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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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恣(ほしいまま) ~共有される幼な妻~ 第三話 (42枚)


 今夜はイケルがキーラの夫だ。週に一度のお愉しみに、寡黙な長男も心なしか浮ついて見える。
 不機嫌なのは次男だった。あきらかな敵意を兄に向けている。
 もとより仲の良い兄弟ではないが、それにしても異常だった。キーラにはその理由がわからない。
 困惑する少女をよそに、末弟はすまし顔で厚い本を広げていた。
 ……それが次男の怒りに火をつける行為だと知っていながら。




 緊迫した空気が漂っていた。
 食卓の上で、ランプの炎が揺れている。部屋全体を照らすには不足ではあったが、テーブルについている者たちの表情を窺うには十分な灯りだった。
 みな、無言で食事をすすめている。もともと会話が弾む家庭ではなかったが、今夜はひときわ静かだった。
 キーラは顎を動かすことなく、目だけで男たちの顔色を窺った。
 家長のヘルマンの様子に変わりはない。味つけにうるさい彼が無言なのは、スープに満足しているからだろう。三度もおかわりしていた。白黒のまだら髭に、ホワイトクリームが付着している。
 長男のイケルは父に輪をかけて無口な男だ。髭のないことと、背丈が著しく低いことを除けば、ヘルマンに生き写しといっていいほど容姿が似ている。性格まで受け継いでいるらしく、無駄口を叩くことはなかった。
 いつもは無表情だが、心なしか柔らいで見える。黒い頬肌が、ほのかに赤い。酒を口にしたわけでもないのに、酔いしれているようでもあった。
 問題は次男のファビオだった。見るからに苛々している。眉間に皺が寄っているのは、噛んでいるパンが固いという理由だけではなさそうだ。充血した眼が、テーブルの向かいを見据えている。
 視線の先は、イケルだった。やや浮ついた表情の兄を、ファビオは睨みつけている。憤りを隠そうともしない。突き刺すような鋭い眼差しだった。
 何が原因なのか、キーラにはわからない。聞ける雰囲気でもなかった。もともと仲が良い兄弟というわけではないが、今夜の気配はただことではない。明確な敵意を、兄にぶつけている。
 彼らは年齢が近い。イケルが二十五歳で、ファビオは二十二歳。後妻の子であるエルナンとは違い、母を同じくする兄弟だった。
 この町に住む者はみな、血の繋がりを重くみる。とくに兄弟の結びつきは強かった。助け合わねば生きていけないという意識が、何代にもわたり身体に染みついているのだ。
 さびれた鉱山の町には真に裕福な者などいない。身を粉にして働いても、次代に財産を残すほど稼ぐことはできなかった。過酷な労働の対価は、あまりにも少ない。粉塵の毒に犯されたり、落盤などの事故で大怪我を負っても見舞金が出ることはない。死んだときにかぎり、賠償として葬式代で消えてしまうくらいの小金が支給されるだけだ。
 病気や怪我で倒れたとき、頼れるのは身内だけだった。血縁でもない者に施しできるほど、鉱山町の暮らしは甘くはない。肉親の間でだけ、相互扶助は成立していた。
 親は老後のことを考えて息子を大事にし、兄弟は互いを尊重しあう。生きるための必然といってもよかった。
 しかしセルダ家にかぎり、そういった常識が通用しない。イケルはともかく、ファビオは兄に強い反感を抱いている。ふたりが会話するところを、キーラはこの半年で数回しか見たことがなかった。
 幼い弟たちと数年を過ごしてきた少女には理解できない。飢えに苦しみつつ、ときには言い争うことはあっても力を合わせて生きてきた。きょうだいの絆は何よりも強いと信じていたのだ。
 食に困ったことがないからかもしれない。へルマンは人の倍は稼ぐ。子どもたちは常にお腹いっぱいに食べて育ったのだろう。飢えたことがないから、兄弟のありがたみがわからないのだ。セルダ家に来てから、空腹と呼べるほどの飢えすら経験していないキーラはそう思う。
 けれども、ファビオが兄に敵意を向ける理由までは推しはかることもできなかった。見ていてわかるのは、ふたりとも兄弟を必要としているようには見えないということだけだ。
 外見のせいかもしれない。次男のファビオはどちらかというと痩せ型で、肌の色もヘルマンやイケルほど黒くはない。体毛も薄く、顔も細い。骨太でいかつい体型の父や兄とは似つかぬ容姿だった。ふたりを知らない者は、兄弟だと気づかないだろう。
 性格も対照的だった。
