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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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陵鬼の森 ~浮気妻 紗江~ 後編 (47枚)


 もう何も考えたくなかった。何もしたくなかった。女のプライドどころか、人間の尊厳を否定されたようなものだ。今すぐ死にたいとすら思う。
 それでも、喉の渇きには勝てない。
 求めるのは水か。それとも気を失って死ぬことか。
 紗枝はふたたび歩きはじめた。




 ふたたび紗枝が歩きはじめたのは、空がすっかり赤く染まってからだった。
 全身が疲労に包まれていた。体力だけでなく、気力もほとんど残っていない気がする。ついさっきまでは、一歩も歩きたくないし、歩くこともできないと思っていた。
 不潔な男根を咥えされ、口の中に射精された。さらに小便まで飲まされたのだ。
 紗枝のプライドは完膚なきまでに叩き壊され、欠片も残ってはいなかった。
 自分のことを、「いい女」だと思って生きてきた。出会った男たちのほとんどが認めてくれたことでもあった。高級ブランドを身に着け、似合うのは素材がいいからだと自負していた。
 フィットネス・ジムでも、男性インストラクターたちの視線が痛いほどだった。紗枝とベッドを共にしたがったのは、明俊だけではない。幾人かのトレーニングパンツの前が膨らんでいたのを、紗枝は確認している。三十を目前にしていたが、まだまだ男を狂わせる容貌を保っているつもりだった。
 しかし、森をさまよういまの自分はどうだ。山中に素裸で放り出され、男を惹きつけるどころか、汚い中年男の便器代わりにされている。美貌も魅力もあったものではない。誇りを失うというより、人間の尊厳じたいを否定された気分だった。
 古森が去ったあと、しばらくは虚脱状態にあった。うつろな目で、呆然と座りこんでいた。もう、どうなってもいい。どうせ助からないのだから、早く死にたいとさえ思った。
 自己を喪失しかけた紗枝を衝き動かしたのは、やはり渇きだった。古森の小便を喉に注がれ、一時は飢渇から逃れ得たかに思えたが、そうではない。多量の塩分を吸収したからだは、さらなる水分を切にもとめていた。
 喉が、熱い。ひりつく痛こそ消えていたが、水への渇望はときが経つにつれてはげしくなっていく。とても、じっとしていられない。死を待つにしても耐えられなかった。
 力の入らなくなった足をなんとか動かし、歩みを進める。柔らかいはずの土と雑草の上が、剣山のように感じる。通ったあとには血の足跡ができていた。
 水を探してはいるが、見つかるという希望は半ば捨てていた。きっと、水を口にすることなく、渇いて死ぬ。歩いているうちに意識が朦朧としてきて、気づかぬうちに倒れるのだ。
 そのあと、目覚めることがなければいいと思う。もう目覚めの後の絶望は二度と経験したくなかった。楽に死なせてほしい、望むのはそれだけだ。
 ふらふらと上体を揺らして歩く。膝がぶれて何度も倒れそうになった。いっそのこと倒れてしまいたかったが、まだ意識ははっきりしている。渇きは変わらず喉奥をじわじわと責めたて、吐く息を熱くさせていた。このまま倒れても、苦しみがつづくだけだ。平穏な死が迎えられるとは思えない。倒れないのが不思議なほどよろめきつつ、紗枝は山道を進んだ。
 日が落ちていく。灼けていた空が、徐々に闇へと染まりはじめる。いくつかの星が、輝きを強めていた。
 もうだめだ。いよいよ歩けない。足裏の痛みもにぶくなってきた。吹き抜ける風の冷たさも、よくわからない。
 ここまでだと思ったそのとき、風に乗って何か音が聞こえてきた。
 聞き違えているのだと、思った。幻聴なのだと。
 しかしラジオやTVの砂嵐に似たその音は、確実に紗枝の耳に届いていた。感覚の薄れた足を踏み出すたびに、音は大きくなっていく。
「はっ……はあっ、はあっ……」
 紗枝は知らず走り出していた。失せかけていた足の痛みがぶり返したが、構わなかった。川のせせらぎのするほうへ、ふらつきながらも駆ける。
 深い笹薮に飛びこんでもなお、紗枝の足は止まらない。水の流れる音が強まるにつれ、笹を踏みつける踵に力がみなぎっていく。腕や脚、肌を鋭い葉の端で切りつけられても、勢いは増すばかりだった。
 高い木々の葉によってつくられた暗がりが薄れはじめる。大木が姿を消し、笹の背が低くなる。開けていく風景の奥に、しぶきの上がる渓流が見えた。
 山の音すべてが、川の流れにかき消されている。紗枝が発した、喜びの叫びでさえも。
 涙が頬をつたい、顎からこぼれ落ちる。ひどく熱かった。紗枝は這うようにして、流れに向かう。何も考えられない。喉を潤したいという欲求だけが、肉体を支配している。
 手で水をすくう間も惜しかった。鼻から下を流れの強い川面につけて、がぶがぶと喉に送りこむ。溺れそうな勢いだった。安全な水なのかどうかは、もはやどうでもいい。そんなことを気にする余裕はなかった。
