭博はヒカルの口を解放する。肩を上下させるほど呼吸は荒いが、息継ぎに苦しんで離れたというわけでもなさそうだ。密着するふたりの間に、白い手が差しこまれていた。
 着古しのスラックスの前、小太りの男の股間に。
 膨らんで伸びた生地の上を少女の手が這う。細い手首から掌、中指の先へと、そっと、ゆっくりと。下から上へ撫であげていく。触れては離れる愛撫のもどかしさに、斎木は身悶えしそうになった。
「ん、すごい、勃起、してる・・・・・・いつもより、ずっと、大っきいよ? 服の上からでもわかるくらい、ぱんぱんになってる」
「おっ、おっふ、う・・・・・・」
 情けない声が勝手に漏れる。おそらくは醜くだらしない顔を晒してしまっていることだろう。羞恥を覚えつつも斎木の胸は期待から高鳴りを増していった。
「くるしそう・・・・・・」
 少女の指先がファスナーの引き手をつまむ。中年男の喉が上下する。わずかに開いた口からこぼれる息は乱れて熱い。
 じりじりと音をたててファスナーが降ろされる。開放された股間部分から、テント状の突起が飛び出した。一点に張ったトランクスの頂点が湿って暗い。
 ヒカルの手は止まらない。さらに下着の前開きに白い指を差し入れていった。
「うっ、ふお、うぅ・・・・・・」
 斎木昭博の顔が歪む。短い呻きが断続的に吐き出され、苦しげに息を吸うたびに汗粒だらけの額と頬は赤みを増していく。ひくひくと鼻の穴が開閉して広い。
「サイキさん・・・・・・ほんとうに、すごいよ? 信じられないくらい、かたくなってる・・・・・・。びっくりするくらい、かたいし、おおきい・・・・・・」
 下着の中で勃起を握る少女の手が柔らかい。ひんやりと冷たく心地よかった。背から脳まで涼んだような気分になり、斎木にようやく心を落ち着ける余裕が生まれる。
「じ、実はその・・・・・・げ、元気になる薬を飲んじゃったんだよね・・・・・・その、ひ、ヒカルちゃんと、いっぱい、したくて・・・・・・」
 気恥ずかしそう語る声は尻すぼみに小さくなっていく。咎められたように目を泳がせてうなだれる斎木の顔を、ヒカルはじっと見つめていた。
 斎木昭博が服用したのは、前世紀末から世界的に大流行した勃起不全治療薬である。日本国内では医師による処方箋が必要だが、通常は問診のみで入手できる。効果は折り紙付きといってよく、処方を求めて通院する高齢男性も珍しくないという。
「ご、ごめん・・・・・・その・・・・・・愉しみで愉しみで・・・・・・たまら、なくて・・・・・・ごめん」
 しょぼくれて肩を縮める小太りの腕を、少女の左手が掴む。右手は依然男の股間に入ったままだ。硬度を失いつつある陰茎を励ますように優しく擦っている。
 掴んだ斎木の右腕を、ヒカルは自分の股のつけ根へと導いた。掌を上に向け、わずかに開いた脚の間へと挟みこむ。見上げる少女の頬がほのかに紅い。黒い瞳が幾度か揺れ、ふたたび中年男の顔を捉える。
「さわって、みて・・・・・サイキさん」
 促されるままに、斎木は指を割れた筋のあたりに這わせた。ほんのりとした湿り気が、下着ごしに伝わる。
「あたしね、サイキさんがはじめてのお客さんになってくれて、うれしかった・・・・・・ほんとにね、うれしかったんだ・・・・・・」
 デリバリーのことを指していると気づき、斎木ははっとなって顔を上げた。
 不安だったのだ。浮かない表情をしていた理由は疲労のためだけではない。怖かったのだろう。より過激になる性的サービス。違法性が高くなるにともない、客層もまた社会的に正常な人種から遠ざかる。未熟な肉体と精神にかかる負担は計り知れない。本来なら大人に保護されるべき年齢の少女なのである。
 あれこれ想像を巡らせていたくせに、まったくヒカルの気持ちを思い遣っていなかった。嫌われることを怖れ、自分の前から姿を消すことにおびえていただけだ。なのに天使はそんな自分に安堵を覚えている。嬉しかったと口にしてくれている。