 イケルは父に似て寡黙な男だ。まだ二十五歳の若者だというのに、落ち着いて貫禄がある。小兵ではあるが、侮られる要素はほかにない。全身を覆う鎧のごとき固い筋肉が、自信となって現れているのかもしれない。
 兄より十五センチ以上も身長が高いはずのファビオは、なぜか大きくは見えない。線が細いせいだけとは思えなかった。
 口数が多く、いつもいらいらしている。その粗暴さは少女をおびえさせたが、風格を感じさせるにはいたらない。キーラにとっては、ただ怖いだけの存在だった。
 機嫌が悪いときには、わけもなくエルナンを殴る。十以上も年齢の離れた弟を本気で打ちのめすのだ。当のエルナンは口や鼻から血を流してもけろっとしているが、キーラには正視できないほどむごい光景に思える。兄弟喧嘩などというものではなかった。理不尽な八つ当たりにすぎない。
 エルナンは平気だという。慣れているから、と。
 畑しごとの合間、少しだけ語ってくれたことがある。
 どういうわけか、ファビオに目の敵にされているのだという。ものごころがついたときには、小突かれてばかりいたらしい。性格だからしかたないよ、とエルナンは平然と笑う。
「でも、最近のファビオはちょっとイライラしすぎだね」
 理由を知っているかのような口ぶりだったが、話してはくれなかった。肩をすくめて微笑んだだけだ。話しにくいことなのかもしれないと思い、キーラはそれ以上問うことをやめた。
 兄弟の、いや、家族間の亀裂を深めている原因が自分にあることに、十三歳の少女はまだ気づいていない。
「ごちそうさま」
 少年の高い声に、キーラは我に返る。どうやら食事は終わっていたらしい。あちこちに裂け目の走る木製のテーブルの上に置かれた皿は、どれも空になっていた。
 知らせてくれた声の主は、ランプの灯りを頼りにぼろぼろの本を開いている。小さな字を追うあどけない瞳は真剣そのものだ。
 少女の顔が翳っていく。不安でたまらないといった面持ちだった。
 町の住人のほとんどは読み書きができない。多くは自分の名を記すことさえ覚束なかった。びっしりと文字が印刷された本を読む者など、数えるほどしかいないはずだ。セルダ家でも末弟を除いては、本どころか自分の名を判別することもできない有様だった。
 本など偉い人が読むものだと思っていたキーラは、ふたつ年下の少年へ畏敬の念を抱いていた。なにしろ書物というものを目にしたことすらなかったのだ。素直に感嘆の声を伝えると、エルナンは照れくさそうに「特別なことじゃないよ」と頭を掻きつつ、本を読めるようになるまでの経緯を語った。
 それは謙遜にふさわしい内容ではなかった。二年前、捨ててあった雑誌に興味を持ったのが、はじまりだという。
 道端に捨てられていたのは、いわゆるヌード雑誌だった。鉱山で働く男たちが手にする雑誌といえば、それしかない。女の肌に触れることもままならない男たちは、せめて写真の女で無聊を慰めることぐらいしか、愉しみがなかった。
 まだ幼子だったエルナンにもいやらしさはなんとなくわかったが、彼はむしろ写真のページではなく文字だらけの記事のほうに興味を持った。何が書いてあるんだろう。気になりだすと、知りたくてたまらなくなった。
 本が手に入るのは、町で唯一の商店である雑貨屋だけだ。エルナンは時間をつくっては雑貨屋に通った。文字を教えてもらうためだ。
 はじめは渋っていた店主だが、昼間はどうせ暇している。退屈しのぎにと基本的な文字と主要な単語を教えてくれるようになった。少年が金を稼ぐ年齢になったとき、街から仕入れた本を買ってもらおうという下心もあったかもしれない。
 乾いた砂が水を吸うように、エルナンはたちまち文字を覚え、読み書きを身につけた。雑貨屋の店主は驚きを隠せなかった。学校教育を受けた者より覚えが早い。興味を持った店主は、不要になった本を与えてみた。少年は次々と読破する。いまでは雑誌に飽き足らず、大人向けの小説やちょっとした専門書を読めるまでになった。文字を覚えてからたった二年の、十一歳の少年がだ。
 天分もさることながら、驚くべき向上心だった。子どもとはいえ、暇なわけではない。立派な労働力だった。家事や畑しごとを疎かにするわけにはいかない。セルダ家の畑はほかの家よりもずっと広く、容易なことではないはずだった。
 本を読む時間をつくるために、エルナンは家のしごとを工夫してあたったという。彼の要領の良さは、努力の積み重ねによって養われたのだ。キーラの尊敬は高まるばかりだった。
 意外にもヘルマンは末子の読書を認めているらしいが、年齢の離れた兄たちは快く思っていなかった。とくにファビオは、あからさまに嫌悪をあらわした。馬鹿にされている気がするのだろう。自分の前で本を読んだという理由だけでエルナンを蹴飛ばすのを、キーラは目の当たりにしている。