 水は冷たく、美味しかった。冷水が喉を通り、胸を流れ落ちていく。すばらしく気持ちがよかった。全身に水分が広がり、染みわたるのを感じる。生気が戻りはじめていた。
 紗枝は川の水を夢中でもとめつづけた。強い流れにときおり咽びながらも、飲むことをやめない。喉の渇きはとうに癒えていたが、まだまだ飲み足りなかった。水に飢えきっていた反動なのか、ひどく貪欲になっていた。空きっ腹が水でふくれはじめている。
 素裸で這って水をむさぼる姿は、獣そのものだった。本人はむろん、意識していない。飢えて山中をさまよい、やっと見つけた川に狂喜する裸の女は、群れからはぐれ、ひとりぼっちになった牝となんら変わるところがなかった。
 牡を見つけ、からだを差し出して頼る以外に生きのびるすべがないということも。
 白い尻が、高くかかげられている。
 川面へ顔を浸しているためだった。上体が低くなったぶん、下半身が高い。ごくごくと喉が鳴るたびに、隆起した肉が細かく揺れる。笹の葉によって無数の擦り傷ができてはいたが、たるみのない、うつくしい尻だった。
 その双丘の谷間に、後ろから触れる者があった。黒い茂みに覆われた秘所を、何かがなぞりあげる。音のすべては渓流に吸収されている。近づいた気配に、紗枝はまったく気づいていなかった。
「んむうっ……?」
 驚いてつんのめった紗枝の頭が、川面に半ばほど埋まる。慌ててついた手は激流にもっていかれ、上半身までもがさらわれてしまいそうだった。
 はげしい流れにもがく女体を、屈強な腕が引き上げる。丸太のごとく太い腕が、きゃしゃな腰を抱いていた。ごつごつと固い前腕の表面には毛が生えておらず、代わりに爛れた皮膚が流れ、へばりついている。
「ぼ、ぼおおぉ……」
 獣に似た唸り声が、すぐ頭上から聞こえた。紗枝はからだをびくりとふるわせつつも、逃れようとはしなかった。
 抵抗は無意味だ。この森の中では、素裸の女など一匹の獲物にすぎない。狩られるしかないのだということを、紗枝は悟っていた。下手に逆らって怒らせたくはなかった。自分のからだが欲しいなら、与える。紗枝はそっと男の手をとり、股間へと導いた。
「すきなだけ、していいから……やさしく、おねがい……」
 ことばが通じているかどうか、わからない。ともかく態度であらわそうと思った。後ろから抱かれたまま、顎をいっぱいに反らす。川の水で濡れた頭頂部を、巨漢の腹へと押しつけた。肌が溶けた顔を、紗枝は恐れを押し殺し、媚びた瞳で見つめる。
 血の線が幾つも走った眼は、瞬きひとつしない。
 昨夜は気づかなかったが、鼻の頭の一部が欠けている。まだ日は沈みきっておらず、醜い容貌をよく確認することができた。右目の半分を覆う溶着した皮膚も、ちぎれたように途中から失せている下唇の片端も。
 間近で見ると化け物そのものだった。目を背けたくなる。紗枝は堪えて、ぎこちない笑みをつくってみせた。
 吹きかけられる熱い息が頬をくすぐる。腰のあたりに硬いものが押しつけられていた。
 紗枝は無言で上体を前へ傾け、川辺に生えた草の上に手を置く。肩幅に脚を開くと、わずかに尻を上げてみせた。
 獣の牡を、迎え入れるつもりだった。




「ぼおッ、おおおッ……!」
 頭の上で獣が吼えている。背中が熱い。巨体が、後ろから覆いかぶさっていた。
 腰の上から肩甲骨の上まで、ぴたりと肌が合わさっている。頭頂には大男の顎が乗せられ、呻くたびに振動が伝わった。
 「くうっ……う、うっ……」
 背後から貫かれ、紗枝は苦悶の声をこぼしている。フランケンが夢中で腰を揺すっていた。背中が男の腹と擦れ、べとついた汗が混じりあう。熱気が満ちていた。
 すでに日は落ち、星が空を埋めつくしていた。星の光に照らされ、川の飛沫が微かにきらめいている。
 川のほとりに手をついたまま、紗枝は三度、男の射精を受けていた。
 挿しこまれた怒張は、膣を押し開いて往復している。子宮の入り口を何度も小突き、それでもなお根もとまで埋まらない。紗枝のきゃしゃな肉体には、大きすぎる代物だった。伏せた睫毛が、小刻みにふるえている。
 にちゃにちゃと、結合部から淫らな水音が響く。大男が放った体液が、逆流して膣口からあふれ出していた。潤滑油の役割を果たしているが、それでも巨根を受け容れるのは楽ではない。ひと突きごとに息が途切れる。根まで止められてしまいそうだった。
(はやく……はやく、終わって……)
 苦痛から逃れたかった。何度射精すれば気が済むのか。放っても放っても、休みなく挑んでくる。早漏なのか、いちどの時間は長くはない。長くはないが、呻いたと思ったらもう腰を動かしはじめているのだ。果てのない獣欲だった。
 挿入してから、いちども肉棒を引き抜かれてはいない。注がれた精液がどのくらいの量になるのか、想像もつかなかった。ひどく濃厚な精子が、胎内にたっぷりと溜まっている気がする。この化け物は本能のままに自分を犯しているのだ。孕ませようとしている、と紗枝は思った。