 熱くなった斎木昭博の胸に、小さな天使がもたれかかる。頬をすりすりと擦りつける仕種は、子どもが拗ねて甘えるようだった。
「そんなに、たのしみに、しててくれたの・・・・・・?」
 あわてて肯く斎木の肩に、小さな頭部があずけられていた。しなだれかかる少女の重みが胸の鼓動を速くする。黒髪から香る匂いがたまらない。幼さと艶の混じる甘えた声は、鎖骨から耳へ背筋へと全身をぞくぞくさせる。
 熱のこもるトランクスの中で、少女の手に包まれた肉棒がふたたび膨張していく。前開きの間から赤黒い亀頭が姿を見せていた。
「ん・・・・・・また、かたくなってる・・・・・・かたいよぉ・・・・・。ほんとに、何回でも、できそう・・・・・・」
 斎木の指もヒカルの下着に触れたままだった。知らず、かたちに沿ってなぞりあげていたらしい。湿りが増している。
 ジャケットの胸に少女の吐息が温かい。びくん、と華奢な身体が小さく揺れて、上目づかいに斎木を見つめる。黒い瞳が潤んでいた。
「すきにして、いいよ・・・・・・何回でも・・・・・・いっぱい、して・・・・・・? すきなことして、いいんだよ・・・・・・今日のヒカルは、サイキさんのもの、だから・・・・・・」
 紅潮した顔で、天使が囁く。
 斎木の頭は沸騰しそうだった。額に浮く血管が尋常ではなく太い。極度の興奮は中年男の意識を飛ばしかけ、ついで勃起の先から先走りを飛ばした。
「あっ、やんっ・・・・・・!」
 射精と見まがうほどの勢いだった。ヒカルは驚いて声を漏らすも、男根を握る右手は離さない。避けるどころか咄嗟とっさに脈動する先端を左の掌で覆い、放たれた先走りを迎えていた。
 粘つく体液の付着する左手を、少女は不思議そうな顔で見つめる。液体は透明ではなく、白いものが多く混ざって濃ゆい。
「えへへ、げんき、いっぱい・・・・・・」
 頬を紅く染めたまま、ヒカルは無邪気な笑顔を見せた。首を傾げたかと思うと、左手に広がる液体をぺろりと舐めあげる。半ば伏せた瞼の下で黒い瞳は揺るぎもしない。艶めく視線に囚われた斎木はしばし息を吐くことも忘れた。
「サイキさん・・・・・・。この子、もう、がまん、できないみたい、だよ・・・・・・」
 視線をいちど下に落とした後で、少女はふたたび斎木を見あげる。体液に粘つく肉棒を右手にぬるぬると前後に撫でながら。
「お風呂より先に、ね? ・・・・・・こ、ここで・・・・・・」
 と、天使は自分の下腹を指さす。下着の上に毛の生えた指が擦りつけられたままだ。ヒカルは男の指を握り、秘部へと強く押しつける。濡れた下着の生地ごと、割れ目の中へと指先が沈む。熱かった。
「あ、んっ・・・・・・お風呂より先に、ここで・・・・・・ヒカルの、おまんこの、中で・・・・・・どくんどくんって・・・・・・させて、あげよ・・・・・・?」
 切なげな吐息が斎木の首を湿らせる。心身をくまなく支配する欲情はげしく、肯定の意志を顎で示すも声が出ない。口は渇き、喉が痛いくらいだった。
 だが水分を必要としているわけではない。渇きなどどうでもよかった。
 天使を、犯す。犯したい。
 斎木の頭にあるのはそれだけだった。



馬鹿で一途でふしだらな。 はじめへもどる

テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2015/11/16(月) 12:00:00|
  2. 馬鹿で一途でふしだらな。
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臥頭狂一

Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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