 三つ編みの少女が顔を蒼くしているのは、そういった理由からだった。乱暴きわまりない兄がすぐ隣にいるというのに、どうして挑発的な行動に出るのだろう。
 気の短い次男は、父親の前だろうと平気で小さな弟を殴る。発作に近いものがあった。そして周囲が止めに入ることはめったにないのだ。家のしごとに支障をきたすほどの怪我でもしないかぎり、幼い弟への暴力は黙認された。
 このままでは殴られてしまう。ファビオの額に血管が青々と浮いていた。
 キーラはくせっ毛の少年を、なんとかして虐待から守りたかった。奴隷に等しい立場の自分を励ましてくれた、たったひとりの存在なのだ。痛めつけられるところを見たくはない。
 大げさな音をたてて、椅子から立ち上がる。注意をこちらへ逸らす意図があった。
 じろり、と酷薄そうな次男の細い眼が少女に向けられる。脚がふるえた。ヘルマンによってキーラに暴力を振るうことは禁じられていたが、それでも恐ろしい。ファビオは短慮者だ。かっとなると何をするか想像がつかない。
 目を合わせないようにして、空いた皿を集める。
 洗うのは明日、明るくなってからだが、片づけなくてはならない。運ぶのを手伝ってもらうという口実で、エルナンを連れ出すつもりだった。非力なキーラにはそれが精一杯だったが、不自然な点は何もない。場を取り繕うには最善の作戦といえた。
 ところが、思わぬところから妨害が入った。最後の皿を回収しようと伸ばした手を掴まれてしまったのだ。
「あ……あの……」
 長男のイケルだった。真っ黒な眼玉が、瞬きもなく少女を見つめている。つぶれた鼻の穴が大きく開く。口もとには珍しく笑みさえ浮かんでいた。
「お皿、運ば、ないと……」
 一応は主張してみるが、無駄なことはわかっていた。少女はとび色の瞳を泳がせながら、計画が失敗に終わったことを悟る。
 今夜は、イケルの日だったのだ。
 もう一分たりとも待つつもりはないだろう。かぼそい手首がきしむほどに強く握りしめられている。キーラに振りほどける力ではなかったし、払いのける権利もなかった。今夜のイケルには、少女を自由にできる資格が与えられている。
 一週間に一度。割り当てられた日以外に、イケルとファビオは共有妻に触れることも許されていない。ヘルマンの決定は絶対だった。旺盛な性欲を抱えた年若い兄弟には辛いものがある。
 それだけに、七日に一度だけ巡ってくる日は貴重だった。美形の幼な妻を思いのままにできる日を、彼らは一日千秋の思いで待ち焦がれている。六日の間、未熟な肉体をどう貪ろうか、妄想を膨らませて耐え忍ぶのだ。兄弟や父に抱かれる、ほっそりした姿態を尻目にしながら。狂おしいまでの情欲が蓄積されていた。
「あっ……」
 力強く握られた手首を引かれる。少女の軽いからだは、容易く抱き寄せられた。
 今宵キーラを支配する、主人のもとへ。
 なめらかな白い頬が、少し湿ったセーターへと押しつけられている。小男の胸は分厚く、熱かった。汗の臭いが強い。少女は抗わず、からだから力を抜く。今夜一晩、この男の妻となるのだ。長い睫毛が、そっと茶色い瞳を覆い隠した。
 くっくっ、と、しゃっくりに似た笑い声が聞こえてくる。静まりかえった部屋の中で、しだいに大きくなっていった。
「兄貴は我慢できねえってよ。エルナン、代わりに片づけてやりな」
 ファビオだった。甲高い声は震えを帯びていて、押し殺した憤りを伝えている。
 背中に刺さるような視線を感じつつ、それでもキーラはほっとしていた。
 片づけを命じられたエルナンは、ひとまず難を逃れる。ファビオはすぐ頭に血を昇らせるが、怒りが長続きするということはない。危機は去ったも同じだった。厨房まで食器を運び、兄の怒りが収まるまで家の外を散歩でもしていればいい。利発な少年には、そのくらいの分別は備わっているはずだ。
 ところが、エルナンの口から飛び出したことばは耳を疑うものだった。
「だめだよ。まだ大事なところが読み終わってない」
 驚いたキーラが振り返るより早く、椅子が床に倒れる音が響いた。
「……てめえ……! なにさまの、つもりだ」
 エルナンの襟首を掴む手が、小刻みに揺れている。眉間に寄せられた皺は深く、少年を睨む眼光は強い。血走った眼には、狂気すら宿っていた。
 思ってもみなかった弟の反抗だったに違いない。いつもならすぐに飛ぶはずの拳が、逆上のあまりか握りしめられたままだ。ぎりぎりと噛みしめた歯の間から、熱い息が漏れている。
「ファビオ」
 激高する次男坊に声をかけたのは父親だった。どすのきいた声に、痩躯がびくりと揺れた。一呼吸おいて振り向いた顔には、小さな汗が浮いている。涼しい顔をしている末弟とは対照的だった。