 男の野生というものを、知っているつもりだった。フィットネス・ジムのインストラクターとの浮気で、若くたくましい男をたっぷりと味わっている。女にたいする飢えも、荒々しい劣情も、心得ているはずだった。
 男なんか単純なものだ。若ければ若いほど扱いやすい。性欲が強ければなおさらだ。加瀬明俊のような筋肉馬鹿は典型だった。ほんのすこし流し目をつかうだけで、尻尾を振ってついてくる。
 紗枝は男という生き物を、半ば蔑んでいた。その気になれば、手綱をつけて好きに操ることができる。うつくしい女に奉仕するために、男は存在を許されているのだ。
 だが紗枝の価値観は、この不気味な森では通用しない。思い知らされていた。
 紗枝は一匹の牝にすぎなかった。強い牡に狩られ、犯される。這わされ、牡が満足するまでお尻を提供しなければならない。からだを玩具にされ、吐き出される体液を膣に受け止めなければならない。
 手綱をつけるどころではなかった。
 この化け物をコントロールすることなど、不可能に思える。爛れて醜い外見といい、巨大な肉体といい、同じ人間とは思えなかった。野生的というよりは、野獣そのものだ。理性が備わっているのかどうかも、あやしいものだった。
 男根じたいが凶器に近い。洋物のポルノで黒人のものを観たことがあるが、それと同等以上だった。内側を抉られ、子宮の入り口をこじ開けられている気がした。女の防衛本能がはたらいて多少濡れてはいるが、高ぶってもいない状態で突きこまれても苦痛しか生まれない。
(痛いっ、痛いの……お願いだから、はやく……はやく、射精、して……)
 激痛が声となって漏れるのを、紗枝は必死で抑えている。血が滲むほどに、下くちびるを噛む。悲鳴が男の劣情を誘うこともある。さらに勢いづいて責められるのは避けたい。深く閉じたまぶたに、涙が浮いた。
 四つん這いのからだを支える腕も膝も、限界が近かった。肘ががくがくと揺れている。大男が上からのしかかっているのだ。後ろから突きまくられて、よくここまで耐えていられたものだと思う。いまにもつぶれてしまいそうだった。
 川淵の泥土に広げた手が、沈みこんでいる。突かれるたびに、少しずつ指が泥に呑みこまれていった。
 三度射精したせいか、フランケンはなかなか果てなかった。硬い肉棒が膨張して膣壁を広げているが、吐精にはいたらない。腰を前後に振りたてるだけの単調な刺激に、男根が慣れきってしまったのかもしれない。大男は気持ちよさそうに短い喘ぎを漏らしているが、紗枝にはもはや余裕がなかった。
 いっそのこと気を失いたいくらいだったが、その兆候もない。きしむような肉体の疲労と、女の部分への痛みがあるだけだ。
 もう堪えきれない。賭けに出るしかなかった。紗枝は口中の唾を、音をたてて飲みこんだ。
「あっ……ん……おねがい……射精、して……いっぱい、注いで、いいから……」
 顎を上げ、頭の上の男へと哀願する。せいいっぱい、鼻にかかった声を出したつもりだった。
 溶けて流れた皮膚がへばりついた太い首が、すぐそばに見えた。大きな出っ張りのある喉が、上下に動く。はっきりと、音が聞こえた。
「ぼふう……ぼふう……」
 尻から貫いていた男根が動きを止める。息を整えているのか、胸が大きく膨らみ、縮む。興奮した息遣いが、紗枝の背中に伝わっていた。
 ことばの意味が伝わっているのか、わからない。黄色い歯の間から漏れる息と喘ぎが、乱れている。フランケンが高ぶっているのは間違いなかった。
 巨体の上半身が離れる。冷たい風が、汗にまみれた背を撫でていった。暑苦しさから解放され、紗枝が静かに息を吐く。夜風が気持ちよかった。
「うっ、うぼおっ……!」
 獣の咆哮が背後から浴びせられると同時に、両肩を掴まれていた。股の間に挿しこまれた肉棒が、奥まで突き入れられる。
「ひっ、ひいっ……!」
 子宮が突き破られそうだった。背が反り返り、上体が苦痛にぶるぶるとふるえる。
 揺れが伝わった乳房を、野球グローブのように大きな掌が包みこんだ。二本の指が小さな乳首をつまむ。鋭い痛みに、紗枝はふたたび悲鳴を放った。
 双つ並んだ柔らかな玩具がお気に召したらしい。フランケンは両手をまわし、紗枝の乳丘を弄った。揉みしだくたびに響く泣き声が、鼻の穴を大きく膨らませている。眼球に血の線が駆け巡っていた。
「ううっ……痛い、痛いっ……おねがい、やめて……やさしく、してえ……」
 賭けたのは失敗だった。夫にも明俊にも見せたことがなかった媚態が、裏目に出ていた。化け物の獣性を呼び起こし、劣情に火をつけてしまった。いまの紗枝にできるのは、身をよじって泣くことだけだ。
 細いからだが身悶えするのに構わず、たくましく太い腰が動きはじめた。膨れあがった肉の棍が狭い膣壁を出入りする。広げられた割れ目が痛々しい。周囲を覆う陰毛にへばりついた白い粘液が、振動によってしずくを落とした。
「ぼおッ……おおッ、おッ、おッ……」
 乳房を握りしめる分厚い手はそのままに、男の尻が小刻みに揺れる。呼吸の間隔が短くなるにつれ、前後する腰の勢いも増していく。
 か細い女の泣き声は、かぶさった獣の喘ぎに打ち消された。逃れようと伸ばした手は、薄闇の虚空をさまよっている。
(痛いっ、痛いっ……!)