「エルナンのいうとおりだ。てめえが片づけろ」
 その意味を理解するやいなや、ファビオの額に血管が浮きあがった。兄弟よりもやや色の薄い浅黒い肌が、目に見えて血の色を失っていく。ヘルマンを見据える眼は、殺意すら孕んでいた。
「こいつはマイトを勉強してる最中だ。邪魔するんじゃねえ」
 憎悪のこもった息子の視線を、ヘルマンは一顧だにしなかった。抗弁の機会も与えない。白黒まだらの毛に覆われた黒い顔を向けただけだ。睨みを返すこともしない。
「…………」
 数秒の沈黙の後、次男は顔を背けた。引きちぎるような動作で弟の襟から手を離す。
 鼻息が荒かった。潰された面子を繕うすべが見つからないのだろう。小さな眼があちこちに揺れ動いている。やがて床に視線を移すと、首の後ろにまわした手で長い髪を縛る紐を解く。紐を床に叩きつけ、その上に唾を吐いた。
 それが暴君たる父親にみせることのできた、精一杯の反抗だった。ファビオは屈辱に震える手で重ねられた皿を掴むと、開けっ放しのドアの先へと姿を消す。肩を怒らせてはいるが、広いとはいえない背中が敗北を物語っていた。
 キーラは今度こそ安堵の息をつくことができた。重く張りつめた空気が、気性のはげしい次男とともに去っていった気分だった。
 守りたかった少年に顔を向ける。のんきなものだった。開かれた分厚い書物に目を落としている。暴力を振るわれる一歩手前だったことなど、忘れたかのようなすまし顔だった。
 キーラには解せない。なぜ今夜に限ってファビオを煽る行動に出たのだろう。結果的に父親に救われたから良かったものの、こっぴどく殴られてもおかしくない状況だった。聡いはずのエルナンの考えていることがわからない。爆薬の専門書に没頭している少年の横顔からは、何も読み取ることができなかった。
「あ……」
 胸に抱かれていたことを、キーラは今さらながら思い出した。丸太のごとき太い腕が、きゃしゃなからだを覆う。温いというより、熱い。
 毛だらけの黒い指が顎に伸びる。ふたたび男へと向きを戻された顔は、広い胸へ沈むことを許されなかった。ワイングラスを掴むのに似た手つきで、細い顎が引き上げられる。父親そっくりのごつごつした顔が迫っていた。
 めったに表情を変えないイケルが笑って見えた。笑ったままの顔で口を開き、舌を突き出していた。
 少女の目が伏せられる。紅いくちびるが、わずかに開かれた。分厚い舌が、即座に挿しこまれる。くぐもった声が外に漏れるより先に、口を塞がれていた。
 眉の突端がひくひくと揺れる。涙を見せているわけではなくとも、泣いているとしか形容できない表情だった。垂れ下がった目も、護る長い睫毛も、雪より白い頬肌も、すべてがキーラを儚く見せる。抗うことを知らない少女は、どこまでも弱々しい。
 少女の甘い口内を犯しつつ、小男が短く唸る。節瘤だらけの手が、長いスカートの中を弄りはじめていた。




「はふっ……あ、んっ……」
 手を伸ばせば、届く。わずか一メートル先のベッドの上で、未成熟な肉体が悶えていた。窓から入る蒼白い光が、いっそう白い肌を際立たせている。
 満ちた月の光が強い。闇に目を慣らす必要もなかった。肌に浮いた、汗の一粒までもがはっきり見ることができる。喘ぐ少女の表情も、白いからだに跨る、いかつい肉体をびっしりと覆う体毛の黒ささえも。
 年季の入った木製の寝台が音をたてていた。ぎしぎし揺れて悲鳴をあげる脚がうるさい。
「ちっ……」
 ファビオは聞こえよがしに舌を打った。夜が更けてから、さらに数刻が経っている。山の冷気が寝室を包み、毛布が体熱を吸って温い。安眠に最適といえる心地よさだったが、眼は冴えるいっぽうだった。
 いっこうに眠気は誘って来ない。瞼を閉じたところで、こめかみが勝手に痙攣をはじめるだけだった。忘れるには強すぎる屈辱が、胸を灼いていた。
 ファビオの横たわる二段ベッドの上部には、弟が寝ている。兄を敬うどころか、馬鹿にしくさった弟が。
 思い返すだけで腸(はらわた)が煮える。天井近くの寝台から引きずり落とし、すべての歯を叩き折ってやりたい。二度と本など読めぬよう、両目も潰してくれようか。残忍な衝動に、握りしめた拳が震える。己の妄想に快感すら覚えていた。
 彼にとって、弟は鬱積を発散するための道具にすぎない。人格など認めていなかった。口答えなど許せようはずもない。自分に恥をかかせていい存在ではないのだ。
 幼いころから痛めつけてきた。腕やあばら骨を折ったことも一度や二度ではない。兄である自分に絶対服従するよう、文字通り身体に刻みつけてやったはずだ。
 躾が足らなかった。今夜は思わぬ父からの横槍が入ったが、そのうち思い知らせてやる。這いつくばり、茶色いくせっ毛を地面にこすりつけて謝罪するエルナンの姿が頭に浮かぶ。どす黒い炎が、ファビオの脳裡で大きな渦をつくっていた。
「おおッ、おおおッ……ううッ……!」
 短躯が呻いて、巨岩を思わせる尻をがくがくと揺らした。また、射精したらしい。数えていたわけではないが、五度を超えているはずだ。ファビオの舌が、再度不快そうに鳴った。
 腹の下の少女が苦しげに身をよじるが、自慢の剛腕が逃さない。同じくらいの太さしかないきゃしゃな腰を、隙間なく抱えている。体毛の茂る股間を白い下腹に押しつけ、奥深くで欲望の迸りを注いでいるのだ。吐精による脈動の震えが、幼い肢体にも伝わっていた。
 畜生。調子に乗りやがって。ファビオは胸の内で毒づいた。胸から腹にかけて、排気されることのない憤りが熱い。ひんやりした空気が頬を撫でるが、身中に溜まった熱を冷ますには足りなかった。
 獣液を存分に少女の胎内に吐き出したイケルだが、まだ満足には遠いようだった。余韻を味わっているのだろう。キーラの黒髪を押さえつけて舌を吸っているものの、男根は膣内に押しこんだままだ。息を整えたら、抜かずに突きはじめるつもりかもしれない。ごつごつした右手が、小さなふくらみを弄っている。
 畜生、畜生。愉しみやがって。ファビオの眉間に刻まれた皺が深くなっていく。敵意に染められているはずの視線には、いつしか劣情が混ざっていた。
 若い兄弟にとってこの環境は酷なものがあった。
 狭苦しい寝室には、ところ狭しと三つのベッドが並ぶ。壁側にある寝台は二段になっていて、ファビオとエルナンが使用している。中央に位置するのは長兄イケルのもので、窓に寄せられた大きなベッドがヘルマンのものだった。
 キーラのためのベッドは、存在しない。
 必要がなかった。かならず誰かに抱かれて眠る。生理のときですら、手や口での奉仕を命じられる。共有妻に独り寝は許されない。重い病気にでも罹らないかぎり、割り当てられた夫の性欲を処理する義務からは逃れられなかった。
 少女は毎夜、いずれかのベッドで未熟な肢体を弄ばれていた。未だ無毛な恥丘に指が這い、閉じた柔肉を広げられる。ふくらみの薄い乳は月明かりに光るまで唾液にまみれ、口や脚の間には幾度も白みがかった液体が与えられた。
 責められるキーラの痴態を、男たちは覗くまでもなくつぶさに見ることができた。貫かれてすすり泣く弱々しい声も、古びた寝台の脚が軋む音も、間近で耳にすることができた。
 常に女肉に飢えている兄弟には、口当たりのよい毒に近い。夜ごと繰り広げられる淫靡な光景を、見せつけらるのだ。高ぶらないわけがなかった。昼の労働に疲れきってはいても、股間にみなぎる獣欲を無視できない。安らかなる眠りを得るのは難しかった。
 翌日のしごとに障る。
 頭ではそう思っていても、痛いほどに膨張した股間の怒張が眠らせてはくれない。下着の中で熱を持った怒張は、触れてもいないのに先端を濡らす。目前で行われる淫らな行為の熱気と匂いが、男の情欲を目覚めさせる。か細い声が耳をくすぐり、背に寒気を走らせる。幼な妻が悶える姿から、目を離すことができない。
 しぜんと、硬く張りつめた勃起に手が伸びる。ファビオだけでなくイケルも、そして末弟のエルナンも同じだ。堪えることは難しい。顔を背けるには、雪肌の少女はうつくしすぎる。陰嚢に溜まった青臭い欲望を放出しないことには、眠ることもままならない。血走った目を見開きながら、自慰に及ぶ日がほとんどだった。
「ふぁっ……ふう、んんっ……」
 ふたたび、太い腰が前後しはじめた。今度は後ろからだ。少女を四つ足に這わせておいて、尻からゆっくりと責めている。谷間に出入りする太い肉棒が、てらてらと体液に光っていた。
 幾つも皺ができたシーツの上を、三つ編みの先がこすっていく。たび重なるはげしい性交に、貧弱な腕は支える力を失ったらしい。肘が何度もがくんと折れた。
 紅いくちびるからこぼれる息や喘ぎに、甘いものが混じりつつあった。悲鳴に近かったキーラの声が、湿り気を帯びている。たくましい男根に挿し貫かれるたびに、せつなげなすすり泣きへと変わっていく。
 知らず、ファビオは唇を噛んでいた。滲んだ血が口内に入りこみ、鉄の味ではじめて我に返る。
 股間に伸びかけていた手を戻し、宙で何度も振る。痛いくらいに勃起していたが、自分で処理する気にはならなかった。
 頭を振り、寝返りをうつ。
 背を向けてもふたりの息づかいは耳に入ってくる。寝台の脚が床に擦れる音がうるさかった。閉じた瞼の裏で、すらりとした少女の白いからだがよじれている。現実の声と合わせて、みずから腰を振りたてる。イケルの男根をもとめ、喜悦に頬を染めた少女の姿が見えた。勝ち誇る兄の顔が、くっきりと見えた。
 妄想を断ち切るように、ファビオは黒髪をがりがりと掻いた。歯軋りの音が薄闇に響く。並びの乱れた前歯から漏れる息は、灼けた砂を感じさせるほど熱い。