 股間と胸をつぶされる痛みに、紗枝ははげしくもがいた。振り回す腕が巨躯の脇を叩き、肘は厚みのある横腹を打つ。密着された体勢から苦しまぎれに繰り出した攻撃だ。ぺちぺちとわずかな音をたてただけで、蚊に刺されたほどの痛みも与えることはできない。
 フランケンはしかし、煩わしいとは思ったらしい。お仕置きのつもりか腰を丸め、顎の下にあった紗枝の耳たぶを口に挟み、がぶりと噛みついた。
「ぎいいっ……!」
「ぼふおおおッ……!」
 女の悲鳴にすこし遅れ、獣が吼える。全身を苦痛にふるわせた紗枝を、しがみつくように大男が抱きしめていた。ぶるぶると腰をこまかく揺らし、だらしなく開いた口から遠吠えに似た喘ぎを漏らしつづけている。
「ひううっ……あうう……」
 ドクドクと巨根が痙攣するのを、紗枝は下腹部の奥で感じていた。子宮口に直接、亀頭をこすりつけて射精しているのだろう。胎内に熱い精液が溜まっていく。どろりと濃い白液で満たされた膣奥が脳裏に浮かんだ。
「おおう……ぼおう……」
 獣欲を女体に注ぎこみながら、フランケンは満足げに唸っていた。肉皮の存在しない唇の右端から、唾液がだらだらと垂れる。受け止めたのは女のうなじのあたりだった。耳には、くっきりと歯型が残っている。一部から血が滲み出ていた。
 耳を噛んだ瞬間、女の膣が締まった。引き抜くことができないほどの、急激な締めつけだった。それまで巨大な男根に責められ、広げられるだけだった女肉が、とつぜん逆襲に転じたのだ。膣壁に肉棒をきゅうきゅう握りしめられ、精液をしぼりとられていた。
 四度目だというのに、男根は何度も何度も弾け、大量の獣液を吐き出した。
 大男は脈動を終えても動こうとせず、じっと細いからだに抱きついたままだ。よほど吐精の快感が深かったのか、爛れた顔は朱に染まり、眼には潤みすら帯びている。
(終わっ……た……)
 紗枝はうつろな瞳で川の流れを見つめている。荒淫に消耗した肉体がひどく重い。抱きとめられていなかったら、倒れてしまうだろう。指の一本も動かしたくない。何も考えたくなかった。自分と化け物の吐く息の音が聞こえているが、どこか遠い。
 胸やお尻を弄られているのも、もはや気にならなかった。力まかせに揉んだり引っ張られたりしているようだが、痛みさえ薄い。
 やがて暑苦しさが引いていった。目の前に草がある。頬に冷たさを覚えて、はじめて自分がうつ伏せにくずれていることを悟った。
 風が、音もなく肌を通り抜けていく。
 激流の音が耳の奥に入りこむ。うるさいくらいなのに、なぜか聞こえていなかった気がする。光る水しぶきが冷たそうだった。
 流れに混じって、鳥の鳴き声が聞こえてきた。姿は見えないのに、闇から闇に響き渡る。得体の知れない感じがして、不気味だった。
 幾度か風に吹かれるたびに、寒くてじっとしていられなくなった。上体を起こし、辺りを見回す。大男の姿は消えていた。吐き気をもよおすほどの熱気も、肌を去っている。混じりあった汗は、汚れとなって残るのみだった。
 膝の上を、もぞもぞと這いずるものがある。身ぶるいしつつ、目を向けた。脚がたくさん生えた虫が、すばやい動きで太股へと登ろうとしていた。
「……いやっ!」
 手で払ったあとも、おぞましさは抜けなかった。地についたふくらはぎの下で何かが蠢いている錯覚にとらわれ、あわてて立ちあがる。
 からだが冷えきっていた。昨夜はファーのついたジャンパーがあったが、今はそれもない。だいいち、昨日は途中から気を失っていたのだ。山奥での夜を経験するのは、はじめてといっていい。
 どうしていいか、わからなかった。太股がふるえだしている。
 忌まわしげな鳥の声があちこちで聞こえた。木々の間を飛び回る羽の音も。
 川の流れる音ですら、胸をざわつかせる。
 寒くてしかたがなかったが、闇夜を歩く気にはならなかった。足の裏は破れているし、疲労が鉛のように重く全身に留まっている。川辺こそ開けているものの、すこし歩けば笹薮の中だ。空が見えなくなる。昼間でも陽がほとんど射さないのに、夜に歩を進めることができるとは思えない。
 山道の位置も、わからなくなっていた。川のせせらぎに惹かれて、笹原をかき分けて無我夢中に歩いてきたのだ。迷わずに戻る自信はなかった。
 せめて風から身を隠したいとは思う。笹薮に入れば、少しは冷たい風を防いではくれるだろう。でも暗闇はいやだ。理屈ではなかった。人の本能は闇を恐れる。人工の灯に慣れ、照明のない闇夜を知らぬ紗枝はなおさらだ。
 この場から動くこともできない。風に揺れる枝葉が、おびえる紗枝を嘲笑っているように見えた。
「うあ……あああ……うあああ……」
 いまできるのは、泣くことだけだった。川べりに立ちつくしたまま、紗枝は泣いた。手で顔を覆うこともせず、子供というより赤子のように泣きつづけた。
 泣いたところで、どうなるわけでもない。けれども泣かずにはいられなかった。泣きでもしないと、精神を保てそうにない。夜の闇は恐怖を何倍にもふくらませていた。情けない泣き声でも漏らしていないと、底の見えない絶望に包まれてしまいそうだ。
 夜の森も、怪しげな鳥が騒ぐ声も、虫も、喉を潤してくれた川の流れさえも、何もかもが怖かった。
 ここには、紗枝の味方はいない。叫んでも助けてくれる者はいない。優しい夫にも、浮気相手の明俊にも、紗枝の声は届かない。独りぼっちだった。
 先のことを考える余裕はすでにない。
 夜が怖い。夜の闇が怖い。不気味な暗い森にたった独り。それが何より怖い。
 声が出なくなるまで、涙が枯れるまで泣いて、その後がどうなるのか、考えたくもなかった。
 風がまた、吹き抜ける。刺すような冷たさだった。
 思わず両手で自分を抱く。くしゃみが出た。
「あううう……さむい……」
 鼻をぐすぐすとすする。
 膝がぶれはじめると、ふるえはすぐに全身に伝わった。両腕を絡めて胸を抱きしめてみるが、気休めにもならなかった。足の裏から膝、そして脊髄へと、痛みを伴った冷えが昇っていき、氷のように留まっている。
 寒さは肉体から泣く元気すら奪っていく。声が出せなくなっていた。
 少しでも体温を保とうと、その場に屈む。川の音がうるさかった。腹がぐう、と音をたてる。そういえば空腹だった。水だけは豊富にあるが、飲む気にはならない。からだをいっそう冷やすだけだ。
 かちかち、という音が、ひどく近くで聞こえる。自分の歯が鳴っていたと悟るのは、しばらく経ってからだった。可笑しかったが、笑うだけの気力がわいてこない。頬だけでなんとか笑みをつくる。引きつった笑顔になった。誰に見せるわけでもないのに、どうして笑わないといけないのだろう。自分のやっていることが、わからなくなってきた。
 もう、だめかも。目を閉じる。
 もう、いいや。あきらめてみても、寒さに変わりはない。吹きつける風は強くはなかったが、冷気に満ちている。軽い頭痛を覚えていた。
 それでも紗枝は目を開けなかった。このまま死のうと意識したわけではない。ただ、放棄したのだ。あがくことも、考えることも、生き延びようと努力することも。
 鳥が羽ばたき、薄気味悪い声をあげたが、気にしなかった。紗枝は川辺にしゃがんだまま、微動だにしない。
 石像のようだった。風が吹いても、ぴくりともしない。
 何も考えなかった。何も思い出さなかった。
 紗枝は閉じたまぶたの奥で、深い闇だけを見ている。みずからを闇に溶かして、消えてしまおうとしている。生も死もなかった。すべてのことから、逃避しようとしていた。
 背を虫が這いずっても、意に介さない。何も感じていないのかもしれない。瞑想する修行僧に近いところがあった。
 どれくらいの時が過ぎ去ったのだろう。
 肩に熱を感じた。
 次に覚えたのは、振動だ。頭が前後に振られている。両肩を掴まれて、上半身ごと揺さぶられていることに気づく。
 何が起こっているのか、さっぱりわからなかった。まぶたが重い。目を開けたくなかったが、これ以上脳を揺らされたくなかった。
「んん……」
 思わず声を漏らすと、振動は止まった。
 肩には分厚く大きな手が乗っている。目が慣れてきた。振り返らなくともわかる。指も甲も、溶けて爛れていた。あいつが舞い戻ってきたのだ。
「ぼ、う……」
 小さな呻き。振り向け、と命じられたような気がした。
 肩から手が離される。背後で衣服のこすれる音が聞こえた。ズボンを脱いでいるのだ、と悟るまで、さして時間は要しなかった。
 きっと下半身を剥き出しにしている。天を衝く巨大な男根で、また嬉々として紗枝を貫く気でいるのだろう。
 あれだけ射精して、まだ足りないのか。どれほど弄べば気が済むのか。犯して犯して、突き殺すつもりなのだろうか。紗枝はため息をついた。
(もう……好きにしたら、いい……)
 覚悟を決めた。思う存分に、このからだに吐き出せばいい。どうせ拒むことはできないのだ。痛いって泣いても、許してはくれない。好きに弄べばいい。性の人形になってやる。自虐的な気分で、紗枝は振り向く。
「えっ……」
 フランケンはズボンを下ろしていなかった。闇と同色の服を上下に着込んだまま、片手を紗枝の眼前に差し出している。
「これ……」
 大きな手の中には、銀色に輝く板状のものが乗せられていた。わずかな星明かりの下でもはっきりとわかる。半分ほどで折られていたが、チョコレートだった。
「ぼふう、ふう……」
 銀紙ごと、鼻先に押しつけてくる。ほのかに甘い香りがした。
「くれる、の……?」
 大男は大きく、何度もうなずいた。爛れた顔から正確な感情を読み取るのはむずかしい。紗枝には微笑んでいるように見えた。片目の半分が皮膚で埋まった顔が、どこか柔らかい。
「あり、がとう……ありがとう……」
 両手で、そっと食べかけのチョコレートを受け取った。
 銀紙を剥いて、口に挟む。甘い。舌の上で溶かしているうちに、涙が出てきた。一日半ぶりに口にした食べ物は、とても美味しかった。食べ残しであろうと関係ない。
 「ありがとう」という言葉が、自然に出ていた。空腹だと思って、持ってきてくれたのだ。犯すも殺すも自由にできる男が、紗枝のために。嬉しかった。胸が熱くなった。
 チョコレートはあっという間になくなってしまった。空腹を満たす量には遠い。それでも紗枝は元気を取り戻していた。遭難よりなお絶望的な状況で、思ってもみなかった優しさに触れたのだ。糖分を摂取できたということだけでなく、萎えて枯れていた精神に潤いがもたらされていた。
 手についたチョコレートの溶けかすまで、紗枝はぺろぺろと舐め取っている。見下ろすフランケンは心なしか満足げだった。皮膚の流れた頬が持ち上がっている。
「ぼうう……」
 低い声を漏らしたと思うと、大男は紗枝に背を向けた。挨拶のつもりなのか軽く片手を上げ、歩き出す。巨体なのに足音を感じさせなかった。黒い後ろ姿が、闇に溶けていく。
「ま、待って……!」
 夜陰に隠れてしまう前に、紗枝は走り出していた。長時間屈みこんでいたので脚が痺れる。それでもくずれた体勢のまま、紗枝は駆けた。黒い、大きな影に向かって。
 今までよりずっと大きな恐怖が、背すじを貫いていた。吹き抜ける夜風よりも冷たく、体内の熱を瞬時にして奪う。常闇と化したおびえに、押しつぶされそうだった。