 ファビオは兄が大嫌いだった。何年も前から、敵意を自覚している。
 幼いころから仲は良くなかった。とくに苛められたり殴られた記憶はないが、構ってもらった覚えもない。兄弟という意識は、昔から希薄だった。
 まったく似ていなかったからかもしれない。イケルは父の血を色濃く受け継いでいる。ファビオは母に似たのか、隔世遺伝なのか、体格も顔も肌の色も共通するところがなかった。
 イケルはヘルマンそっくりに成長していった。頑強な肉体は父譲りで、十四になるころには鉱山で働きはじめた。よく働くのも父と同じで、すぐに仕事を覚え、一年も経たないうちに仲間の信頼を得るまでになった。
 背丈こそ低いが、些細な欠点に過ぎない。成人男性三人分にも匹敵する驚異的な腕力と、一途にしごとへ打ちこむ無骨な姿勢は、しぜんと若者の尊敬を集める。いずれは町一番の鉱山掘りである父を超えるだろうと噂されていた。
 いっぽうでファビオは、十七まで鉱山に入ることを許されなかった。
 鉱山の労働は過酷だ。なによりも体力と筋力が要求される。痩身で肉づきが良くなかったファビオは、成長を待つほかなかった。
 けして遅い年齢というわけではなかったが、他人からはヘルマンの息子、イケルの弟という目で見られる。何かと兄と比較されることが多かった。
 働きはじめてからも同じだった。常に父や兄を引き合いに出され、劣った評価を下される。セルダ家の次男坊というだけで、誰も新米労働者として扱ってはくれない。頼んでもいないのに期待され、勝手に落胆して蔑んだ視線を浴びせる。ファビオにしてみれば迷惑きわまりなかった。
 二十歳になるころには、兄に対する劣等意識が染みついてしまっていた。目を細めて周囲を威嚇するような態度を取るのは、すっかり卑屈になった根性の裏返しだ。若者特有の根拠なき自信も、鼻を折られることもなく消え失せていた。
 イケルが憎かった。自分にないものを、幾つもそなえている。同じ父母を親として、なぜ差がつくのか。兄だけが恵まれている。ファビオが欲するものは、すべて兄によって奪われていく気がした。
 みなの尊敬や評価だけではない。町の男の誰もが渇望する女でさえ、イケルは先に手にしていた。それも、十四のときに。
 相手はエルナンの母、デシレーだ。ヘルマンが妻に迎えて二年、彼女はエルナンを出産したばかりだった。鉱山で働きはじめたイケルを一人前と認め、週に一度だけだったが父から貸し与えられていた。
 当時十七歳のデシレーは並みの容貌に過ぎなかった。キーラとは比べものにならない。それでも、ほかの家の嫁は女衒も相手にしなかった不器量の娘ばかりだ。はるかにうつくしく見えた。父からの贈りもの、ご褒美としてはこの上ない。めったに感情を表に出さないイケルも、このときばかりは喜びをあらわにした。
 女の柔肌を知ったイケルは、狂ったように彼女を抱いた。夜が明け、朝食の用意をする時間ぎりぎりまで、デシレーを組み敷いて離さなかった。ありとあらゆる姿態をとらせて女体を貪りつくす。覚えたての少年の性欲に限りはなかった。
 ちょうどいまのエルナンと同じ十一歳だったファビオは、兄が羨ましくてならなかった。一日も早く一人前になって、デシレーを抱きたい。思いは募ったが、焦ったところでどうにもならない。股間の屹立を毛布の下で慰める毎日がつづいた。
 しかし、デシレーを抱くことはついになかった。彼女はその五年後、この世を去る。ファビオ十六歳。鉱山で働きはじめる一年前のことだった。
 この町では、女たちの寿命は短い。男も長くはないが、さらに短命だった。
 多くは荒淫のせいだった。妻を共有する家がほとんどだ。夜通し責められては、身がもたない。よほど健康に恵まれていなければ、子をひとりかふたり生んだところで力尽き、大抵が若死にする。三十を過ぎて病気もしていない女は稀といえる。デシレーは父子の獣欲に責め殺されたも同じだった。
 ファビオはひとり、慟哭した。
 悲しみのためではない。抱くことなく共有妻を喪ってしまったからこその号泣だった。なぜもっと長生きしなかったと、ファビオは死体に向かって毒づいた。鉱山で働くようになったらおまえを抱けたのだと罵った。それだけが愉しみだったのにと。
 泣き叫ぶファビオの鼻っつらへ、父の鉄拳が襲った。意識が飛んだところで蹴りが浴びせられ、目を覚ます。しばらく焦点が定まらなかったが、床に倒れていることだけは理解できた。巨体が鬼の形相で見おろしていた。まだら髭に覆われた顔が、憤りに赤い。
「みっともねえ。恥ずかしくねえのか、餓鬼が」
 唾とともに吐き捨てる。息子への愛情は微塵も感じられない。汚物でも見るような目つきだった。
 イケルは何もいわなかったが、かわいた眼が軽蔑を語っていた。倒れて動けぬ弟を見おろす視線が冷たい。「弟とは、思わぬ」と無言で宣告された気がした。
 父と兄から顔を背けつつも、ファビオの心は憤怒の炎に包まれていた。
 勝手なことを抜かしやがって。てめえら、デシレーのからだを好きなだけ愉しんだじゃねえか。数えきれないほど股ぐらにチンポをぶちこんだじゃねえか。赤ん坊にやるはずの乳すら、美味そうにしゃぶりついて吸ってやがったくせに。さんざん犯して使い捨てにしたやつらが、偉そうに説教たれるんじゃねえ。
 啖呵をきってやりたかったが、声にはならなかった。
 胸中で罵倒して自分を慰めることしかできない。頬が引きつるほど口惜しかったが、争ったところで勝ち目は万に一つもないのだ。しごとだけでなく、腕っぷしでもヘルマンは最強を誇っている。筋力だけならイケルもひけをとらない。痩躯のファビオがかなう相手ではなかった。
 口の中に広がった血の味と、冷たい床。そのときの屈辱を、ファビオは一日たりとも忘れたことがない。思い出すだけで悪寒が走り、肌が粟立つ。兄の蔑みの視線が脳裡に灼きついて離れない。父だけならともかく、イケルにまで馬鹿にされるのは我慢ならなかった。
 許せねえ。
 兄の無感動な顔を見るたび、彼は奥歯を噛んだ。蓄積された憤りは劣等感とあいまって、今でははげしい憎悪へと成長していた。自信に満ちた風貌も、短足のくせに大股で歩く姿も気に入らない。同じ部屋にいるだけで胸がざわついた。
 広くはない家に同居している。顔を合わせない日はない。ファビオの機嫌は常に悪くなった。殺してやりたいくらいだったが、腕力では到底及ばない。腹立ちは年齢の離れた弟を殴ることで晴らすしかなかった。
 それでもキーラがセルダ家に入ってからしばらくは、ファビオの低気圧もなりを潜める。鉱山仲間の誰もが羨む美形の幼な妻を迎え、浮かれていた。父や兄との共有とはいえ、端整な少女を自由に弄ぶことができる。溜めに溜めた性の鬱憤を、注ぎこむことができる。三つ編みの美少女に心を奪われていた。
 ファビオはキーラに夢中だった。未熟な甘い肌に、どっぷりと溺れた。抱くことの許されない日も、少女を組み敷く妄想が膨らんでいく。夫となれる日には我を忘れた。幼な妻への想いだけが胸を満たし、兄への憎しみは薄れていった。イケルのことなど、眼に入らなくなっていた。
 だが、平穏な日々はそう長くは続かない。三月もするころには、ふたたび血走った眼を兄へ向けるようになる。
 嫉妬だった。
 イケルがキーラを弄ぶのが癪に障る。柔らかなくちびるを奪い、唾液を流しこまれるのを目にすると殺意が背を昇ってくる。毛むくじゃらに抱かれる少女の姿を見ると、憤りを抑えることができない。見せつけるように少女のからだに手を這わせる兄の顔を、薪割りに使う山刀で真っ二つにしてやりたいと思う。
 週に一度という割り当ては同じだが、兄弟で差をつけられていた。ファビオは夜、ベッドに入るまでキーラに触れることを許されない。消灯まで休ませるということになっているが、実際にはヘルマンが手を出している。爆発しそうな欲望と怒りを、彼は床に就く時間まで堪えねばならなかった。
 片やイケルは、一日中幼な妻を好きにできた。しごとから帰り、食事を終えてしまえば後は自由だ。押し倒して跨るのも、ランプの灯りの下で握らせて扱かせるのも、口の中に放出して吸わせるのも、すべて思いのままだった。
「はあうっ……! あっ、ああ、んうっ……!」
 背後から、喘ぎ声と肉がぶつかりあう音が聞こえてきた。間隔が短い。ほどなく太い呻きが吐かれ、寝台が大きく軋む。木製の脚が壊れそうなほどの音だった。
 男女の吐息が漏れてくるまで、いっときの沈黙があった。少女の膣深くに、たっぷりと注ぎこんだに違いない。小ぶりな尻を鷲づかみにし、毛に覆われた下腹部を押しつける小男の姿が、ファビオの脳内に明確な映像として再生されていた。
 ふたりの息づかいだけが、夜明け近くの寝室に響いている。吐息が整ってくるにしたがい、ファビオにもようやく睡魔が降りてきた。顔中につくられていた険が消えていた。
 しかし、寝室の静寂は保たれなかった。ごそごそと、中央のベッドで動きがある。寝台の軋みが小さいところをみると、少女が体勢を入れ替えているらしい。
 夢うつつのファビオの耳に、小さな音が入ってくる。水っぽい音だった。
 ぴちゃぴちゃと。ぴちゃぴちゃと。
「ん、んく……ん……」
 やがてキーラがくぐもった声をこぼしはじめた。ときどき、喉が動く音も聞こえる。
 横たわるファビオの身体が、小刻みに震え出す。眼は見開かれていた。顔中に、憤怒の皺が刻まれている。