 もう孤独には耐えられない。死ぬことよりも飢えることよりも、独りになるのが怖い。追っているのは自分を陵辱した、人間とも思えぬ化け物だ。突き殺されるのではないかと思うほど、何度も犯された。牝としか思っていないのかもしれない。
 それでも、飢えた紗枝に食べ物を与えてくれた。行かせたくなかった。人肌が恋しかった。犯されてもいいから、冷えきったからだを暖めてほしかった。
 倒れこむようにして、太い腰に抱きつく。岩のような固さだった。驚いたのか、フランケンが小さく呻く。フリースのパーカーらしき上衣に、紗枝は頬をこすりつける。大粒の涙が瞳からあふれ、毛玉だらけの布地を濡らした。
「おねがい、行かないで……!」
 爛れ顔を見上げ、紗枝はすがりつく。演技ではない、心からの哀願だった。ホラー映画に出てくる怪物のような顔も、もはや気にならない。自分にはこの男が必要なのだ。
「おねがい……おねがい……」
 睫毛のない眼が、瞬きもせず紗枝を見つめている。口が半開きだった。戸惑っているのかもしれない。一部が欠けた鼻の穴が広がっていた。
「見捨てないで……ひとりに、しないで……」
 紗枝は顔を離し、上着の裾に手を潜りこませた。ずたぼろのカーゴパンツには、ベルトが通っていない。股間の前のファスナーを下ろし、尻の上に手をかける。フランケンがごくりと唾を飲みこむのを見届けてから、いちどにズボンを膝まで下げた。
 巨大な男根を包んでいたのは、意外にもブリーフだった。元は白だっただろう下着が、股間部分を中心に黄色く変色している。星明かりの下でもはっきりとわかるくらいだった。一週間くらい履き替えていないのかもしれない。汗だけでなく、小便の汚れも混じっていそうだ。
「あなたの、女に、して……おねがい……」
 黄ばんだブリーフに、紗枝は頬を押しつける。顔を左右に振り、頬だけでなく鼻も、くちびるをも埋めてみせた。
 臭いはそれほど気にならなかった。アンモニア臭が鼻腔をついたが、それでも顔をしかめるほどではない。慣れてしまったのかもしれない。
 汚れた下着の中で棒状の物体が膨張するのを、紗枝は頬で感じていた。布を通しても熱が伝わってくる。頭の上で、湿った鼻息が落ち着きなく吐かれている。仰ぎ見ると、血走った目には期待がありありと描かれていた。
 どう見ても不気味で異様な相貌なのに、子供の表情を思わせる。これから行われることに胸をふくらませているような、笑顔とも困惑ともつかぬ顔をしていた。
 紗枝は大きなブリーフを脱がせる間、フランケンの顔から目を離さなかった。高ぶっているのは、疑いようがない。片端が失われた下唇をしきりに舐めている。求められていることは、言葉にできなくとも伝わった。
 下着を下げると、汗や小便とは違う匂いが鼻の奥を刺激した。男女の体液の混じりあった匂いだ。巨大な勃起に、乾いて付着しているのが見える。ひどく臭かったが、紗枝は眉ひとつ動かさず顔を近づけた。幹の裏側に、頬を押しあてる。
「ぼ、おッ……」
 前髪に熱いほとばしりが降りかかる。熱い肉棒が収縮するのを、紗枝は頬で感じていた。髪の先から白液が垂れる。先走りでなく、少し漏らしてしまったらしい。
 女に触れられるのに慣れていないのだろう。女を犯すことはあっても、奉仕されたことはないのかもしれない。ぜえぜえ、と荒い息が吐き出されている。
 紗枝は睫毛を伏せて幾度か頬ずりをした。鈴口に留まっていた粘液が、ぬるぬると肌を汚す。怒張の体温に劣らず、溶けたロウのような熱を持っていた。
 男根には焼け爛れが少なかった。よく見ると、太股にも火傷痕がほとんどない。体毛こそ生えていないものの、火ぶくれの見られない部分も多かった。
 膨らんだ大きな亀頭は、まったくの無傷だった。大男の身体で、いちばんなめらかな部位かもしれない。ほのかな星明かりの下で、つやつやと黒光りさえしている。
 体液に濡れた先端を、紗枝は口に含んだ。生臭さが口の中に広がったが、息を止めて吸いついた。
「おッ……ぼ、ぼうッ……!」
 太い脚が細かく震える。同時に、紗枝の口内に苦い汁が放たれていた。先走りだ。
(気持ち、いい? ……いいのね? もっと、してあげるから……)
 上目づかいの瞳で訴え、肉棒を咥えたまま鈴口に舌を這わせた。あふれ出た汁を、押しあてた舌ですくいとっていく。舌上に乗せた粘い露は、唾液にからめて飲みこんだ。
 舌先は笠の隙間を責めている。溜まった汚れや滓を掃除するつもりだった。
 この怪物の女にしてもらうことしか、紗枝の頭にはない。気に入られるためには、何でもする。紗枝の武器はからだしかない。心から尽くし、奉仕し、犯してもらう。所有物として認識していただかなければならない。抵抗や葛藤は微塵もなかった。
 理屈ではなかった。極限状態におかれたことで、強い牡を求める牝の本能に目覚めたといっていい。紗枝は牝になりきっている。夫のことも、明俊のことも忘れていた。
「んく……ちゅぷっ……」
 口いっぱいに巨根を頬張り、吸う。それでも亀頭を含むのがやっとだ。口の中で肉棒が熱い。紗枝は濡れたくちびるで先端を締めつけつつ、肉茎を両手で握り、扱いた。
「お、ぼおおッ……」
 歓喜に満ちた呻きが放たれる。温かく湿った口内で、硬く巨大な男根がさらに太さを増した。舌の上には次々と熱い飛沫が振り撒かれ、女の細い喉が動く。岩のごとく固い尻が、小刻みに揺れていた。
 限界が近そうだ。掌の中の肉棒はひどく熱かった。はげしく両手でこすりつけながら、紗枝は男の顔を見つめている。濡れた瞳が射精を誘っていた。
(お口の中に……いっぱい射精して……!)