 ふたりの体液が付着した男根を、舌とくちびるで拭わせているのだ。飲みこんでいるのは口中に溜まった唾液と、舐めとった体液だろう。太い肉棒を口いっぱいに含まされている光景が、背を向けていてもファビオには見える。
 少女の声と肉棒に吸いつく音からして、清めるだけでは済むまい。口内に射精して飲ませるつもりか、さもなくば十分に勃起するまで奉仕させてから跨るつもりだろう。欲が深いにもほどがあった。イケルはベッドに入る前から少女を玩具にしている。実に八時間近く、キーラは相手をさせられていることになる。底の知れない性欲だった。
 いいかげんに、しやがれ。
 憤りのあまり、胸が悪かった。股間が熱く反応してしまっているのが、よけいに腹だたしい。呼吸を落ち着けるのが難しかった。
「んう……はい……」
 少女は何かを命じられたようだった。動いたのは男だ。寝台の脚と床がこすれて大きな音をたてる。ベッドの上で立ち上がったのかもしれない。いずれにしろ、まだ少女を休ませる気はないらしかった。
「その辺でやめねえか、イケル。キーラが壊れちまうだろうが」
 声はファビオのベッドとは、反対側から響いた。野太い声だった。
 騒がしかった中央のベッドが沈黙する。ファビオは上体を起こし、声のしたほうへ目を向けた。
 すでに夜は明けはじめていた。窓から赤い陽が射しこんでいる。
 巨大な影が、短躯な男と細身の少女を覆っていた。毛布の中にいても冷えるくらいなのに、大男の上半身はシャツ一枚きりしか身につけていない。五十歳近いとはとても思えぬ頑健な肉体は、朝日を背にしているためか、さらに大きく見える。伸びた影の肩が丸く盛り上がっていた。
「寝汗をかいたな。キーラ、身体を拭いてくれ」
 いい捨てて背を向ける。足は寝室の外へと向いていた。
 ヘルマンの要求は、もちろん嘘に決まっている。高山の夜は寒い。この季節なら、摂氏で一桁の気温が普通なのだ。寝苦しさとは無縁といっていい。はげしい「運動」をしていたイケルならともかく、今まで毛布を被って寝ていた男の身体には汗ひとつ浮いていないだろう。
 幼な妻を横取りする口実に過ぎない。居間か厨房でキーラを抱くか、奉仕させるつもりだ。あるいは本当に清拭させてから愉しむ気でいるかもしれない。少女のからだに対する配慮など、本心であるはずがなかった。
 三つ編みの少女は、いつも以上に困惑を顔に浮かべていた。呆然とベッドの端に腰掛けたイケルを気遣っているのか、ちらちらと上目づかいに窺う。かける言葉などあろうはずもなかった。分厚い肉体を誇る男は、床を見つめて動かない。
 もとより選択肢はひとつしかなかった。この家でヘルマンに逆らえる者などいない。ヘルマンこそが法であり、掟だった。欲しいといわれれば、差し出すほかはない。
 キーラはそっとベッドを降りると、素裸のまま寝室を出て行った。暴君に身を捧げに。
「ひっ……ひぃっ、ひっ……」
 壁に寄せられた二段ベッドの下から、甲高い声が漏れる。泣き声に近い響きだ。
 ファビオだった。愉しくてしかたがないといったふうに肩を震わせて笑っている。腰は前に倒され、首は横に曲げられていた。うな垂れる兄の顔を見ようと、下から覗きこんでいるのだ。笑い皺は顔の全面に広がり、口の両端はつり上がっている。狂気に満ちた笑顔だった。
 イケルはじっと弟の嘲笑に耐えていた。相手にしないつもりなのだろう。膝の上で握りしめられた拳が、小刻みに震えている。
 しゃくりあげるような声は、しだいに大きくなっていった。上下段で使用する寝台が、音をたてて揺れている。
 揺れ動く二段ベッドの上で、エルナンは天井を見つめていた。
 薄気味の悪い次兄の笑い声に動揺した様子はない。反応すれば機嫌を損ねると思っているのかもしれない。うるさそうな表情は見られなかった。くせっ毛の下の黒い眼は、ぼんやりと天井を向いたままだ。
 少年の瞼が伏せられたのは、ファビオの笑いが途絶えてからだった。太陽は丸く姿を見せていたが、窓からの陽射しは二段ベッドの上部にまでは届かない。起床までわずかな時間しかないが、陽射しに邪魔されず眠ることはできるだろう。
 浅黒い丸顔は、幸せそうな微笑みで満ちていた。



  恣(ほしいまま) ~共有される幼な妻~ 第四話


テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2010/09/02(木) 15:15:15|
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Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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