 媚びをふんだんに含んだ眼差しで囁いた。ぽってりとしたくちびるから、淫らな音がひときわ大きく響いている。鼻を鳴らし、紗枝は勃起にむしゃぶりついた。
 夢中だった。小便と体液で汚れた肉棒を、美味しいとさえ思う。愛しいとも思う。
 服従する悦びに、女の芯が熱い。被虐の炎が胸を焦がしている。生まれてはじめて覚えた隷属の高ぶりに、火がついていた。
 気持ちよく放出していただくつもりだった。牝になった証として、放たれたものはすべて飲み下す。たくさん射精してもらいたかった。牝の口で快楽を得てほしい。欲望の液を吸いだそうと、紗枝はちゅうちゅうと先端を吸いたてた。
「ぶ、ぼおおおぉッ……!」
 頭頂を分厚い手に掴まれる。力強さに驚く暇もなく、獣の牡が吼えた。
「んぐうう!」
 熱い塊が、舌の上を、頬の内側を叩きつける。噴出する音さえ聞こえそうな勢いだった。
 くちびるに、はげしい収縮が伝わっていた。膨らんでは吐き出し、吐き出しては膨らむ。男根の脈動は幾度も繰り返され、口内は濃度の高い濁液で満たされていく。
「うぐう……んんっ……」
 獣の腕に力が入る。鷲づかみにした頭を、股間へと引き寄せていた。くぐもった声が、肉棒を吸いあげるくちびるの間からこぼれる。
 紗枝は頬を涙で濡らしつつ、それでも献身的に射精を促していた。脈打つ硬い肉茎を両手で挟むように扱き、びゅくびゅくと噴出を繰り返す尿道口を舌で撫であげる。息継ぎすら忘れ、亀頭の笠をくちびるで締めつけ、すすった。
「んくっ……ごきゅっ……うぐっ……」
 咽せつつも注がれる精液を飲みこんでいく。苦しくて味もわからなかった。昼に飲まされた古森の精液より、はるかに濃厚で、喉にからむ。咳きこみそうになるのを堪え、紗枝は何度も喉を鳴らした。
「うぼ……おう……」
 大男が長い吐精を終えたときには、粘液のほとんどは口内から姿を消していた。あきれるほど大量の放出だったが、紗枝は口から垂らすこともなく飲み干した。
 爛れ顔は満ち足りた顔で紗枝を見下ろしている。ところどころ欠けた顔が不気味だったが、陰茎を口にしたまま紗枝は微笑んでみせた。
「ん……ちゅ……んく……」
 残り汁を吸い出しながら、肉棒を口から引き抜く。くすぐったそうに目を細める醜怪な顔が、少しだけ可愛らしく思えた。
 疲れたのか、大男はその場に腰を降ろした。
 紗枝はしなだれるように太い腰に手をまわし、ともに倒れこむ。股間に顔を埋め、湯気が昇りそうな男根に頬をこすりつけた。
「あ……」
 驚くべき回復力だった。放出を終えたばかりの男根は、柔らかな頬肌に撫でられただけで硬度を取り戻しはじめる。五回も射精しているとは思えぬ精力だった。
「すごく……たくましい……」
 さんざん貫かれて苦悶の声をあげたことも忘れたのか、紗枝はうっとりと頭を持ち上げた肉棒を見つめている。上気した顔が淫らだった。たっぷりと獣欲の汁を飲まされたばかりだというのに、物欲しそうにくちびるを舐めている。
「こんなに大きいの……はじめて……」
 勃起の先に軽く口づけをすると、紗枝は大男の上体を押し倒した。仰向けに寝かせておいて、腰の上に跨る。天を衝く怒張を愛でるようにそっと握ると、自身の黒い茂みへと導いた。
「かたくて、熱い……。これでもういちど、わたしを牝にして……」
 媚肉の裂け目はすでに湿っていた。隷従することで煽られた炎は、いまだ消えてはいない。陰毛についた雫が、淡い光っている。大きな亀頭を割れ目へ宛てがい、紗枝は静かに腰を落とした。柔肉が押し広げられ、肉棒が飲みこまれていく。耳障りなほどの渓流の音の中で、かすかに粘った露の音がした。
 低い声で、大男が呻く。皮膚の溶けた顔の筋肉が緩んでいた。
「ああん、すごい、すごい……奥までとどいちゃう……」
 大男の腰の上で、隆起した尻が上下している。
 太い男根が出入りする様子を、紗枝は見せつけるように腰をくねらせた。ふたまわり以上大きな手を取り、揺れる乳房へと誘う。揉みしだかれる手の力に遠慮はない。形が変わるほど鷲づかみに握られても、紗枝は小さな悲鳴ひとつ漏らさなかった。
「はあ、んっ……もんで……もっと、おっぱい……」
 仕える悦びが、紗枝の心を灼いていた。からだ中が燃えるようだった。
 暗く危険な森で、主を手に入れた。きっとわたしを守ってくれる。このからだで奉仕して、満足させているかぎり、見捨てないでいてくれる。紗枝は何度も自分に言い聞かせた。不安を頭の中から追い払い、豊かな尻を振りたてる。
「はんっ……あうっ……気持ち、いい? また、いっぱい、射精、してっ……」
 結合部から淫らな音が響いている。夜が明けるまで、交わっているつもりだった。




 古森辰夫は苛立っていた。ランドクルーザーのエンジンを切り、車外へと降り立つ。
 小雨がぱらついている。登山靴が湿った土に沈んだ。車のタイヤが泥だらけになっていた。
 紫煙を深く吸いこむと、短くなった煙草を水溜りに向けて放る。鼻から煙を出しながら、胸のポケットから携帯電話を取り出した。
 苛立ちの原因はこれだった。運転中、何度も着信音が鳴り響いていたのだ。メールを確認する。また、あの小僧からだ。古森辰夫はいまいましげに唾を吐いた。
 放ってはおけないかもしれん。口の中でひとり呟き、新しい煙草を取り出して火をつけた。
 空を見上げる。雨はやみそうもない。銃は置いていくことにした。山の天気は変わりやすい。古森辰夫は万一の落雷を怖れた。
 半月ぶりに山に入ったというのに、ついてない。ハンチング帽の脇からのぞくこめかみに、青筋が浮いていた。
「まあ、今日は様子見だで」
 言葉に出して自分に言い聞かせると、銜え煙草のまま歩き出す。思ったより地面がぬかるんでいた。昨日も雨降りだったらしい。足をとられないように、古森辰夫は慎重に歩を進めた。
 歩くのは山道だ。雨の中、笹薮に入る気にはならなかった。空も暗い。いくら慣れた山とはいえ、迷わないという保障もない。
 しばらく歩くうちに、雨脚が強くなってきた。簡素なレインコートを身につけてはいるが、あまりひどくなるようなら引き返さなければならない。
「こりゃ、無駄足だったかもしれん」
 風を通さないレインコートの内側は蒸している。ぬかるみを進むうちに不快さが増していた。ただでさえ、苛々していたのだ。銃を持っていれば、一発ぶっ放したいところだった。
 気を落ち着けるために煙草を取り出そうとポケットを探ったときだった。がさがさと、笹を揺らす音が耳に入った。後ろのほうからだ。
 振り向くと、十メートルほど先の笹薮の中に、白い肌が見え隠れしていた。山道に出ようともがいているらしく、手をばたつかせている。ひどく緩慢な動作だった。
 赤ら顔をにやけさせながら、古森辰夫はゆっくりと近づいていく。
「まだ、生きとったんか」
 ようやく薮から抜け出した女を見下ろし、低い声で話しかける。
 女は裸体だった。からだのあちこちが泥で汚れている。立つ気力もないのか、ぬかるんだ地面に手を沈みこませていた。雨に濡れた黒髪が、肌にへばりついている。
「お、ねがい……ひとり、に、しない、で……」
 息も絶え絶えといった様子だった。かろうじて見上げた顔は、生気がなかった。痩せ細っているというほどではないが、消耗が甚だしいのは見てとれる。目の下にできたくまが深い。肉体よりも精神が参ってしまっているようだ。
「小便、したくなったで」
 意地の悪い笑顔を浮かべ、古森辰夫はズボンのファスナーを下ろした。萎びた陰茎を、裸の女へと向ける。
 女はのそのそと動いた。瞳にわずかな光が戻っている。泥が付着した手で、小さな男性器をつまむ。
「おねがい……飲むから……トイレになるから……見捨て、ないで……」
 くちびるに包皮の先端をこすりつけて、女が哀願する。頬に、雨ではない液体が筋をつくっていた。
 赤ら顔はにたにたと口もとを歪ませたまま、何も答えない。
「んっ……」
 あきらめたように目を閉じ、女は陰茎を口に含んだ。それでも希望を捨ててはいないのか、口内で皮に覆われた肉棒を舌で転がす。
 隷従を示す態度も、献身的な奉仕も、古森辰夫には通じなかった。ぶるん、と腰を震わせ、排尿を開始する。
「うっ、ぶっ……んくっ、んぐ……」
 注がれる小便を必死になって飲みこむ女を見下ろし、古森辰夫は満足げにうなずいていた。不快な気分が、小便と共に吐き出されていく。代わりに黒ずんだ業火にも似た炎が、胸の中で渦を巻きはじめる。眼に残酷なにぶい光が宿っていた。
 もって一週間て、ところだで。
 胸の中で呟く。
 始末をつけるときの銃は何にしようか。古森辰夫は残滓を吸わせながら考えていた。



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  1. 2010/07/01(木) 14:14:14|
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Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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